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 福岡通信 03/03/13 (木) <前へ次へindexへ>

 今こそ心を一つにして


 文/中倉一志
 スタンドを埋める大観衆。湧き上がる歓声とどよめき。勝利の喜び、そして敗戦の悔しさ。あの興奮の日々が帰ってくる。楽しいことも、辛いことも、山盛りになった8ヶ月間がまた始まる。それに伴い、強烈な緊張感が私を襲う。見て、聞いて、感じたことを正確に伝えられるかどうか不安がこみ上げてくるからだ。選手も、フロントも、サポーターも必死の思いで頑張っている。少なくとも、同じ思いを持てなければ物を書く資格はない。

 その緊張感に刺激されて、シーズンオフで緩んでしまった頭が少しずつ目覚めていく。そして、トレーニングマッチを見て、監督の話を聞いて、サポーターと語り合うことで自分自身を確認する作業が続く。初めてサッカーに触れた時の気持ち。初めて取材パスをもらった時の気持ち。初めてアビスパを見た時の気持ち。それを持ち続けているかが私にとっての重要なポイント。その作業は、さしづめトレーニング・キャンプのようなものだ。

 それにしても今年の緊張感は強烈だ。クラブ側の意欲が今までとは全く違うからだ。去年までと同じ気持ちでは付き合ってもらえない、そんな迫力を感じずにはいられない。雨に打たれながらアピールする球団職員。クラブ改革について熱く語る中村強化部長。冷静にチームを分析して指示を与える松田監督。J1復帰を目標にボールを追う選手たち。必死になって改革を進めようとしているクラブに、生半可な気持ちで接することは許されない。

 そんなクラブの姿勢はサポーターにも伝わっている。9日に行われた「激励の集い」に駆けつけたサポーターの表情は晴れ晴れとしたものばかり。どこか不安げな表情が残っていた去年とは比べようもなく明るい。J1相手のトレーニングマッチで2勝1分1敗の好成績は、あくまで参考程度に過ぎないのは誰もが承知している。それでも口々に「今年は楽しみだ」と語る背景には、クラブが前を向いて歩き始めたことを実感しているからだろう。



 さて、好調を維持したままシーズン開幕を迎えるアビスパだが、昨年との大きな違いは縦のバランスが良くなったこと。手詰まり感が強かった昨年の攻撃とは見違えるようにバランスが良くなっている。その原因は、やはりベンチーニョの加入だ。6シーズンで80ゴールという得点力もさることながら、何より、自由に動き回ってボールの起点を作る動きが効いている。中盤から高い位置でボールをキープできることで、前を向いてボールを追い越す動きが盛んに見られるようになった。

 攻撃は、そのベンチーニョを中心にして江口、久永、アレックスがポジションチェンジを繰り返しながらボールを動かし、空いたサイドのスペースを久永、アレックス、あるいは両WBがオーバーラップしてサイドを崩すというもの。トレーニングマッチでも、この形から何度もチャンスを作り出しており、松田監督が狙うサイドを中心に攻めるという戦術の浸透度は高い。両サイドのスペースに流れるベンチーニョへ低い位置から送るクロスボールのフィードも攻撃に変化を与えている。

 サポーターの間でも、地元紙やTVで最も注目されていたボランチは、結局、原田、篠田、宮原、増川の4人を併用することになりそうだ。守備固めなら原田−篠田のコンビ。攻めに出るなら宮原−増川。状況に応じて別の組合せもあるだろう。松田監督は「誰が出てもいい状況」と言うが、相手との力関係や、その時点での得点差等を考慮しながら起用するものと思われる。松田監督の采配が注目される。

 守備面ではセルジオの加入で高さ対策は取れた。もうひとつの課題であるスピード対策については、中盤と連携して組織で防ぐことになる。縦のバランスが良くなったことで、中盤の守備も安定感は増したと言っていいだろう。そして何より、チームの雰囲気が良くなったことが大きい。いい意味で全員が競り合い、互いを刺激しあっている状況がチームを一回り大きくさせた。チームが窮地に陥ったときには、復帰した久永がリーダーシップを発揮してくれることだろう。



