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 福岡通信 03/02/03 (火) <前へ次へindexへ>

 女子サッカーを考える その2


 文/中倉一志
 1月12日から始まった第24回全日本女子サッカー選手権大会が26日に幕を閉じた。決勝戦に進出したのは、日本の女子サッカー界を引っ張る田崎ペルーレと日テレ・ベレーザ。この大会に先立って行われたアメリカ遠征に参加した選手の半数以上が両チームに所属し、さらには代表経験者も擁する両チームの戦いは、日本一を決定するのにふさわしい顔合わせ。決勝戦は予想にたがわぬ好ゲームになった(試合の詳細はこちらから)

 ボールをよく動かしてピッチ一杯に展開し、両サイドから積極的に攻めていくペルーレの攻撃サッカーはダイナミックそのもの。その組織力は他の女子チームを寄せ付けない。そして個人技と能力の高さなら日テレ・ベレーザ。1対1の戦いでは、ほとんど負けることはなかったのではないか。組織力で攻めるペルーレと、堅い守りから個人の力を軸にカウンターを仕掛けるベレーザ。軍配はペルーレに上がったが、実に面白い試合だった。

 私が全日本選手権の決勝戦を観戦するのは今年で3回目だが、そのレベルは確実に上がっている様子が窺えた。会場に訪れていた川淵キャプテンも、予想を超えるレベルの高さに驚いたようで、「一人一人の技術がすごく上がっている。90分間、本当に必死になって頑張るので、こんな試合は、やっぱり多くの人に見てもらいたい」と感想を述べた。公式入場者数が1,389人というのは、いささかさびしかったが、それでもスタジアムに訪れた観客はサッカーの面白さを満喫したに違いない。

 しかし、その一方で、この大会は日本の女子サッカー界の問題点を浮き彫りにしている大会でもあった。大分、広島、東京と大会を追いかけて1回戦から決勝戦まで取材を行ったが、決勝戦に進出した2チームを除けば、そのレベルは決して高いとはいえない。ペルーレとベレーザの2強と、そのほかのL・リーグとの差、さらにはL・リーグと地区代表チームとの差は顕著で、大会は日本女子サッカー界の縮図といってもいいものだった。



 ペルーレ、ベレーザの2強以外のチームで気になった点をいくつか挙げてみよう。まず気づいたのがクロスボールが正確に上がらないということだ。どのチームも両サイドから崩すという意識は高いのだが、深い位置からは満足にクロスボールが折り返せないシーンが目立った。そのため、せっかくサイドを崩してもチャンスに結びつかない。折り返せたとしても、それはゴール方向に上がったという程度のもので、これではサイドを崩した優位性は生かせない。

 次にあげられるのがゴール前での瞬発力不足だ。2列目からDFラインの裏へ抜け出るスピードや、ゴール前のスペースに飛び込む瞬発力は残念ながら不足しているといわざるを得ない。そのため、攻勢に出ているようでもゴール前での迫力に欠け、ゴールが生まれにくいという印象を持った。この点について、以前2002CLUBにコラムを掲載していた後藤健生氏が、第22回全日本女子選手権決勝戦の感想として同様のことを指摘されていたが、今も変わりはないようだ。

 では、日本の女子サッカー界のレベルが低いのかというと、そうではない。アジアでは、中国・北朝鮮の2強に続く3番手の位置を確保。世界選手権には第1回から連続出場を続けており、アジアではトップクラスの実力を有している。先に行われたアメリカ遠征では世界チャンピオンのアメリカと引き分けた。また、ユース年代はアジアチャンピオンチームとして第1回(2002年)FIFA U-19世界選手権に出場、ベスト8に進出する活躍を見せた。

 ならば問題はどこにあるのか。練習環境が恵まれていないこと、選手の自己負担が前提では豊富な試合経験を積めないこと、東西に分かれたL・リーグでは強豪チームとの対戦が限られてしまうこと等、様々な原因が挙げられるだろう。しかし、やはり最大の問題は選手層が薄いということに尽きる。今大会に参加したチームは地区予選から数えて384チーム、7332人。ピラミッドを支える底辺が小さければトップは大きくならない。ペルーレとベレーザに有力選手が集中するのは、ある意味では当然のことだ。



