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 福岡通信 03/03/20 (木) <前へ次へindexへ>

 うつむくな、前を見ろ!!


 文/中倉一志
「立ち上がりは固さが感じられる」
「動きが重い。どことなくボールが足につかない感じ」

 人間の感覚とは不思議なもので、どんなに注意深く物事を見ていても、その中で最も印象が強かったものに全体の印象が影響されてしまう。それはサッカーの試合でも同じことで、すばらしいプレーや、強烈な印象を残すシーンがあると、試合全体の流れが、そうした印象に左右されてしまうことがよくある。だから私は試合中に感じたことを、その場でノートに書き留めておくことにしているのだが、その一番上に、この2行が記されている。

 とにかく固かった。ショートパスはゆるいし、ボールが不必要にバウンドする。何故か浮き球のパスも多い。おそらく、ボールをしっかりと捉えることが出来なかったのだろう。開幕前のトレーニングで再三見せていた切れのあるサイドへの飛び出しも見られない。開幕前は、「よし、いまだっ!」と思った瞬間に選手が飛び出していたのだが、この日は選手の足が前へ出ない。タイミングを掴みかねているのがスタンドからみていても分かる。

 やるべきことをやれなければ、チームのリズムは崩れる。そして、何とかしようとムキになればなるほどミスが増える。そんな時に相手のカウンターを喰らう。典型的な負けパターンと呼ばれるものだ。そして、福岡は見事なほどに、この悪循環にはまってしまった。久永も、「前半にすごくミスが続いたときに、ちょっとパニックになった部分があって、その中から失点して、またリズムが悪くなるという悪循環だった」と試合を振り返った。

「セットプレーから2点取られると、追う展開というのは厳しいなと戦前から思っていたが、そういう2失点を喰らうと、やっぱり難しい」とは松田監督の言葉。失点の仕方も悪かった。1点目はGKと思ったところをCKと判定された後のプレーから、2点目はあわやオウンゴールかと思われた直後のプレーから。「えっ?」と思った後と、「ほっ!」とした後の、いずれも集中力を途切らせたところを簡単に決められた。防げる失点だった。



 ボールキープ率は上回るが、攻めあぐねては、やむなくクロスボールを放り込んで跳ね返される。そして、集中力を切らしてなんでもないシーンから失点する。昨年の再現のような試合に、「チームが変わったというから楽しみにしてきたら、結局は去年と変わらないじゃないか」というサポーターもいた。しかし、取材ノートを読み返していくと、昨年との違いが見えてくる。メモを追いながら昨年との違いを探ってみることにしたい。

 福岡が攻撃の形らしいものを見せたのは7分。久永が篠田にバックパス。篠田はこれを右サイドを上がった平島に預ける。その平島から中央で待つベンチーニョにミドルレンジのパスが渡ると、ベンチーニョがはたいたボールを後方から走りこんできた久永が受けて中央突破を図る。そして32分、水戸陣内やや右側でボールを持ったアレックスが中央のベンチーニョに当てて、そのまま中へ。そしてベンチーニョからボールを受けると、左サイドを猛然と駆け上がってきた宮崎にラストパスを通した。

 いずれのシーンもパスは全てダイレクト。それまで厳しいチェックで福岡を苦しめていた水戸だったが、福岡が見せたパス回しには誰もついていけなかった。また、8分には久永、ベンチーニョ、平島とつないで、11分には平島と久永のコンビで右サイドを突破した。このプレーも全てダイレクトパスで行われたものだった。固さが目立ち、それ以外には思うような形を作れなかったが、やろうとしているプレーは間違っていない。

 後半は効果的な選手交代と、増川をターゲットにするという分りやすい戦術を取ったためか、選手の動きからは固さが取れた。しかし、リズムを引き戻したのは、中央の低い位置から猛然とドリブルを仕掛けてゴール前まで突っ込んでいった宮崎の16分のプレーと、原田からの浮き球のフィードをあきらめずに最後まで走りこんだ23分の大塚のプレー。この気迫あるプレーが展開をガラリと変えた。前半に見せたボール回しと、この強気な気持ちがかみ合えば福岡の攻撃は大きく変わるはず。後は精神力の問題だ。



