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 福岡通信 03/08/23 (土) <前へ次へindexへ>

 戦いを制するのはメンタルの強さ。


 文/中倉一志
 アビスパ福岡が好調だ。もっとも、シーズンの半分近くをチーム再建に費やしたのだから、そろそろ成果が出るのは当然とも言えなくもないが、それにしても、その変わりようは目を見張るばかりだ。「経験を積み重ねて、選手が自信を持てるようになったから」という松田監督の答えが変わらないのを知っていながら、記者会見でついつい、「なぜ結果が出るようになったのか」といった類の質問を繰り返してしまうのも、そんな驚きからだ。

 メンバーを固定できたことで中盤の連携が高まったこと。林、福嶋、米田らの若手が試合を通して大きく成長したこと。宮崎のプレーエリアを高い位置に移したこと。その結果として、チームの戦術理解度が深まったこと等がチームが脱皮した要因だ。一時はベンチを暖めていた塚本と蔵田がいまやDFの要として活躍しているのも、チーム全体の連携が高まったことで、彼らのポテンシャルがフルに発揮できるようになったからだろう。

 それでも、メンタル面での成長が最も大きな要因であることは間違いない。戦術理解度やゲームの内容という点では、既に第2クールに入ったあたり改善が見られていた。事実、勝点こそ不振を極めた第1クールと変わらなかったが、得失点差は−13から−1と大幅に減少している。問題はそれが90分間続かなかったこと。強豪チームに対しても45分なら遜色のない戦いが出来ても、勝負どころで必ず失点するという致命的な問題を抱えていた。

 第3クールも内容だけなら、第2クールと劇的に変わっているわけではない。4連勝中の試合も相手を圧倒したと言うよりは、厳しい試合をものにしたという感が強い。我慢のしどころで我慢し続ける粘り強さ、押し込まれても慌てない冷静さ、90分間にわたって変わらぬパフォーマンスを見せられる安定感、そして、勝負どころで確実にゴールを奪える冷静さ。そうしたものを身につけたことがチームが変わった最大の要因になっている。



 そんな福岡と対照的なのが広島だ。チームの能力は誰もが認めるところ。第1クールでは、その能力をフルに発揮して無敗で駆け抜けた。しかし、その後は5勝7分5敗(28節終了時)と急ブレーキがかかっている。「もっと自信を持ってやって欲しかった。どういう練習をしたところで最後は気持ちのところの問題」(小野監督)。これは第26節の福岡戦後のコメントだが、小野監督は福岡とは逆の意味でメンタル面での大切さを語っている。

 広島の試合は5試合しか観戦していないが、最も強く感じられたのが第2節の鳥栖との対戦だった。それほど激しく攻め立てていたわけではない。怒涛の攻撃を繰り広げたわけでもない。しかし、落ち着いてボールを回し、両サイドへ展開して崩す姿勢は自信に溢れていた。ごく当たり前のように自分たちのサッカーを繰り返し、終わってみれば4得点を挙げた。終了間際に2点を返され1点差の勝負となったが、内容的には危なげなシーンはなかった。

 ところが、鳥栖と引き分けた第24節、福岡に敗れた第27節は、全く違うサッカーだった。怒涛の攻撃を仕掛けて相手を自陣内に押し込んでおきながらゴールが奪えない。やがて、15分辺りから自分たちでリズムを崩して相手にペースを奪われる。そして、高い位置を取る両サイドの裏をつかれて失点すると、チームはさらにリズムを崩した。鳥栖には何とか引き分けたが福岡には3−1と完敗。彼らの姿に勝ち続けていた時の自信は感じられない。

 この2試合で見せた広島の怒涛の攻撃は、第2節の鳥栖戦に比較にならないほどの迫力があった。しかし、見かけほどチャンスが作れない。最後のところで相手を崩しきれずシュートが打てないからだ。無理に攻めているような慌しさがどこかにある。「自信は中々与えて付くものじゃない。一つ一つのプレーの中で、どれだけ彼らが強いメンタリティを発揮してくれるかどうか」(小野監督)。これは福岡が勝てなかった頃、松田監督が語った内容と驚くほど一致している。



