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 福岡通信 03/06/06 (金) <前へ次へindexへ>

 広島戦を前に


 文/中倉一志
 第15節のサガン鳥栖戦、アビスパ福岡は久しぶりに気持ちのいい試合を見せた。前半19分の宮崎のゴールで先制点を奪うと、勢いに乗って前半だけで3得点。後半は前がかりになって攻める鳥栖の裏をついてカウンターから2得点を追加。宮崎のハットトリックを含め、チーム史上タイとなる5得点を挙げて鳥栖を一蹴した。ミックスゾーンに出てくる選手の表情は誰もが明るく、待ち受ける報道陣にも笑顔が絶えない。照れくさがる宮崎を無理やり捕まえての囲みのインタビューは、和気あいあいとしたものだった。

 1歩進んでは半歩、場合によっては1歩下がってしまうというのが、ここまでの福岡の戦いぶりだった。そのあまりにも遅々とした歩みに、スタジアムに足を運ぶコアなサポーターでさえ堪忍袋の緒が切れる寸前だった。しかし、第13節の新潟戦あたりから、ようやく、本当にようやく形が見え始めてきた。新潟戦は敗れたが、その試合の内容をどう捉えるかが福岡のこれからを左右すると書いたが、どうやら前に向かって歩き始めたようだ。

 しかし、鳥栖戦での大勝を額面通りに受け止めるわけにはいかない。この日の試合は、湘南の結果によっては、敗れたほうが最下位になるという試合。そもそも、J1昇格を目標にするクラブが戦うようなシチュエーションではなかった。また、鳥栖は自分たちの力を発揮する術を見つけられず、喘ぎ、もがいている最悪の状態。上を目指すチームであるならば、ある意味では勝って当然の試合。喜んでいる場合じゃないという側面もあった。

 問題にすべきは鳥栖に喫した2失点だろう。セーフティリードを早々と奪いながら、試合をコントロールできずに攻められて喫した2得点。相手が3トップにして前に出てきた途端、バランスを崩すという状況は新潟戦と全く変わりなかった。本来なら、攻めさせて無失点に抑えるのが定石。調子を崩している鳥栖でなければ、一気に形勢が逆転する危険性もあった。試合を終えた直後、前野専務が2失点の仕方に憤慨していたのも当然だろう。



 サッカーに限らず、勝負の定石はまずは当たり前に戦うということ。基本通りに進めて行くだけで勝てる相手ならば、それ以上の事をする必要はない。相手に合わせる必要もない。敢えてリスクを犯さず、相手のミスや陣形のほころびを見つけ、それに乗じて攻めるだけでいい。鳥栖戦の前半は、まさにそういう戦い方だった。松田監督が「守りに入ることだけは避けようと。同じ試合を、あと45分進めるんだ」と指示したのも当然のことだ。

 一方、ペースを握られたチームは流れを変えるために手を打ってくる。この日の鳥栖は、後半から中村を下げて服部を投入。3−4−3の布陣に変更した。同時に佐藤(陽)を最終ラインに下げて、小気味よいオーバーラップを見せる右SBの鈴木を1枚前へ上げた。狙いは、風上を利用してロングボールを早めに放り込み、前線からプレッシャーをかけ、さらには両サイドからの攻撃を厚くすることだ。これでペースは鳥栖に渡ることになる。

 先に行われた新潟戦でも同じことが起こっていた。1点のリードは福岡。試合のリズムも前半は福岡のものだった。反撃を狙う新潟が次の手を打ってくるのは明白だった。そして3トップに変えた新潟はスピードを生かして福岡の最終ラインを切り裂きに来た。「同じことをやればいいと思う。同じようにつなげということを指示した」とは松田監督。しかし、混乱を招いた福岡が失点を喫するまでに、それほど時間はかからなかった。

 現在の福岡の課題はここにある。相手が流れを変えに出てきたとき、それが従来どおりの戦い方で対応できるのか、それとも、相手の変更に合わせて自分たちの戦い方を変えなければならないのか、その判断が甘い。結局、自分たちの戦い方を続けるわけでもなく、相手に対応するわけでもなく、結果的にズルズルと下がる羽目になり、中盤の支配権を奪われて防戦一方に追い込まれると、最後は耐え切れずに失点を喫してしまうことになる。