 そんな新生アビスパが挑む2003年シーズンは、J2史上最も激しい戦いになることが予想されている。戦力的に最も充実していると言われている広島を筆頭にJ1を経験しているクラブが5チーム。J1昇格を今シーズンの具体的な目標に挙げているクラブは7チームもある。資金面からJ1昇格を今年の具体的な目標としていないクラブでも、独自のカラーを打ち出すべく改革に着手しており、上位チームに一泡食わせようと虎視眈々と狙っている。

 J1昇格を狙うチームは、現段階では、どのチームも実力は横一線。おそらく、その力関係は最後まで続くことになるだろう。そういう状況の中では、1シーズンを通して同じコンディション戦えるか否かが大切になる。しかし、中断なく続く44試合をフル出場するのは至難の業。重要になってくるのはバックアップメンバーの質とモチベーションだ。出場機会は少ないかもしれないが、彼らの存在が昇格への大きな鍵を握ることは間違いない。

 もうひとつアビスパが忘れてはならないことはチャレンジャーであるということ。順調すぎるほど順調に調整し、バックアップメンバーを含めて選手層が見違えるほど厚くなったアビスパ。自信を持てるだけの準備はしてきた。しかし、昨年は8位に低迷したという事実は変わらない。相手を尊重し、謙虚に、そして自信を持って戦うことだ。ひとつ、ひとつのプレーに持てる力を発揮すること。一蹴入魂の精神で正面からぶつかって欲しい。

 そして一喜一憂しないことだ。とてもかないそうもない相手に勝つこともある。明らかに格下に見えても足元をすくわれることもある。それがサッカーというスポーツだ。ましてJ2は世界に類を見ない44試合もの長丁場。一筋縄でいくはずはない。勝利が続いても浮かれることなく、敗戦が続いても慌てることなく、シーズン前に作り上げた自分たちのサッカーを貫き通すことだ。山場は必ず3回やってくる。最後の山を超えればゴールが見える。



 先日、TV局のインタビューに応えて、「J1に昇格する確率は50%」と答えた。アビスパを含めてどこのチームにも同じだけのチャンスがある。どのチームも五分と五分。そういう思いからの50%だった。思い通りに調整出来たとはいえ、他のチームも同様に必死の思いで調整をしてきたはず。思い通りの仕上がりは決してアドバンテージにはならない。今の状態は、J1昇格を口にするにふさわしいチームに仕上がったというところだろう。

 過去の例を見ても分るように、いいチームに仕上げたからと言って、J1昇格は簡単に出来るものではない。多くのチームが幾度となくその壁に跳ね返された。昇格を果たしたチームも、一部の例外を除けば、どのチームもギリギリの戦いを重ねた上で、ようやくJ1への扉を開いた。勝負はこれから。戦いの中で戦術に磨きをかけ、逞しさを身につけ、J1昇格に値するチームに成長しなければならない。それはチームの総力をかけたチャレンジでもある。

 チームの総力とは選手だけの力ではない。現場スタッフ、フロント、球団職員、サポーター、そしてメディア、そうしたアビスパに関わる全ての人たちの力の和がチームの総力。全ての人が一丸となって、それぞれの立場で力を発揮することで、J1昇格の確率は70%にも、80%にも上がっていく。そして、みんなの気持ちがひとつになったとき、J1昇格が初めて具体的に見えてくる。忘れかけていた「博多の森の熱狂」が今のアビスパには必要だ。

 これから始まる8ヶ月間は、楽しくもあり、つらくもあり。そして思いもかけないことも起こることだろう。思い通りの結果が得られないことだってある。しかし、結果を気にしても意味はない。全力を挙げて戦うこと、自分たちの全てを発揮すること、チャレンジャーであるアビスパにとって一番大切なことはそういうことだ。それさえ出来れば、結果は自然とついてくる。新生アビスパのスタートは2日後。総力を挙げて戦おう!!



※このレポートは「fantasista online magazine 2002CLUB」に掲載されたものです。
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