 さて、現在J2の首位を行く新潟。読者の皆さんはもうご存知だろうが、憎たらしいばかりに計算されつくしたサッカーで着々と勝点を重ねてきた。元日本代表の山口素弘、ファビーニョ、マルクスの両ブラジル人、そしてU-23代表の三田と注目選手も抱えているが、チームの戦い方は個人に依存するサッカーではなく、あらかじめ用意されたシナリオを全員が着々とこなしていくというサッカーを展開する。決して派手ではないが確かに強い。

 たとえて言うなら囲碁や将棋のようなサッカーだ。相手の実力と自分たちの実力を徹底的に分析し、ゲームプランを作成する。審判の癖さえも分析の対象だ。どんなシステムで、どんな選手起用で、そしてどんな戦術を使うことが勝利の確率が最も高いか。それを計算し、自分たちのシナリオを最大限に生かすために様々な伏線を張る。90分後の勝利という結果を目指して、何十手も先まで読みきって一つ一つのプレーを続けていく。だから敗れたチームにとっては、単なる敗戦以上に腹が立つ(笑)。

 もちろん、予定通りにいかないのもシナリオの範疇。もしかすると予想外のことが起こることさえも予定通りなのかもしれない。それさえも頭に入れて戦っている。反町監督の頭の中には、90分間の間に何が、どういう順番で起こるのかもインプットされているのだろう。起こりうる危険を避けるために、あるいは自分たちの利点をさらに大きくするために、計算されつくしたシナリオを演じていく。

 しかし、そんな新潟も昨年は終盤に大きく失速しJ1昇格を逃した。38節を終えて勝点76は首位の大分と3差、2位のC大阪とは同勝点だった。しかし、ここからの6試合を1勝3分2敗。シナリオ通りに舞台が進んでも、演じる役者が予定通りの演技を披露してくれなければシナリオは台無しだ。昇格争いの中で一番しびれる終盤に、さすがに選手たちは平常心を保てなかった。やはり最後はメンタル面での強さが求められるということだろう。



 そもそも、プロになれる選手は、高校生であれ、大学生であれ、その年代における一流プレーヤーに限られている。互いの力は横一線。そうした狭き門を潜り抜けてきた選手たちは、多少の技量の差はあっても本質的にはほとんど変わりはない。とりわけJ2にあっては、個々の実力やチームの力はほとんど横一線。そんな選手たちが繰り広げるギリギリの戦いを左右するのは勝ちたいという強い気持ちだ。ほんの僅かだけ相手よりも先に出る精神力が分かれ目になる。

 距離にするのならば、それは僅か数十センチの差でしかないかもしれない。しかし、90分間、あるいは1年間を通して、その数十センチの差を意識し続けた者だけが勝者になれる。もともと力はある選手たち。勢いだけなら1年のうちに何度かやってくる。それを自信に代え、具体的な身体能力や技術の向上へつなげることが何よりも大切なこと。スポーツの世界にマジックはない。そんな努力をコツコツと積み重ねたからこそ勝利が得られる。

 気が付いてみれば、世界で類を見ない44試合という長丁場をこなすJ2も残すところ16試合。昇格争いをしているチームは、いよいよ正念場の時期を迎え、残念ながら昇格レースに絡んでいないチームや選手にとっては、来年以降、自分たちが有利な立場でプレーするためには大切な時期に入った。気を抜いていい試合などあるはずはないが、これからの1試合は単なる1試合ではない。その重みは今まで以上に重く、プレッシャーはきつくなるばかりだ。

 それを跳ねのけて戦い続けることが出来るのは、勝利も敗戦も含めて、これまで積み重ねてきた経験を自分たちの力に代えることが出来るチームだけ。そんなチームだけが強い気持ちを持ち続けられる。もちろん福岡は、2年でJ1という至上命題を果たすために強く戦い続けなければならない。それだけが目標を達成するたった一つの方法だからだ。今の勢いを本当の意味での強い精神力に育て上げることが出来るか。それは目の前の試合、ひとつひとつにかかっている。
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