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 福岡通信 03/08/29 (金) <前へ次へindexへ>

 頑張れ!女子サッカー


 文/中倉一志
 去る8月23日、福岡市にある福岡女学院グラウンドで「平成15年度福岡県女子ジュニアユース(U-12)トレセンが開催された。目的は女子サッカーの底辺拡大と有望選手育成、そして、福岡県サッカー協会女子連盟強化のため。県下の80を越すチームに案内状が送られ、40名を越す女子ちびっ子プレーヤーが集まった。別々のチームからやってきた彼女たちは緊張を隠せなかったが、福岡県サッカー協会女子連盟強化部の指導の下、真剣になってボールを追った。

 福岡県での女子U-12の指導は始まったばかりだ。協会として指導を開始したのは今から4年前。「協会から、女子のU-12の指導を始めるので手伝って欲しいといわれたのがきっかけです。まずは、『サッカーをするから、やりたい子は集まってね』という感じで声をかけて、公園でボールを蹴っていました。人数が11人揃わないこともあったんですよ」。坂倉元さん(福岡県サッカー協会/女子連盟強化部)は、当時の様子を振り返る。

 そんな手弁当そのものの活動は、少しずつだが確実に広がりを見せはじめ、昨年から福岡市レベルでトレセンを開始。そして、今年、初めて福岡県レベルでのトレセンが開かれた。参加した選手の中には4年前、小学校1年生のときに公園でボールを追いかけていた子もいる。わけも分からずに蹴り始めたボール。しかし、サッカーの魅力にしっかりと捉まってしまったようだ。どの子の表情からも、少しでも上手くなりたいという気持ちが伝わってくる。

 しかし、指導の歴史が浅いことと競技人口が少ないことは必ずしも結びつかない。この日の参加は40数名だったが、協会が把握している女子U-12のプレーヤーは200名弱。その他にも大勢の女子ちびっ子プレーヤーがいる。技量も決して低くはない。先月行われたJ-com杯(福岡県ジュニアユーストレセン)では、男子と一緒に試合に出場していた女子も。小学生の試合に女子が男子と一緒に遜色なくプレーしているのは良く見かける光景だ。



 指導に当たるのは吉永一明さん(アビスパ福岡/ナショナルトレセン九州担当)。それを坂倉元さん、坂尾美穂さん(福岡県サッカー協会/女子連盟強化部)と女子連盟強化部のコーチが補佐する形で進められていく。1人が1つのボールを持ち、コーチを中心に円を描くように散らばると、軽いドリブルからトレーニングを開始。その後、足の内側、外側、そしてつま先でボールを扱うトレーニングに入る。ゴールデンエイジと呼ばれる世代にとっては、ボールを自由に操ることが出来るようになることは最も大切なことだ。

 その後、フェイント、ターンとトレーニングは進んでいく。ひとつのプレーが終わるたびにコーチが注意点を説明し模範プレーを見せる。その言葉の一つ一つを聞き逃さないように、プレーのコツを見逃さないように、子供たちはコーチの表情を食い入るように見つめている。炎天下でのトレーニング、しかも小学生低学年の子も混じってのトレーニングは集中力を持続させるのが難しいかと思ったが、いやいやとんでもない。誰もがこれ以上ないほど集中してトレーニングが進んでいく。

「結構、上手な子がたくさんいますね」、吉永一明さんは目を細める。同年代の男子プレーヤーと比較しても全く遜色ないと話してくれた。この年代では、フィジカル面での男女間の差が現れないため、ほとんど差がなくプレーできる。むしろ、小学校5、6年生では女子のほうがフィジカル的な発達が早いこともあるそうだ。確かに身のこなしは男子と全く変わらない。髪の毛が短かかったら、遠目からは男女の区別はつかないかもしれない。

 ただ、ゴールデンエイジと呼ばれる期間は、男子と比較すると短いそうだ。「この年代でしっかりとした技術を見につけることは男子以上に大切。今日だけで身に付くものではないので、繰り返し、繰り返し、トレーニングすることが大事」と吉永一明さんは付け加えてくれた。いつも男子に混じってプレーしている女の子にとって、他のチームの女子のプレーを見たことは刺激になったはず。次に集まるときまで、今日のトレーニングを必死になって続けることだろう。



