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 福岡通信 03/10/03 (金) <前へ次へindexへ>

 更なる飛躍を目指して


 文/中倉一志
 アビスパ福岡が相変わらず好調だ。いや、好調と言うよりは実力をつけたと言ったほうが正しいだろう。ベンチーニョを中心にした攻撃の連携がよくなったこと、守備の安定感が増したこと、精神面で強くなったこと、若い選手たちが成長したこと等々、理由は多々あるが、本当に強くなった。勢いで勝っているだけではなく、厳しい試合でしっかりと結果を出していることが何よりの証拠だ。しかも、戦うたびに強くなる。頼もしい限りだ。

 強い福岡を印象付けたのが30日の甲府戦だった。甲府は派手さはないが堅実なチーム。ここまで35試合を戦って2失点以上を喫したのはわずかに8試合。平均失点は0.63でしかない。そして先制点を挙げたときの勝率は7割6分5厘にものぼる。これは、新潟、広島についでJ2では3番目。しかも、攻撃面では、小倉を中心とした藤田、石原、水越の4人の連携も高い。「今日の試合は非常に難しいと思っていた」と、松田監督も厳しい試合になることを覚悟していた。

 攻撃のパターンは福岡と良く似ている。小倉を1トップ気味にして、少し下がった位置に藤田を置き、早めに高いところへ当ててから両サイドへ展開。チャンスは左右にワイドに開いた石原と水越が作る。福岡の宮崎、古賀と真っ向からぶつかることになる。そして守備の堅実さでも五分と五分。しかも、福岡が2試合連続完封勝利ならば、甲府も無失点で3連勝中。どちらかが一方的に主導権を握ることなどあり得ない。

 予想通り、試合は高いレベルで膠着した状態が続く。ともに持ち味を発揮してサイドから攻撃を仕掛ける。そして、安定した守備でこれを跳ね返す。コンパクトなゾーン、スピーディな展開、ボールが切れることがなくテンポ良く試合が進んでいく。しかも、悪質なファールや、プロフェッショナルファールもない。もちろん、福岡の勝利を願って観戦していたのだが、そのレベルの高い緊張感に勝敗を抜きにしてゲームに引き込まれていく。



 こういう試合は、得てしてミスやセットプレーが試合の鍵を握るもの。しかし、互いに高いモチベーションを発揮する両チームに、不用意なプレーや致命的なミスは見られない。こうなってくると、勝負を分けるのは局面での勝負でいかに勝つかにかかってくる。しかし互いに隙がない。そんな状況の中で不用意な勝負をしかければ、それは裏を突かれることを意味する。いつ、誰が、どこで勝負をかけるのか。それが大きなポイントだった。

 抜群のタイミングだった。右サイドの深い位置で甲府DFと対峙した宮崎は、一瞬のタメを作ると鮮やかにDFを抜き去る。さらにバックラインに沿って中へ。個人の能力で1対1の勝負に勝った瞬間。それはゴールが生まれることを意味していた。「来い!」。記者席から見て向こう側から走りこんでくる宮崎に対し思わず声が出る。ゴール正面へ向かうショートクロス。フリーで待つベンチーニョ。そして次の瞬間、記者席で拳を突き上げた。

 福岡の2点目も、ある意味では狙い通りに生まれたものとも言える。「ハードワーク」。これは松田監督が良く口にする言葉。今シーズン大きく成長した林も監督からハードワークを求められていることを、ことあるごとに語っている。そして福嶋も「前線からの守備」という言葉を良く使う。相手ボールになったとき、素早く切り返して自陣に引くのではなく、まず、最も高い位置にいる選手がボールを追いかけることで福岡の守備が始まる。

 この試合でも福岡は高い位置から執拗にボールを追った。追えば届くような距離はもちろん、とても届かないようなボールに対してもプレッシャーをかけ続けた。KOパンチのような即効性はない。しかし、こういうプレーはジャブのように相手にプレッシャーをかけていく。そして、何度か甲府がDFラインでキープするボールを奪い返すことにも成功していた。そんな伏線があっての宮崎の追加点。偶然の産物ではない、当然の結果だった。

