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 福岡通信 02/12/27 (金) <前へ次へindexへ>

 スポーツが文化たりうるために(5) 〜アビスパ福岡の再生のために
 シンポジウム「もう1つのワールドカップ〜Jリーグ百年構想 ホームタウンづくりへ」

 文/中倉一志
 二宮清純氏によれば、ヨーロッパに行くと、どの町にも必ずオーケストラとスポーツクラブがあるそうだ。それほどヨーロッパでは文化を大切にしているのだと言う同氏は語る。
「人は生きてて良かったと思うために生きている。そして、どちらかといえば、生産性のないものの方が目的となることが多い。そんな中でスポーツを文化として定着させるには、どのように産業化するかがポイント。個別の儲けではなく、トータル的に見て豊かになれることが大切だ」

 スタジアム通いを続けている人たちは、スポーツが自分を豊かにしてくれていることに既に気づいているはずだ。かく言う私もそのひとり。典型的な日本型サラリーマンだった私はワーカーホリックと化し、休みも取らず、仕事以外のことは何もせず。友人といっても会社内か取引先の人間ばかりで、利害関係が全くないといったら嘘。仕事以外で地域と触れ合うことは全くなく、いま思えば何を目的に生きていたのか不思議になるほどだ。

 ところが「スポーツ界の黒船」であるJリーグは私の生き方を180度変えてしまった。性別、年齢、会社における肩書き、そんなものに全くとらわれず、サッカーという共通言語を通して生身の自分を受け入れてくれる仲間が出来た。そこには先入観や偏見にとらわれた人間関係はなく、ただ1人の人間としての純粋なコミュニケーションがある。いつの間にやら、中年親父の携帯電話のメモリーは100件を超え、いまだに増えつづけている。こんな経験をしたのは私だけではないだろう。

 しかし、日本の社会に染まってしまった多くの人たちには、こうした現実は見えていない。スタジアムへ通ってくれさえすれば実感できるのだろうが、スポーツが文化であるという実感を持たず、ただ勝った、負けただけでスポーツを判断する人たちをスタジアムに連れてくるのは難しい。やはり、スポーツを産業として捉えることによって様々な面で私たちが豊かになることを示し、そして実感してもらうことはスポーツを文化として理解してもらうためには欠かせないことだと思う。



 しかし、その役割の先頭を走るべきアビスパ福岡の現実は理想とは程遠い。そんなアビスパ福岡に対し、二宮氏も手厳しい発言をする。必ずしも勝つことだけが全てではないとする同氏だが、「現場は勝たなければダメ。でないと甘えが出る。まして福岡は勝ちを放棄しているわけではないのだから勝つことが必要」と手厳しい。今年のアビスパ福岡の13億5千万という予算を上げ、「これだけ使って、この順位では投資効果という点からみて明らかにおかしい」と指摘する。

 クラブとは一体どうあるべきなのだろうか。「フロントと選手が一体にならなければならない。クラブの営業とチームの強化は一体。それを実現するためには全体のバランスを見て経営を行なうGM(ゼネラルマネジャー)の存在が欠かせない。そして、誰が、どういう責任と権限を持っているかを明確にし、それぞれがプロにならなければプロの組織は成り立たない」。この発言に会場に集まったアビスパ福岡サポーターたちは大きくうなづくばかりだった。

 更に二宮氏は続ける。「クラブは常にバランスシートを見て投資効果という点をチェックすべき。そしてクラブのグランドデザインを明確に描き、それがどのように進行していくかを常に確かめていくこと。全てはグランドデザインに基づいて行なわれるべきで、具体的なグランドデザインを持たないクラブは経営が成り立たない。それどころか非常に危険な状態に陥ってしまう」。アビスパの現状は何も知らないと何度も念押しをする同氏だったが、会場の誰もが二宮氏がアビスパ福岡に対して檄を飛ばしてくれたと理解していた。

 二宮氏のアビスパ福岡に対する厳しい指摘は選手たちにも及ぶ。「福岡は何でもある。とにかく恵まれている。そんな環境に、多少選手たちが甘えているところがあるんじゃないか、自分たちの豊かさに気が付いていないんじゃないかと思う。敢えて厳しさが必要かもしれない。恵まれた環境の中で好きなサッカーができる。なんで頑張らないんだろう。中央集権を地方主体に、それをスポーツからやって欲しい。九州は活気がある、凄いところだとアピールしてもらいたい」



