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 サッカーのある風景 05/02/08 (火) <前へ次へindexへ>

 Again 0424! パーフェクトゲームをもう一度。

 文/西森彰
 その夜"コクリツ劇場"から溢れ出した大観衆は、つい先ほど目の前で起こったことを何とか言葉にしようと、潰れた喉からかすれ声を搾り出した。「これだけ興奮したゲームは記憶に無い!」。2004年4月24日、日本女子代表はアテネへの扉をこじ開けるとともに、女子サッカーが素晴らしいスポーツエンターテインメント足りうることを証明した。

 1年近く経った今でもあの晩のことは頭をよぎるし、暇な時にはビデオテープを取り出してしまう。2002world.comでは、中倉編集長と私のふたりがレポートを書いたが、当日の写真は一枚も使われていない。使用に耐えうる写真が撮れた人間がいなかったからだ。もちろんスタッフは何人も国立霞ヶ丘陸上競技場のスタンドにいた。しかし、揃いも揃って全員が、その空間が生み出す熱狂の渦に飲み込まれていた。現場にいたことを終生、誇りにできそうなゲームだった。

■そんなゲームがなぜ生まれたのか。

 第一には選手とスタッフが持てる力の全てを発揮し、それまでに蓄積してきたものを具現化して見せたことだろう。度重なる合宿で、北朝鮮殺しのコンセプトは理解していたものの、これほど見事なサプライズアタックが決まるとは思ってもいなかった。ピッチの中でプレーした選手はもちろん、ベンチで戦況を見守った上田栄治監督も「まさか、ここまで嵌るとは」というのが正直な気持ちだったはずだ。そしてそれを支えたのがスタンドから送られる大声援だった。

 試合の勝敗を最終的に決するのは選手であり、チームスタッフであり、関係者の力だ。ファンは選手に代わってボールをゴールに蹴りこむことはできないし、仮にできたとしても得点が認められるわけではない。「俺たちが勝たせてやる」というのは、プレーしている選手に対して、ちょっと傲慢な発言であるとも思う。だがその一方で、ごくごく稀にではあるが、ファンの思いというのが試合結果を左右するだけのエネルギーを帯びることがあることも理解している。

 あの日の国立がそうだった。試合前に相手を無駄に挑発するような行為は、ほとんど見られなかった。そして選手入場、君が代と徐々にボルテージを上げ、キックオフからは90分間(+ロスタイム)、蓄積されたエネルギーを放出していったのだ。ミスを咎めるブーイングではなく、ミスを帳消しにするポジティブな声援が、送られ続けた。それが「正真正銘のホームゲーム」を創り出した。

 久しく忘れかけていた雰囲気だった。8年前のウズベキスタン戦以来かもしれない。レプリカユニフォームは大きな市場を獲得していたわけではなく、今ほどスタンドは青くなかった。しかし、日本代表の選手たちと一心同体になって戦う、一人一人の気持ち、決意がスタンドには充満していた。そのプレッシャーが試合開始直後にPKへつながり、気持ちを前に向かせるコールが、決定機を外しまくった城彰二にゴールを挙げさせたと思う。

 当時を知る古株は「本当のサッカーファンだけが集まっていたから」なんて得意げに語り、都合の悪いことは口を閉ざして黙っている。実際は「この試合に勝てば、日本はワールドカップに優勝するの?」なんていっていた女の子もいたし、野球観戦と同じようにビールを飲みながら騒ごうとしていたサラリーマンのグループも混じっていた。女子代表の試合だって、8割以上の人間はスタメンの名前を諳んじることなどできなかったし、半数以上の人間は女子サッカーの試合なんか見たことも無かった。

 それでもテレビ観戦している人間からは「音声操作なんかじゃ作れない、本物の歓声が聞こえていたよ」と言われた。死に物狂いで戦う選手と、死に物狂いで選手を後押しするファンが創り出した空気に、利害を感じていなかった第三者さえ巻き込まれていったからだ。そうじゃなければ、試合終了間際にブロック一体がスタンディングオベーションでアイーダを歌うメインスタンドなんてできるわけがない。

■「オマエらのハートに『ダイヒョウ』の誇りはあるのか?」
「代わりにそこでプレーしたい奴が日本中に溢れているんだぞ!」

 さいたまスタジアムに入れる幸せな5万人余りは、天から降ってくる自分の唾に気づいたほうがいい。平日、そしてさいたまスタジアムでのナイター開催と、ハードルはなかなか高い。都内で働く人たちは終業ベルで飛び出してもギリギリ、定時で帰れないサラリーマンなどこの国には掃いて捨てるほどいる。受験生たちは「俺たちが自由になる3月シリーズまでつないでくれ」と念じながら机に向かっているかもしれない。そして、抽選で外れた多くの人たち…。

 明日、スタンドに入るあなたたちは、彼らの代わりに来ているのだ。ただ勝つだけなら、観客の半数が居眠りしていても大丈夫だろう。ファン代表の誇りの有無は自分自身が問えば良い。しかし単なる勝ち点3ではなく、パーフェクトゲームを目指すのなら、やることはひとつだ。アビスパ福岡の応援ではないが「来れない奴らの為にも、日本勝たせようぜ!」。
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