 過去の試合で、松田監督は最終ラインが相手のFWの位置取りに合わせて下がってしまう欠点を指摘している。おそらく、決して速いとはいえないセルジオの足が気になっているのだろう。相手に裏のスペースを狙われだすと、スピードで突破されるのを気にするあまり、ラインをコントロールしている千代反田がラインを上げきれなくなることが多い。ある意味では当然の選択でもあるのだが、それは相手に中盤のスペースを与えることにもつながっている。

「逆もまた真なり」との言葉があるように、ラインを高い位置に保ち、コンパクトなゾーンを維持できれば、プレッシャーのかかる相手は簡単にラインの裏側にボールをフィードすることは難しい。こういう状況なら、高さに強いセルジオの存在が生きてくる。事実、新潟戦でも、鳥栖戦でも、前半はピンチらしいピンチに見舞われることはなかった。サッカーには決まった守り方、攻め方があるわけではないが、福岡の守備を安定させるには、この方法が一番適しているということだろう。

 ラインを上げても、下げても、それぞれにリスクはある。相手との力関係も陣形に大きな影響を与えることになるだろう。しかし、力が拮抗している相手と勝負を争っている世界では、リスクを背負わずに勝利だけを得ようという虫のいい話は存在しない。ただゴール前を固めて相手の攻撃を跳ね返すだけに留まるのなら、裏を取られるリスクがあっても、相手の攻撃をコンパクトな守備網で絡め取れる可能性を併せ持つ守備のほうを選択すべきなのは当然のことだ。

 また、今まで福岡の守備が安定した時間帯というのは、相手を押し込んでいるときに限ってのこと。相手が前に出てきたときに、どこまで耐え切ることができるかは、まだ未知数だ。そういった意味でも、まずは高い位置を保ってのDFを実践する必要がある。自分たちの何が通用して、何が通用しないのか。それを正確に掴むこともチーム力を向上させるためには欠かせないことだ。勇気をもって前へ出て、自分たちの力をぶつけてみること。おそらく結果は出るはずだ。



 ここまで15試合戦って4勝2分9敗という成績は、正直に言って予想すらしていなかった。その戦い振りも、今までを振り返る限り情けないの一言に尽きる。前述のように、鳥栖の状況を考えれば、前節、鳥栖に勝ったのは当然の結果。大勝したからといって、今までの苦労が報われたわけではない。チームが大きく成長したと断言できる材料もない。まだ、ようやく形が見え始めただけのこと。そういう意味では、広島との戦いで、どれだけのパフォーマンスを見せられるかが大きなポイントになる。

 サポーターは悔しい思いを続けながらも、様々な思いに耐えてチームに声援を送ることを続けている。地元メディアでの露出度は、さすがに成績に比例して下がってしまったが、それでも担当記者が温かい目で応援していることは変わらない。チームが低迷する中、台風の影響が出た鳥栖戦に5,000人を越す観客が訪れたのも、クラブの営業努力の結果。そして、地元住民の福岡を応援しようという気持ちの表れだ。あとは選手たちが応えるだけだ。

 足りないものはたくさんある。やらなければならないことも山ほどある。まるで牛歩のような成長への歩みを、一気に早めることも相当困難を伴うだろう。しかし、○○マジックなどというものは存在しない。御伽噺のように救世主が現われることもない。結局は、自分たちの力で殻を破ることでしか事態を変えることは出来ないのだ。フロントも、監督も、スタッフも、そして選手を含めた全員の力で乗り切る以外に道はない。

 明日の広島戦。選手たちはどんな戦いを見せてくれるのだろう。聞くところによれば、多くのサポーターがツアーを利用して広島まで乗り込むという。そんな期待に応えられるパフォーマンスを選手たちは見せてくれるのだろうか。前回の対戦では、粘りに粘ったが力の差を見せつけられて破れた。しかし、今度は僅かながらも、福岡には希望の灯りがともり始めている。それが大きなものになることを、福岡サポーターは信じている。
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