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 サッカーのある風景 04/09/04 (土) <前へ次へindexへ>

 土砂降りの中で


 文/竹井義彦
 先週の土日は、台風の影響もあり二日とも雨が降っていた。
 ご存じのようにサッカーは雨が降っても中止にならない。たとえどんな土砂降りでも落雷の恐れがあるときは別だが、試合は行われる。私にとって一番印象に残っている雨の中の試合はといえば、日韓ワールドカップの前年に行われたコンフェデレーションカップの準決勝だろう。私の家からそんなに遠くない横浜国際競技場でおこなわれたこの試合。ご存知のように、中田のグラウンダーのフリーキックが決まり、勝っている。

 なぜそんなに印象が強いのかというと、私が住んでいるマンションの立体駐車場が、あまりの豪雨のために故障して、動かなくなってしまったからである。「バケツをひっくり返したよう」という表現があるが、この時はバケツどころか風呂桶でもひっくり返したんじゃないかというほどの豪雨だったのだ。それでも試合は行われた。

 もちろん子どもたちの試合は別なことが多い。
 公式戦の場合は日程の都合で強行することはあるが、そのほとんどはパラパラと降る雨のことが多く、本格的に降った場合は中止になることがほとんどだ。

 先週の土日、私たちのチームは奥寺杯に参加した。今年で五回目のこの大会は横浜市緑区サッカー連盟が主宰でおこなわれ、協賛として横浜FCも名を連ねている。天気が心配だったが、大会要項には「雨天決行」と書いてあった。土曜日は霧雨状態で、これなら強行しても大丈夫だろうという天気ではあった。もっとも、それがいかに甘い認識だったか、あとで身をもって知ることになった。

 霧雨はたしかに短時間であれば大したことはない。が、一日外にいると、知らない間に身体全体がぐっしょりと濡れてしまっているのだ。おまけにこの日は気温が低く、ただじっとしていると鳥肌が立ってしまうほど寒かった。
 身体を充分に暖めてから子どもたちには試合をさせたが、ハーフタイムで戻ってくると全身びっしょりで、寒さもあってか動きはいつも通りではなかった。それでもグラウンドがぬかるむことはなく、ボールを蹴ったり、ドリブルしたりすることに関しては問題はほとんどなかった。



 予選リーグを勝ち抜いた翌日の日曜日。
 この日の雨は、本格的なものだった。集合場所で車に分乗したときは、まだ降り出す前でこのまま保ってくれればと思っていたのだが、やがて降りはじめた雨は会場が近づくにつれて強くなり、ウォーミングアップをするときには本格的な雨になっていた。
 グラウンドの状態を確認してみると、くるぶしの辺りまで水が溜まっているところもあり、ぬかるむどころの騒ぎではなく、浅目のプールだといってもいいほどだった。
 ところどころに土の部分が見えているだけなのだ。

 最初、まず身体を暖めてと思っていたが、予定を変更して、ドリブルの練習をメインにウォーミングアップさせることにした。このグラウンド状態でボールがどんな動きをするのか慣れておかなければ、いざ試合になったときに面食らうかもしれないと心配になったからだ。ボールが水たまりの部分を通過すると、勢いを奪われてボールが止まってしまったり、水面でスリップして突然早くなったり、雨の中でしか体験できないボールの動きを子どもたちは判ったはずだ。

 それでも、シュート練習の時には、濡れるのが嫌なのか水たまりをこわごわと避ける子もいたりして、どんな試合になるのかちょっと不安だったが、それは杞憂に終わった。
 私も試合の後、主審として土砂降りの中でピッチに立ち、その理由がよくわかった。
 まるでシャワーを浴びているようだったが、試合がはじまってしまうとそんな感覚もすぐに忘れてしまった。いったん濡れてしまえば、それがごく当たり前のように動けてしまうものだ。

 子どもたちには、グラウンド状態を考えて、なるべくボールは大きく動かして、ゴールが見えたらすぐにシュートを打つように試合前に指示を出していた。試合がはじまると、キックオフのボールを敵のゴール前まで蹴り込み、攻めはじめた。が、やはり基本的にはいつものサッカーの延長だった。ボールをドリブルで持ち上がり、ゴール前にクロスを上げる。細かなパスをゴール前で繋いだり、グラウンダーのパスを出そうとしている。

 雨だからとそうそう切り替えることはできない。
 それでも、試合が進むにつれて、高めの位置でカットしたボールはゴール前に放り込んだり、浮かしたボールでパスを繋いだり、子どもたちなりに、いろいろと工夫している様子が見て取れた。

 決勝点は、きれいなシュートではなかった。ボールをカットした子がそのままドリブルで持ち上がると、ディフェンダーをかわして、ペナルティエリアに侵入したところでシュート。このシュートはキーパーの正面をつき、弾かれてしまったが、こぼれたボールめがけてスライディング、その勢いでゴールに押し込んだ得点だった。試合後に話を聞くと、蹴ろうとしたけど転んでそのまま滑ってしまったそうだ。雨の中、しかもこのグラウンド状態だから決めることができたゴールということがいえるかもしれない。



 ハーフタイムの時テクニカルエリアに設置されたテントに子どもたちが戻ってきたとき、不思議そうな顔をしている子がひとりいた。

「どうしてベンチに戻ったの?」
 この子は、一生懸命プレイしていて、いまがハーフタイムだというとことに気がつかなかったらしい。

「どうしてベンチに戻ったと思ったの」と尋ねると「雨が凄くなってきたからだと思った」と答えた。
 きっとこの子にとっては時間の感覚がいつもとは違ったのかもしれない。それほど、土砂降りの中での試合は、特別なものだったのだろう。

 雨の中での試合が果たして子どもたちにとっていいものなのか、それとも、体調のことを考えるとあまり勧められたものではないのか、私には判断できない。確かに、子どもたちにはなるべくベストなコンディションで戦ってもらいたいといつも願っている。けれど、やはりサッカーという競技はたとえ土砂降りでも試合は行われる競技なのだ。

 そのことを改めて教えられた週末。子どもたちも、そして私も貴重な体験をしたことには違いない。もしかすると、私にとってこれが一番印象に残る雨の試合になるかもしれない。
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