 個人の能力で奪い取った先制点。高い位置からボールを追うチームのスタイルを生かして奪った追加点。そして最後を締めくくったのが成長著しい林だ。「あれはアシストじゃなくて林のスーパーゴール」(宮崎)。ゴール左上段に豪快なシュートを突き刺した。林はこれで10得点。その活躍が認められて5日からのU-20代表アメリカ遠征のメンバーにも選出された。日本人には珍しいパワー系のプレーが身上。まだまだ大きく伸びる。



 ゲームデータをみると福岡と甲府との間に大きな差はない。それどころか、前半の立ち上がりと後半の立ち上がりは、むしろ甲府がペースを握っていた時間帯もあった。しかし、福岡は相手に合わせることなくジワジワとリズムを掴み、3−0という結果で試合を締めくくった。相手のミスでリズムを奪ったわけでもない。スーパープレーで流れを変えたわけでもない。淡々と自分たちのプレーを繰り返すことで試合の主導権を握ったのだった。

 第3クール以降の試合を振り返ってみると、福岡が内容で相手を圧倒した試合というのは意外と少ない。どれも紙一重の試合だったと言ってもいい。ところが、ゲームの流れを追ってみると不思議なことに危ない試合も少なかった。甲府との戦いは典型的な例とも言える。「3−0という差があるチームとは思わない。たまたまそういう結果に今日なった」。松田監督のコメントは正直な気持ちだろう。しかし、敗戦を予感した者はいなかったのではないか。

 勝負どころや我慢のしどころを、必ずといっていいほど抑えられるようになったからだ。これはセンターのラインが安定していることに大きく影響を受けている。ボールの起点になるベンチーニョ。攻守の要として欠かせない存在の米田。最終ラインで存在感を示す藏田。ボールの収まりどころがあることでチームに安定感が増した。もちろん、この3人を中心にして、残りの選手が自分の持ち味を十分に発揮していることも大きな要因である。

 そして、これもよく言われていることだが、チーム戦術が徹底されたことも、もうひとつの大きな要因だろう。ミスをしても、相手に押し込まれても、自分たちが戻るべき場所がある。手詰まりになったら、もう一度そこから始めればいい。この日の試合でもミスはあったのだが、選手たちは「だったら、やり直せばいい」とばかりに落ち着いて試合を進めた。ゲームの肝を抑えられるようになったのは、こうした裏付によるところが大きい。



「DFが安定しているので、点を取ったら負ける気がしない」。甲府戦で1ゴール、2アシストと活躍した宮崎は甲府戦終了後、ミックスゾーンで報道陣に囲まれて答えた。インタビューを求められて照れくさそうにするシャイな性格はシーズン当初と変わらない。しかし、その口調は明らかにシーズン当初とは違う。「勝ち点3が最高の良薬」と言われるが、福岡の面々を見れば、それが手にとるようにわかる。勝ち点の分だけ、彼らは確実に大きくなっている。

 ただ、現在5位という順位も現実。福岡が積み重ねられる勝ち点は最高で76。しかし、首位の新潟は既に75。以下、広島が72、川崎Fが68と続く。数字の上だけなら可能性が残されているが、現実的にはJ1昇格の可能性は厳しいといわざるを得ない。まだまだ足りないものはある。第3クール以降、チャレンジ精神で戦ってきたが、受けて立ってもなお勝てなければJ1昇格は見えてこない。ようやく見えてきた「勝者のメンタリティ」を本物にすること。それが残り8試合でやることだ。

 目指すは第3クール以上の成績。そして3強との戦いに勝ち越すことだ。常勝軍団としての誇りと自信、そして自覚を身につけること。その先にJ1昇格争いのスタートラインがある。「第4クールは全勝して前半の分を取り戻したい」(水谷)。「これからも連勝を伸ばして上位を目指す」(宮崎)。もちろん、フロント、現場スタッフ、選手、そしてサポーターの気持ちは同じだ。まだまだ成長を続けるアビスパ福岡。第4クールは更なる爆発が見られそうだ。

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