 問題を解決するには、なにはともあれ女子サッカーの認知度を上げる必要があるだろう。今大会の準決勝が行われた西ケ丘サッカー場には朝日新聞社と日刊スポーツ新聞社の旗が張られていたが、両紙に掲載された全日本女子選手権の記事は記録程度、サッカー専門誌も記録以外は掲載されていない(1/30現在)。サッカー関係者の間でさえ、この程度なのだから、世間一般に対する認知度などほとんど無いに等しい。まずは、ここから手をつける必要がある。

 ひとつの方策として、日本代表やJリーグの試合が開催される日に、同一会場で女子の試合を行うということが考えられるだろう。川淵キャプテンも私見と断った上で、全日本女子選手権の決勝戦を天皇杯と同一会場、同一日に開催する考えがあることを明かしている。「この試合に多くのお客さんを集めようとしても、すぐには集まらない。できるなら、来年の天皇杯の決勝戦の日にやれたらいいなと思っている。(頑張っている選手たちのために)多くのファンの前で試合をやらせてあげたい。今日の試合なんか、相当入っているともっと沸いただろう。何万人に見てもらってもいいような試合だった」(川淵キャプテン談)

 また、中学生年代の選手たちの受け皿を整備することも必要だ。小学校レベルでは男女が一緒になってプレーすることが可能だが、中学校では女子がサッカーをプレーする環境は皆無に等しい。そのため、多くの選手たちがサッカーから離れていくという現実がある。しかし、少子化や指導者不足の問題で中学校の既存のクラブ活動でさえ曲がり角に来ていると言われている学校教育の中では、女子サッカーを活性化させることはかなり難しい。

 学校教育の限界を見る限り、この年代のプレーヤーたちの受け皿となるのはクラブチームしかありえない。今大会にも、中学生主体のチームとして四国代表の高知JFC・ROSAが参加したのをはじめ、日テレ・メニーナ、ラガツァFC高槻スペランツァ等、中学生が大半を占めるチームが出場している。多くのクラブは本体の下部組織として存在しているチームだ。今後は、この運営をどのようにシステム化していくか、どれだけ多くの人たちに支援してもらえるかが鍵を握ることになる。

 そんな中で注目を集めているのが岡山湯郷Belleだ。町おこしの一環として行政の支援を受けて立ち上げたクラブは、「地域ぐるみ」のクラブ運営を目指して活動を行っている。天然芝のピッチが3面あるという恵まれた環境の中で、選手は地元の温泉で働きながらサッカーを続け、そんな選手たちを町ぐるみで応援していく仕組み作りが出来上がりつつある。来シーズンからL・リーグへの参加が決まっているが、この試みが成功すれば、クラブの活動モデルとして多方面に大きな影響を与えることになる。その活動に期待したい。



 バブル経済崩壊以後、女子サッカーは依然として厳しい状況にある。しかし、そんな中でも代表チームの活躍や、岡山湯郷Belleのようなクラブが現れたりと、僅かだが光明も見えつつある。「(あくまでも私見だが)少ない金額でも強化費くらい来年から出してあげられたらいいかなと思う。みんな一生懸命頑張ってくれているからね。オリンピックだとか、ワールドカップだとか大きな目標があるので、女子の選手もやりがいに繋がる、協会も一生懸命応援してくれてるんだなということが彼女たちに分かるようなことを具体的にやっていきたい」と語る川淵キャプテンも、改めて女子サッカーを支援していく姿勢を明確にしている。

 情熱と使命感、そしてサッカーが好きだという気持ちを武器に頑張る女子サッカー関係者たち。道は遠いかもしれないが、その努力がいつか実ることを信じて、これからも応援していきたいと思う。頑張れ!女子サッカー!!



※NTTインターネットタウンページのスポーツコーナーの中に、岡山湯郷Belleの本田美登里監督のインタビューが掲載されています。大変興味深い内容ですので、是非、一度ご覧ください。



※このレポートは「fantasista online magazine 2002CLUB」に掲載されたものです。
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