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 福岡通信 03/02/11 (火) <前へ次へindexへ>

 春、遠からじ


 文/中倉一志
 1月には厳しい冷え込みを感じさせた福岡も、1日、1日と暖かくなっていくのが感じられる。春の訪れはまだまだ先のことだが、日増しに長くなっていく日差しは一歩ずつ春が近づいていることを教えてくれる。そして、その春とともに待ちに待ったJリーグが帰ってくる。まだ1ヶ月。もう1ヶ月。指折り数えるその日は、近くもあり、遠くもあり。どんなシーズンが待ち受けているのかは神のみぞ知るだが、毎年、この時期は私の心を高揚させてくれる。

 昨年の今頃は心配事ばかりが頭に浮かんだ。しかし、今年はどことなく心が落ち着いているのはなぜだろう。去年以上に悪くなることはないという開き直りからなのか。それとも生来の楽観的な性格によるものなのか。いやいや、もしかしたらただの希望的観測に過ぎないのかもしれない。現実を見つめたくないがゆえに、いいことばかりを考えているのかもしれない。しかし、それでも私の心の中には新しいシーズンへの期待が膨らんでいる。

 理由はいくつかある。その第一はフロント改革に本腰が入り始めたことだ。昨年、改革の切り札として市役所から送り込まれた前野専務に加え、今年は新たに井上剛実氏が社長付マーケティング担当としてフロント入り。新体制の下、改革へ向けて一歩ずつ確かな歩みを始めているからだ。いつのときでもそうだが、体制の見直しにはスクラップ&ビルドが原則。既成概念を変える苦労は並大抵ではないが、意見をぶつけ合うことで見えることもあるはずだ。

 もうひとつはチームが若返ったこと。ただ年齢が若くなっただけではない。昨年出場機会が与えられた宮崎、大塚、宮本らは確実に力をつけ、新たに獲得した若い選手たちはユース年代の代表候補(経験者)が多く、将来が嘱望される選手ばかり。また、攻撃の核として獲得したベンチーニョ、守備をまとめるセルジオの加入は、チームに1本の芯を作った。そして、天皇杯以降、見違えるような動きでチームを牽引する原田の存在も頼もしい。そして、久永も戻ってきた。チーム改革は簡単ではないが、それでも確かな足取りで歩み始めている。



 さて、そんな気持ちに後押しされて雁ノ巣に足を運んだ。この日は合宿前の最後の練習ということもあって、見学に訪れたサポーターの数は100人を超えていた。当日は朝から黒い雲が垂れ込め、時折小雨が降るあいにくの天気。しかし、誰も天気のことなど気にもしない。新生アビスパの調整具合を見るためならば、例え濡れようとお構いなしだ。そして、どの顔も穏やかなのは、やはりチームが変わりつつあることを感じているからだろう。

 練習開始時間になると選手たちが三々五々ピッチの上に姿を現す。まずは軽いジョギングからボールを使ったウォーミングアップ。そして徐々にスピードを上げて身体を慣らすとパス回しが始まる。先頭に立つのは篠田、江口、山田の3人。それに若手が続き、最後はベテランの原田と藏田がしめる。緊張気味の新人選手、確かめるようにボールを扱うベテラン選手、そして自らをアピールするように走る若手選手。どの選手も精悍な顔つきでボールを追っている。

 この日はパス回しの後、3チームに分かれて紅白戦が行われた。レギュラー候補と思われる黄色のビブスをつけたのは、GK塚本、DFは右から平島、川島、加藤、宮本の4人。ボランチには篠田と宮原が入り、右のアウトサイドが大塚、左がアレックス。2トップはベンチーニョと林だ。対するオレンジのビブス組はGKに水谷。DFは籾谷、千代反田、蔵田、古賀。ボランチは米田と原田のコンビで、2列目は右に久永、左に宮崎。山田と江口が2トップを組んだ。

 先日の福大との試合とは若干の入れ替わりがあったが、これは、互いのコンビネーションや特徴を確かめるための変更のようだ。この2チームに若手で組んだチームを加えて3チームで30分1本の試合を2試合ずつ、結果的にはリーグ戦を行ったような形になったのだが、一番元気だったのが若手主体のチーム。レギュラー候補と目されるチームに対し、物怖じもせずに堂々と自分たちのプレーをアピールする姿は頼もしく見えた。