 この日の具体的なテーマを、福岡県下に大勢の女子サッカーの仲間がいるということと、同じ女子選手のプレーを見ることで何を練習しなくちゃいけないのかを知ってもらうことと話していた坂倉さん。大勢のプレーヤーがいるといっても、チームに戻れば、男子の混じってプレーしているのは自分だけか、いても数人という状況。チーム側も「男子のついで」という位置づけを脱しきれないところもあると聞く。女子同士でプレーをしたことは、いろんな意味で貴重な経験になったはずだ。

 現段階では、次のトレセンの開催日は決まっていない。しかし、福岡県協会は、今後定期的に開催する意向を明らかにしている。最初は手探り状態かもしれない。コーチも手弁当で続ける状態が続くことになるだろう。しかし、こうしたトレーニングを続けていくことで、女子サッカーは男子のおまけではなく、ひとつの確立したスポーツであることが認知されていく。現状では、指導に当たるコーチたちの情熱に頼らざるを得ないが、せっかく芽生えた芽を大事に育てて欲しいと思う。

 そういう意味では、U-12というピラミッドの底辺をなすカテゴリーでやってきたことを、ひとつ上のカテゴリーにつなげることが重要になってくる。しかし、中学生年代の強化が女子サッカーの大きな壁のひとつになっているのが現実だ。小学生年代なら、たとえ男子に混ざるしかなくてもプレーできる環境はある。しかし、フィジカル面でも男子との差も顕著になりはじめる中学年代には受け皿がほとんど用意されていない。多くの女子プレーヤーたちが、ここでサッカーから離れていく。

 福岡県サッカー協会女子連盟強化部は、中学生年代になってもプレーできるチームを紹介するとのことであったが、まだまだその数は少ない。また、サッカーに限らず、少子化や指導者不足で存続そのものが怪しくなっている中学校のクラブ活動に、新たに女子サッカーというカテゴリーを加えることは現実的ではない。そんな中では、やはり町のクラブチームとの連携がひとつのポイントになるのではないか。あるいは、Jのクラブが女子のセクションも設置するのもひとつの手かもしれない。



 残念ながら、日本では女子サッカーというカテゴリーは未だに認知されていないといっていい。以前、あるサッカー専門誌で著名なジャーナリストが、男子と比較して低いレベルが問題であるようなことを書いているのを読んで愕然としたことがある。女子サッカーは男子のおまけではない。ひとつの確立したスポーツなのだ。どうして男子のプレーと比較する必要があるのだろう。しかし、サッカー関係者ですら男子との比較でものを言うのが現実なのだ。

 どんなスポーツにも女子のカテゴリーはある。しかし、認知されない理由が男子と比較して面白くないなどとするスポーツはない。陸上競技で男子より記録が悪いからといって面白くないという人がいるのだろうか。男子と比べてサービスエースが少ないから女子テニスが面白くないという人がいるだろうか。男子には男子の、女子には女子の特長を生かしたプレーというものがあり、それは比較対照にされるものではない。

 確かにプロの興行という観点から見れば、もっと全体のレベルを上げなければ集客面では多くは望めないだろう。またプロ化による人気の向上がスポーツを認知させるひとつの手段であることも否定できない事実だ。しかし、プロ化とスポーツの普及はイコールではない。日本における男子サッカーはJリーグの開幕と共に広く認知されたわけだが、それは既に底辺を支える競技人口がいたからこそ。その底辺を作ったのは、古くは1960年にサッカーが小中学校の体育の成果に組み込まれたからであり、1990年代にトレセン制度の見直しが行われたからであった。

 女子サッカー関係者と話していると、彼らの中には男子と女子という区別がないことに気づく。彼らが指導しているのはサッカー。そして彼らが相手にしているのはサッカーがやりたいプレーヤーたち。それがたまたま男子であるか、女子であるかの違いでしかない。「サッカーは男子がやるもの」ではなく、まずは彼女たちのプレーをひとつの独立したスポーツとして見つめること。それが我々サッカーの仲間がやるべきことなのだと思う。
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