 私は福岡に移り住んで4年目になるが、二宮氏の指摘どおり、福岡という町はスポーツ文化を育むには非常に恵まれている土地だと思う。総人口約129万人にものぼる大都市福岡は情報量という点では何の不自由も感じない。また、高速バスを利用すれば九州の主要都市へは2時間程度で行ける。鹿児島でさえ飛行機を利用すれば40分。福岡市の中心である天神からわずか10数分で福岡空港へ行けるため、飛行機利用についての不便はない。全国の情報のみならず、九州の情報を集めることはさほど難しいことではない。

 加えて、スポーツ施設が豊富であることも挙げられる。住民の数や利用者から見れば、まだまだ少ないと指摘する声は多いが、それでも都会地と比較すれば遥かに利用しやすい環境にある。それに、福岡市の中心部から少し行けば、まだまだ広大な土地が広がっている。その気になりさえすれば、スポーツ設備をさらに充実させることは十分に可能だ。それに南国の気候が1年中を通してスポーツを楽しめる環境を作り出している。

 そして何より文化に対して理解のある土地であることが大きい。ダイエーホークスがある。コンサートのほとんどは必ず福岡へやってくる。相撲もある。映画も来る。博物館もある。アジアとの交流も深い。そして、福岡出身の芸能人が多いことが示すように、芸能に対する理解度も高い。ようするに、文化でくくれるものは全てあるのだ。そんな環境にサッカーが切り込めるのかと危惧する声もあるが、むしろ文化への理解度が高い福岡には、他のものと分け隔てなく新しいものを受け入れてくれる土壌がある。

 そんな福岡にも負の遺産はある。かつて野武士軍団とよばれ、豪快な野球で日本を制した西鉄ライオンズ(太平洋クラブライオンズ→クラウンライターライオンズ)を手放してしまったこと。そして「黒い霧事件」により不世出の名投手と呼ばれた池永選手を失ったことだ。今はダイエーホークスが福岡の象徴として活動しているが、福岡からプロ野球の灯が消えた日のこと、そして未だに名誉回復が行われていない池永投手のことに心を痛める人は多い。しかし、だからこそ、福岡にはスポーツを文化として定着させる義務があるのだと思う。

 残念ながら、アビスパ福岡はそんな環境を生かしているとは言い難い。それには複雑な事情が絡みあっているのだが、それにしても、もっとやり方はあるはずだ。「アビスパの事情は何も知りませんよ」。笑顔で何度もくり返していた二宮氏だったが、この日の発言は、「アビスパ頑張れ」という檄を飛ばしてくれたものと捉えたい。そしてシンポジウムの最後に、「今日の話を持ち帰って、それぞれの人が考えて欲しい」と締めくくったコーディネーターであるRKB毎日放送株式会社の中西一清アナウンサーの言葉をしっかりと受け止めたい。



 実に有意義な2時間半だった。その反面、残念だったこともあった。会場となった都久志会館の収容可能人数は600人強。しかし、会場は3分の1程度しか埋まらなかったことだ。シンポジウムの告知はアビスパ福岡の公式HPと博多の森で行われていたが、それ以外で告知を見かけることはなかった。この日のパネラーの顔ぶれを見れば、広く告知をすればもっと多くの人たちが参加してくれたはず。確かにサッカーが中心のシンポジウムだったが、サッカーに限らず、スポーツを愛する人たちに広く告知して欲しかった。

 加えてメディアの関わり方について改めて考えさせられた2時間半でもあった。アビスパ福岡のことを地元メディアが取り上げる機会は少ない。それどころか、アビスパ福岡がスポーツ文化を担う起点になるべき存在であることや、スポーツを文化として捉える大切さといった視点からの報道が行われることは皆無に等しい。地元メディアも地域住民の一部。地域住民がどうあるべきなのか、それを積極的に発信していくことはメディアとしての大きな役割のひとつだろう。

 勝って注目を浴びれば大きなスペースを使って報道し(それでも、その量はとても地元メディアとは思えないほどの少なさだが)、負ければ情報量を減らすばかりか、批判記事しか掲載しないというのでは寂しすぎる。住民の関心が高いものを扱うのは当然のことだが、それと同時に文化を育てるという大きな役割も忘れるべきではない。しかし残念ながら、スポーツ文化の定着という観点では、送り手であるメディアよりもサポーターのほうが進んでしまっているという現実がある。メディアに携わる人間の一人として大いに反省するとともに、今後、こうした視点からの報道が増えることを望みたい。

(この項終わり)



※このレポートは「online magazine fantasista 2002CLUB」に掲載されたものです。
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