 紅白戦を見ての感想は選手の力が拮抗しているということ。この日、練習に参加しなかった立石、福島、セルジオらもおり、現段階では、レギュラー争いは横一線といえる。それがいい意味で競争心を刺激して選手は気合十分、紅白戦とは思えないような激しいプレーが随所に見られた。身体も良く絞られていて運動量も問題はなく、この時期としては順調な仕上がり具合を見せているといっていいだろう。不必要な笑顔はなく、いい意味での緊張感が漂い、全員が良く声を出して雰囲気も悪くない。

 一方で、主力組がゴールを奪えないことを懸念する声も聞こえる。この日の紅白戦の後、松田監督も主力組のコンビネーションがあっていないと選手たちに指摘していた。しかし、今の時期にそれほどナーバスになる必要はあるまい。新加入の選手を交えての練習は、まだ2週間程度。これから練習を積み重ねることで互いの特徴を知れば、おのずとコンビネーションは出来上がっていく。正念場は10日から始まる合宿。ここでコンビネーションを合わせればいい。

 当初、松田監督は合宿ではトップとサテライトを分ける考えを持っていたが、合宿の前半は引き続きグループ分けをせずに臨むことを決めた。現段階の力関係では誰をトップに残すかは非常に難しい選択だからだ。これを嬉しい誤算と見るか、それとも主力組の調整遅れと見るかは意見の分かれるところだが、厳しい競争があってこそ選手の実力はアップするもの。現状を前向きに捉え、厳しい競争に中で全体のレベルアップを図ってくれることを期待したい。



 さて、注目のベンチーニョは、やはりボールを触ってリズムを作るタイプのようで、試合中は頻繁に後ろに下がり、時にはボランチの位置まで下がることもあった。しかし、これは彼の長年のプレースタイル。もともとゴール前で張っているタイプではなく、ある程度下がってくるのを計算の上で使わなくてはならないだろう。またアレックスはブラジルらしい個人技を見せたものの球離れが遅く、ボールを持つと中へ中へと入る場面が目立っていた。

 当然のことだが、得点源として期待されるベンチーニョを生かすためには周りとのコンビネーションが問題になる。彼が下がってきたときに前線に空いたスペースに飛び出していく選手、そして彼が低い位置からトップへボールを預けることの出来る選手の存在が不可欠になる。そういう意味では、江口、林にはトップの位置でのボールのキープ力を上げることが求められる。また、2列目からのスピード溢れる突破が持ち味の宮崎の存在が鍵を握ることになるかもしれない。

 チーム戦術という点から見れば、ボールを追い越していくプレーを有効に取り入れられるかということになるだろう。昨年までのアビスパは左右のMFが高い位置まで上がり、前線にFWを含めて4人が横一線に並ぶというシーンが良く見られた。そのため、ボールを受けても後方からフォローする選手がいなかった。またボールを受けた選手も常に背中に相手を背負うことになり、前線までボールを運んでも相手のDFラインを崩せないというのが攻撃面での課題だった。

 その傾向は主力組のプレーに残っているようで、試合中には「ラインがひとつになっているぞ」と松田監督が指示を出すシーンも。試合後には、前にボールを預けたら、後方の選手が前を向いた状態でボールをもらいに行くようにとの指示も出ていた。きちんと3本のラインを形成すること、DFラインの選手も含めてボールを中心にして縦のコンビネーションを確立することがこれからの課題になるだろう。



 しかし楽観的になってばかりもいられない。J1昇格のライバルとなる各チームは積極的な補強を行い、どこもレベルアップしている。昨年8位のアビスパが昇格争いに絡むためには、それ以上のレベルアップが必要とされ、その道は厳しいことに変わりはない。激しいポジション争いの中から飛び出す選手が出てこなければ、どんぐりのなんとやらになる危険性もある。さらにレベルアップを図り、層が厚く、しかも主力が安定した力を発揮できるチームに生まれ変わってこそ、その先が見えてくる。全ては合宿の出来にかかっている。



※このレポートは「fantasista online magazine 2002CLUB」に掲載されたものです。
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