topnewscolumnhistoryspecialf-cafeabout 2002wBBSmail tolink
 福岡通信 03/07/04 (金) <前へ次へindexへ>

 手応えは掴んだか?


 文/中倉一志
 長い、長い、トンネルに入り込んだまま出てくるそぶりを見せないアビスパ福岡。第1クールが終了した時点で、「応援するには相当な忍耐力が要りそうだな」と思っていたが、ここまでくると、なんだか結果など気にならなくなってくるから恐ろしいものだ。たったひとつの負けに眠れないほど悔しい思いをしたのは、いつの頃のことだったろうか。リプレイのように同じことを繰り返す福岡に、報道陣も呆れている様子が見えるようになった。

 それでもスタジアムに足を運べば、今日こそはと願いながら記者席に着く。いつもと同じ席。いつもと同じ風景。でも結果だけは違っていて欲しい。そんな気持ちでいっぱいになる。大きな期待を寄せるのはよそう。出口が見えさえすればいい。そう思う自分がいる。いやいや、内容はともかく勝てば全てが変わる。とにかく勝たなきゃだめだ。もう1人の自分が否定する。心の中で押し問答を繰り返しているうちに選手たちがピッチの上に姿を現した。

 この日の相手はコンサドーレ札幌。ここまで3連続引き分けとチーム状況は良くない。かなり前になるが、第9節の鳥栖戦で見たときは、まるで昨年の福岡のように、ボールを回してもゴール近づけず、互いの連携もなく、結局はクロスボールを放り込むだけだった。降格した状況やチームを巡る環境が極めて昨年の福岡に似ているだけではなく、その後の戦いぶりも酷似している。いまは上位チームだが、つけ入る隙は十分にある。

 記者席で取材ノートを広げ、ストップウォッチをセットし、双眼鏡を手元においてキックオフの笛を待つ。そんな私の隣に顔見知りの札幌の番記者が座る。わずかな時間を利用して、互いのチームの情報と試合のポイントを交換し合う。どちらも遠慮がちだ。互いに、胸を張って主張する材料を持ち合わせていないのだから仕方がない。それでも、試合終了のホイッスルを聞いたら、「勝たせてもらいましたよ」などと言ってみたいのがお互いの本音だった。



 立ち上がりは互いにリズムに乗れない。仕掛けようとしたのは福岡だったが、ベンチーニョのところでボールが落ち着かずチャンスにつながらない。そんな福岡に対し、ジリジリと札幌が前に出る。札幌のフォーメーションは4−4−2。しかし、どちらかのサイドが必ず高い位置に張り出して、ボールサイドに向かって残りの3人のDFがずれていく。攻めあがるときは、実質的な3バックのような形をとる。狙いは当然サイド攻撃。しかし、札幌のリズムも悪く、チャンスには至らない。

 しかし、15分を過ぎたあたりからペースを握った福岡は、ここから一方的に札幌を攻め始める。自由に動くベンチーニョのスペースを、4人のMFがグルグルとポジションチェンジをして埋めていく。ホームゲームでは初となるアレックスも左サイドバックは宮原との連携も上々、効果的に左サイドを崩していく。そして、相手のDFが福岡の左サイドに気を取られると大きくサイドチェンジ。右から宮本が積極果敢にオーバーラップして、札幌ゴールを脅かした。

 札幌の守備網をズタズタに切り裂き、何度も決定的なチャンスを作り出した福岡。しかし、ゴールを奪うことが出来ずに後半へ折り返す。「中々いいですね」と札幌の番記者。「いや、いつもこうなんです。後半が始まって札幌がシステムを変えれば、福岡は別のチームになりますよ」と私。心の中では「立ち上がりの15分さえ凌げば、こちらの勝ち」とつぶやく。問題は札幌がどう修正してくるかだけ。ボランチの森下を下げて3バックにし、両SBが前に上がってくるとやばいかもしれない。

 しかし、後半に入っても札幌はシステムを変えない。両SBの位置を若干上げた程度だ。「しめた」と心の中でつぶやく。前にせり出してきた札幌の両SBに押し込まれ始めたが、札幌も福岡を押し切れるほどの力はない。15分我慢すれば福岡の時間帯がやってくるはずだからだ。案の定、60分を過ぎたあたりから試合は我慢比べに。そして残り5分となったところで福岡が怒涛の攻撃を繰り出した。ここで1点取ればチームの勢いは大きく変わる。スタジアムの盛り上がりとともに興奮を抑えきれない。だが、残念ながらゴールは生まれなかった。