 しかし守備には問題点を抱えている。流れの中から崩されなかったとはいえ、ひとつ、ひとつのシーンを振り返ると危険なシーンが随所にあった。まずは開始直後のプレー。DFラインとボランチの間にこぼれたボールを山崎に拾われ、そこへ走りこんできた樹森とのコンビで中央を割られかかった。大事には至らなかったが一歩間違えば決定的なピンチを迎える場面だった。人数は足りていたのだが2人には誰もマークについていなかった。

 最初のピンチは23分。水戸は左サイドで樹森がボールをキープすると、小野がDFラインの裏へ飛び出してパスを受ける。そして、左サイドを上がってきた山崎に戻すと、山崎は狙い済まして右足を振り抜いた。続く31分、今度は山崎が左サイドで起点になると、スルスルとボランチの裏へ走りこんできた小野にパス。ボールを受けた小野はいったん左サイドへはたくと、そのままゴール前へ。そして冨田からのクロスをドフリーで頭で合わせた。

 この2つのシーンで水戸のシュートがゴールマウスを外れたため大事に至らなかったが、ゴールが生まれても何の不思議もない場面だった。いずれの場面にも共通するのが、後から走りこんでくる選手に全く注意がいっていないこと。水戸は3人だけで攻撃を形作るのだが、福岡は最終ラインの4人とボランチの2人が揃っているにも拘らず、この3人が捕まえられない。上記に出てくる選手たちは、いずれもフリーのままプレーしていた。

 人数はいてもボールを追うばかりで、相手の選手の動きが確認できていない。そのため、簡単にボランチとDFラインの間や、CBの間にフリーで入り込まれる。すると今度は、そちらに目が行ってしまって、それ以外の選手のケアを誰も行わない。ボールウォッチャーになってしまって選手を捕まえることがおろそかになっている。そして90分を通して、ボランチの位置で相手の攻撃を止められなかったことも気になるところだ。もう一度、守備の約束事を徹底する必要があるだろう。



 ところで、J2を勝ち抜くだけなら、昨年の大分のように徹底的に守りを固めてスペースをなくし、前線に得点能力の高いFWを並べて攻撃を一任するというやり方もある。過去の例からみれば、J2では得点力に問題を抱えるチームが多く、守りに徹すれば、ある程度の失点は防ぐことができる。そして、単調といわれようとも同じことを徹底してくり返せば、必ず何度かのチャンスはやってくる。それを決めれば1−0。駄目でも勝ち点1は取れる。

 しかし、福岡が目指しているのは「J1で戦うにふさわしいクラブ」になること。J1昇格は、その延長線上にある。そのためのフロント改革であり、選手補強であり、トレーニングキャンプだったはず。自分たちが信じて積み重ねたものが、どこまで通用するのか迷うことなくぶつけてみればいい。通用しない部分があれば修正すればいいだけのこと。上手くいかないことを恐れることはない。恥ずべきは、上手くいかないことを恐れてチャレンジしないことだ。

 残念ながら、開幕戦の福岡はチャレンジ精神に欠けていた。相手に対する注意も散漫だった。「1人、1人の戦う気持ちが水戸のほうが上回っていた。ひとつ、ひとつのボールに対する執着心という部分もあっちが勝っていた」とは久永。集中力を欠くプレーを連発し、それを注意し叱咤する選手もいない。開幕戦を見る限り、福岡の選手たちには戦う精神力はなかったようだ。しかし悔やんでも仕方がない。この悔しさを晴らすには、次の新潟戦で、この日の分まで戦うだけだ。

 シーズンは始まったばかり。油断することは許されない。しかし、悲観するのはまだ早すぎる。自分たちのやってきたことを信じてチャレンジすればいい。すぐに結果が出ないこともあるかもしれないが、チャレンジする姿勢を持ち続けていれば必ず結果はついてくる。福岡は昨年8位のチーム。失うものなど何もない。戦う気持ちを持って正面からぶつかればいいだけだ。次節の新潟戦を終えて胸を張って博多の森に帰ってくることを期待したい。



※このレポートは「fantasista online magazine 2002CLUB」に掲載されたものです。
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