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 福岡通信 03/07/12 (土) <前へ次へindexへ>
 雨の中ボールボーイを務める福岡県女子サッカー連盟の選手

 地域密着を考える


 文/中倉一志
 今年も山笠がクライマックスを迎えようとしている。古式正しい伝統的なスケジュールにのっとって行われる博多祇園山笠は、「しめおろし」、「お汐井取り」、「流舁き」、「朝山」を終え、今日は「追い山ならし」。そして13日の「集団山見せ」、14日の「流舁き」と続いて、15日の「追い山」へと向かっていく。今年の一番山は中州流。15日の午前4時59分に太鼓の合図とともに櫛田入りをし、約5キロのコースを走って行く。博多の町が1年で最も熱くなる瞬間だ。

 福岡市の中央を流れる那珂川をはさんで西側が福岡、東側が博多と呼ばれているが、厳密に言えば山笠は博多のお祭り。その名残なのだろうが、山笠が唯一川を越えて福岡に町に入ってくるのは13日の「集団山見せ」の時だけ。「どうたい。これが山笠たい」とでも言わんばかりに自慢げに福岡の町にやってくる。しかし、いまは福岡市のお祭りとして市民に親しまれ、この時期になると福岡市は、どことなく賑やかになる。山笠が終われば本格的な夏がやってくるからかもしれない。

 15日間に渡る山笠に全てをかける人がいる。いつもと同じように電車に揺られて会社へ行き、いつもと同じように残業する人もいる。山笠を肴に酒を飲み歩く人もいれば、そんなことはお構いなしに、ダイエーとライオンズの首位決戦に熱を上げる人だっている。山笠に対する温度は人それぞれ。必ずしも福岡市が山笠一色で塗りつぶされるわけではない。しかし、誰もが山笠の存在を受け入れ、そして支持している。

 福岡に来て5年目の夏を迎えようとしているが、この時期になると、地域に密着しているということは、こういうことを指すのだなと感じる。ゴールデンウィークの「博多どんたく」もそうだが、このお祭りが好きな人も、そうでもない人も、それがあることを誰もが受け入れ、誰もが楽しみ、そしてお祭りを中心に町が動いていく。自分たちの住む町の、自分たちのお祭り。それを楽しむのは当たり前。それを支えるのも当たり前なのだ。



 サガン鳥栖のフラッグがなびく、鳥栖駅前商店街
 Jリーグが目指す地域密着は、まさにこのお祭りと同じレベルにあるのではないか。スポーツが得意な人も、そうでない人も、老若男女誰でもが、年齢や、立場、性別といった違いを超えて1人の人間として付き合えるコミュニティを作り上げること。それがJリーグの目指すもの。そのソフトとして、お祭りなのか、スポーツなのかという違いはあっても、本質的には全く変わりがない。サッカーを好きな人を増やすことが最終目的ではない。

 もちろん、我々はプレーヤーであれ、サポーターであれ、ファンであれ、サッカーに何らかの形で携わっている人間。サッカーを通じてスポーツ文化の定着を図ることは当然のこと。そのためにチームを強化し勝利を目指すことになる。なぜならば、勝利を目指し、常に向上を求め、可能性のある限り頂点を目指すことによってしか得られない感動や、経験、教訓というものがあるからだ。競争することによって初めて見えてくるものは多い。

 その一方で、サッカーに関わる者であると同時に、自分たちもその地域に住む一住民としての役割も併せ持っている。そこには地域住民として、どうやって地域に貢献するかという役割がうまれる。単なるサッカープレーヤーとしてだけではなく、地域に住む住民、地域発展に貢献する企業として何が出来るのか。ある部分では、サッカーという枠を飛び越していくことも求められることになるだろう。

 もちろん、サッカーを好きな人が増えるのは我々にとっては喜ばしいことだ。しかし、我々がサッカーを愛するのと同じように、他のスポーツをこよなく愛する人もいる。そうした人たちも我々にとっては同じスポーツを愛する仲間。同じ地域密着を目指す仲間なのだ。それはスポーツに限らない。他の文化や芸術を愛する人たちも、広い意味では我々の仲間。そういった人たちと手を携えて行動することもまた、Jリーグの使命だろう。