 結局、福岡は1勝も出来ないままに6月を終えた。その反面、前後半で別のチームにならずに90分間戦い、最後には怒涛の攻撃を仕掛けて見せたのは今シーズン初めて。これを収穫と見るのか、結局は同じじゃないかと見るのか、非常に判断の難しい試合だった。しかし、ここは前向きに捉えたい。松田監督も「十分、それに値する試合は出来たんじゃないかなと思う」とコメントした。確かに勝ち星は喉から手が出るほど欲しい。しかし、今はこうやって一歩ずつ進むしか道はない。

 最大の収穫は、やはり90分間戦えたことだ。何より、我慢しなければいけない時間帯を、しっかりと集中しきってゴールを与えなかったことは何にも変えがたい収穫だった。福岡の最大の欠点はメンタル面の問題。戦える力を持っていながら、自分たちで集中力を切らすことにあった。それが、我慢のしどころで必ず失点するという結果につながっていたのだが、それを払拭することで、ある程度上位とは戦える。その感触は、この試合でつかめたのではないか。

 もうひとつは、中盤のコンビネーションが、かなり上がりつつあるという事実だ。特に宮原と篠田の出来は、今後に大きな期待を寄せられるパフォーマンスだったといって言い。米田との縦のバランスを保ってプレーした篠田は積極的に前へ押し上げ、それが前半の波状攻撃を可能にしていたし、ベンチーニョのスペースを埋めるように中盤で巧みにポジションを代えて、ボールの起点を作った宮原は、ベンチーニョ便りの攻撃にバリエーションを加える役割を果たした。

 さらに、ホーム初お目見えとなったアレックスの左SBも機能する見通しが立った。相変わらず、困ったときには、まずベンチーニョに預けるという癖は直っていなかったが、宮原とのコンビで何度も左サイドから攻めあがる姿は合格点がつけられるものだ。そして、積極果敢にオーバーラップして右サイドを駆け上がった宮本のプレーも合格点をつけてあり余るものだった。観戦に訪れた呂比須が「このサッカーで、この順位は不思議」と言ったそうだが、チームの戦術理解度は試合を重ねる毎に徹底されているのは確かなようだ。



 冷静な目で見れば、札幌の両SBの守備の対応能力が欠けていたことも福岡にとっての大きなアドバンテージになっていたことも事実。また、札幌はシステムを変えようにも、両SBに交換要員がいなかったことも福岡に味方した。しかし、そういった点を割り引いても、90分間戦えたという事実を自信に代えて戦えるか否かが、これからの福岡の戦い方を大きく左右することになる。

 もちろん、依然として残る決定的なチャンスを決めきれないという課題や、90分間戦い抜けるフィジカルにかけている選手がいること、そして、ラストパスの精度の低さ等、まだまだやらなければならないことは山積している。しかし、最も欠けていた部分に光明が見えたのは何より大きい。まだこうこうと輝く光とまではいかないが、ようやく見えはじめた出口を見失うことなく見据えること。これを選手たちは忘れてはならない。

 残念ながら、第21節に行われた横浜FC戦では、再び以前のような戦い方をしたようだが、ここは気持ちを切り替えて札幌戦のイメージで、次節の湘南戦を戦って欲しい。メディアは、敗れれば最下位もあると論評するかもしれないが、ここまで来てしまったら、順位がひとつ上がろうと、ひとつ下がろうと、それは福岡にとってはあまり大勢に影響はない。つまらないことに惑わされずに、まずは自分たちの戦い方を90分間続けることに専念して欲しい。

 正直に言って、サポーターのフラストレーションは来るところまで来ている。ここまで、目立った抗議行動をとらずに必死に声援を送り続けているのはチームを愛すればこそ。むしろ、選手を気づかって、余計なプレッシャーを与えまいという配慮とさえ言える。そんな心配をさせるほどチームにとって情けない話はない。そんなサポーターの気持ちに応えるには、札幌戦のように90分間戦って見せることだ。そうすることで勝利も見えてくる。明日は久しぶりに勝利の期待に胸を膨らませてスタジアムに足を運ぼうと思う。
<前へ次へindexへ>
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送