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 サッカーのある風景 05/09/24 (土) <前へ次へindexへ>

 サッカーしねま! 第5回 「グッバイ レーニン」


 文/砂畑 恵
 先日の衆院選で296議席を獲得し、自民党が圧勝したのは皆さんご存知のことと思います。それは郵政民営化などの行革推進を国民は支持するとともに、生活、財産、生命など私たちに拘るすべてを小泉政権に信託する意思を表示したということでもあります。この結果を受けて連立政権を組む公明党を合わせた与党の議席は衆院全体の3分の2を越えました。

 この"3分の2"という数字は国政にとって非常に重要な意味をもっています。例えば、今回の衆院解散となった原因は参院での郵政民営化法案を反対多数によって否決したことが発端です。しかし現状の衆院議席配分ならば、そのまま衆院に差し戻される形となる法案を出席議員の3分の2以上の多数で賛成があれば可決をみることが出来ます(日本国憲法 第4章 国会 第59条 第2項)。また日本国憲法 第9章 改正 第96条 第1項には「憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し…」とあり、つまり衆参両院の双方で総数3分の2以上の賛成があれば、国の根幹である「憲法」を改正する第1段階クリアーするわけなのです(但し、改正するには国民投票により過半数の賛成が必要)。

 ところで与党が圧倒的な勝利をした日本とは反対に、来年にW杯を控えたドイツでは今、ちょっとした政治混迷にあります。今月18日にドイツでも総選挙が行われましたが、現政権を担うシュレーダー首相を輩出する社会民主党(SPD)と、今回の選挙で第1党に返り咲いた野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は、共に過半数に達せず、この2大政党を中心に自由民主党(FDP)、緑の党との連立政権を模索している最中。政党カラーから命名された「信号政権」(SPD=赤、FDP=黄、緑の党=緑)となるのか、または「ジャマイカ政権」(CDU・CSU=黒、FDP=黄、緑の党=緑)なるか、現在は綱引きが続いています。

 さて日本とドイツの共通点と言えば、第2次大戦に敗戦したことを契機にそれまでの国家体制を廃し、すべての価値観を揺るがすような経験を体験したということ。アメリカ主導の占領統治で民主主義を採択した日本に比べ、米・英・仏・ソによる分割管理下にあったドイツは東西に分裂を余儀なくされました。

 私は団塊の世代よりもずっと後に生まれ、もちろん当時の日本の混乱振りを知る由もありませんし、恐らく今の日本では政権政党が変わっても民主主義体勢は維持されると思っています。しかしドイツ国民、特に旧東ドイツに住んでいた同年代の人々は、1989年のベルリンの壁が崩壊したことにより激動する世の中を肌身を持って感じたはずです。

 な〜んて、固い話で始まった今回の「サッカーしねま!」。ご紹介したいのは、東西ドイツ統一で歓びに満ちた旧東ドイツの中で、ある青年だけが家族にそれをひた隠しにして「東ドイツ生活」を守ろうとする、その奮闘振りをコミカルに描いた「グッパイ レーニン」です。
【ストーリー】
 テレビ修理店に勤めるアレックス(ダニエル・ブリュール)は東ベルリンに住んでいる。
家族は母・クリスティアーネ(カトリーン・ザース)と姉・アリアーネ(マリア・シモン)の3人。父親は10年前に家族を捨て西側へと亡命。そんな夫に対する反動でか、母親は他に類を見ないほど熱心に社会党員の活動をしていた。

 けれどアレックスは今時の青年だ。ある日、軽い気持ちで反社会主義のデモ行進に参加したところ、逮捕されてしまう。それを目撃した母親はショックのあまりに心臓発作を起こして入院。そのまま昏睡した状態で8ヶ月の月日は過ぎて行った。折しもベルリンの壁が崩壊し、東ドイツは劇的に変貌を遂げていく。

 そんな中で母親が覚醒し、帰宅することが許された。だが医者から「もう1度、強いショックを受ければ命は保証出来ない」と聞かされたアレックスは、さあ大変。東ドイツが消滅したことを母親に悟らせないよう、様々な方法で幻の東ドイツ生活を作り出していく・・・

 この映画は新人脚本家のベルント・リヒテンベルクがXフィルムに持ち込んだ、5枚の草稿がもとになり、10年の歳月を経て映画完成に至りました。03年ドイツ・アカデミー賞で最優秀作品賞ほか9部門、04年のアカデミー賞では最優秀外国語作品賞など錚々たる受賞経歴を誇り、国内外に高く評価されました。

 最近の日本では朝鮮半島情勢のニュースも多く、韓国と北朝鮮ではハングルといっても言葉(方言)は若干違う事は知られていますが、ドイツも西と東では違うようで、例えば宇宙飛行士を言い表すにしても、西ドイツでは「astronaut」とアメリカが語源となり、東ドイツは「cosmonaut」と旧ソ連の影響を受けています。ですから東ドイツ出身のカトリーン・ザーネはともかく、西ドイツ出身のダニエル・ブリュールらは方言指導を受けたようです。

 さて、統一後の東ベルリンの街には悪名高い東ドイツ車・トラバントに混じってベンツが往来し、マクドナルドの店舗やコカコーラの広告など西の生活が溢れていきます。そんなドイツの変貌を具現化するエピソードの最たる物が90年のイタリアW杯のテレビ放映シーン。元々、東ドイツ時代の東ベルリンでも西ドイツのテレビ番組は受信できたようですが、大ぴらにすれば反体制派と看做されてしまいます。そういう背景もあって、西ドイツ代表の活躍に大熱狂する旧東ドイツの人々の姿は、まさに自由を謳歌していることを意味しています。尚、同大会で優勝した西ドイツのNo.6は言わずと知れた浦和のブッフバルト監督です。


「グッバイ レーニン」(2003年ドイツ映画)
原著: Bernd Lichtenberg
監督: ヴォルフガング・ベッカー
出演: ダニエル・ブリュール、カトリーン・ザース
マリア・シモン、チュルパン・ハマートヴァ
時間: 121分
   
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