 当然のことだが、Jリーグに所属する全てのクラブは、経営理念に地域密着という言葉をうたっている。だが現実を見れば、地域密着を理想的な形で推し進めているクラブは多くはない。特に、地方のクラブやJ2に所属するクラブの中には、様々な理由から、現状ではそこまで手が回らないというクラブがあるのも事実だ。しかし、地方やJ2のクラブだからこそ、Jリーグの理念の実現が求められているのではないか。

 常にトップリーグで優勝を争い、それが義務付けられているようなビッククラブなら、その存在自体が地域住民に対して大きな求心力を持つ。クラブは町の誇りになり、誰もがクラブの存在に名誉を感じることだろう。しかし、金銭的にも厳しく、また常勝軍団を目指すだけの力が不足しているクラブでは、「強い」ということだけで住民をひきつけることは出来ない。強さ以外に何を提供できるのか、それがクラブに求められることになる。

 また運営資金の面から見ても、鹿島や磐田のように30億とも40億とも言われる運営資金を確保するのは地方やJ2のクラブには不可能なことだ、アビスパ福岡を例に取れば、今年の予算が11億強。J1で戦っていたときも15億程度だったと記憶している。福岡の経済規模や、地元企業の規模からすれば、これが一気に2倍、3倍に増えるということは現実的ではない。結果として、ビッグクラブ以上に地域住民によるサポートが不可欠なのだ。

 さらに、観客動員という大きな問題もある。関東にホームタウンを置くクラブなら、ホームタウン以外からの観客もそれなりに計算できる。交通網の発達により、同じ関東圏への移動はスムーズで料金もそれほどかからない。そのため、関東圏に住む莫大な人口を集客の対象とすることが可能だからだ。しかし、そのほかの地域では、移動手段は決して便利ではなく、その料金も高額。これでは他県からの観客はほとんど当てには出来ない。必然的に、それ以上の地域密着が求められることになる。



 入場者の整理を行うボランティアスタッフたち
 サッカーというソフトを使って地域に密着したスポーツクラブを目指す以上、チームを強くすることは当然のことだ。しかし、それに加えて、クラブとして、選手として、地域に対して何が貢献できるのか。それをどうやって実現するかが、地方やJ2のクラブに課せられている課題だ。地域住民は「強い」ことだけをクラブに求めているのではない。チームの力を含めたトータルの力が地域の誇りになることを求めている。

 最後に、Jリーグにも是非一考してもらいたい問題がある。現在、様々な部分でJリーグは本体による一括管理を行っている。リーグに所属するクラブは一心同体。一括管理するという手段は極めて妥当な方法である。効率的に管理することによりJリーグは発展を遂げ、それにより得た大きな収益を分配することが、地方やJ2のクラブの運営資金面に少なくない影響を与えていることから見ても、それは明らかだ。

 しかしながら、Jリーグが開幕してから11年目に突入した現在、所属する28クラブの実情は同一レベルで語ることは出来ず、トップと下位のクラブの間には大きな差が存在し、直面する課題も大きく異なっている。そんな中での一括管理は、必ずしも適正な手段とは言い切れない部分もある。柔軟な対応は時としてノーズロになる危険性もあるが、可能なところから、各地域の実情に合わせた柔軟な対応が行えるよう検討をお願いしたい。地方のクラブを取材・応援する者の切実な願いだ。

 さて我らが新生アビスパ福岡は、こうした問題について、ひとつひとつ検討を重ねている。しかしながら、過去7年間にたまったものをきれいにそぎ落とし、ほとんど財産が残らなかった状況での一からのスタートは予想以上に困難を極め、フロント運営も、チームの強化も牛歩のような歩みを続けているのが現状だ。でもいつかは福岡市民に愛される地域密着の代表と呼ばれるクラブに育ってくれることを信じている。福岡は、それだけの土壌がある土地だからだ。
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