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 福岡通信 03/10/23 (木) <前へ次へindexへ>

 ゆるぎない自信と謙虚な気持ち


 文/中倉一志
「宮崎・古賀のサイドアタックと強烈な2トップに加え、もろさの消えた最終ラインが素晴らしい」
「春先の福岡とはわけが違う」
(※サンフレッチェ広島、マッチデープログラムより抜粋)

 第39節、広島vs.福岡のマッチデープログラムに福岡を警戒する言葉が並ぶ。広島は勝ち点76の2位。ここのところ7試合連続無失点中とJ1昇格レースの終盤にきて順調に勝ち点を積み重ねている。福岡は広島との勝ち点20差の5位。順位と勝ち点差だけを見れば、警戒心を強めるのは不思議にも思えた。

 しかし、福岡の第3クール以降の成績を見れば、それも当然のことだった。ここまで11勝3分2敗の成績は第3クール以降に限ればJ2首位の成績。いまJ2で最も強いチームであることは誰の目から見ても明らかだ。しかし、数字以上に広島が警戒したのは福岡の戦い方だったろう。ここまで福岡は、試合の結果に拘わらず全く同じ内容の戦い方を続けてきた。たとえ劣勢に追い込まれてもその姿は変わらない。自分たちの戦い方を信じ、それを貫き通す。こういうチームは強い。

 広島の警戒心は、そのまま立ち上がりに現れる。広島の守備ブロックがいつもより低い。守るときは5バックにさえなっている。その狙いを小野監督は次のように語る。「真ん中の起点となるプレーをしっかりと潰すこと、相手のアウトサイドは前を向いてボールを受けると非常に強みを発揮するので、出来るだけ自分のゴールの方を向いてボールを受けさせるように持っていこうというようなこと。相手を少し来させて、そこから早い攻撃に、前を向いてボールを奪いたかった」。

 だが、中盤の主導権を握ったのは福岡だった。米田と原田が縦に横にバランスを取りながら鋭い出足でプレスをかける。サイドに出たボールには両SBとボランチで協力して囲い込むと、そこへ古賀、宮崎が追い討ちをかける。速い出足と連携の取れたプレッシングは広島を後方へと追い込んだ。前線と中盤以降が大きく分断された広島。その大きなスペースを支配してボールを動かして広島の隙を伺う福岡。序盤戦の主導権は福岡のものだった。



 それでも福岡も細心の注意を払う。いつもなら高い位置にいるMFをフォローするように高目に位置する両SBだが、この日の福岡は4枚の最終ラインを崩さない。上がれないのではない。この日のゲームプランは「外は我々のほうが常に2対1の状況を最初の時点で作れる。そこを突こう」(松田監督)というもの。むやみに仕掛けずに万全の体制を整えて、必ずやってくるサイドアタックのチャンスを虎視眈々と狙っていたのだ。

 そしてその時がやってきた。時間は20分、服部がサンパイオにボールを預けると猛然と縦にダッシュ。それが合図のように右サイドの松下もポジションが上がり目になる。広島が初めて見せた攻撃的な姿勢だった。この変化を福岡は見逃さない。福岡から見て左にできたスペースをアレックスが突く。そして右サイドにできたスペースに林が流れてボールを受ける。最後は林からのクロスをベンチーニョが頭で合わせた。狙い通りの先制点だ。

 1点のビハインドを背負った広島は当然のように反撃を試みる。しかし福岡は、これを許さない。その決定的な違いはグループ戦術にあった。サイドを攻めあがるときも、中盤でプレスをかけるときも、福岡は必ず2人以上で仕掛けた。しかし広島は突破を図るときも、パスを出すときも常にプレーヤーは1人。この違いは決定的だった。アウェイの大歓声も、戦い慣れないピッチも福岡には苦にならない。2点目をいつ取るか、問題はそれだけだった。

 そして44分、原田のスルーパスに反応した古賀が左サイドのスペースに飛び出す。左足から繰り出される鋭いクロス。ゴール前を2人で守っていた広島DFの僅かな隙間を抜けて頭から飛び込んだのは宮崎。ゴールネットを揺らすと福岡から駆けつけたサポーターに向けて右拳を突き出した。ここからはいつもの勝ちパターン。攻めてくる広島を堅い守りで跳ね返し、バランスを崩して攻めあがってきたところを裏をつく。サポーターにはお馴染みのパターンだった。



 いつも通りの自分たちの戦い方、そしていつも通りの勝利。「どういうふうにしていけば勝つ確率が上がってくるかということを少しずつ自分たちのものにしている」。松田監督は好調の原因を語る。勢いで勝っていた時期を経て、力で勝てるようになった福岡。これが福岡の実力。もうそう言っていい時期だろう。誰か1人の力に頼るのではない。11人がそれぞれの特徴を余すことなく発揮。その和が15にも、20にもなる。それが福岡スタイルだ。

「向こうの方がプレッシャーのかかるという状況下であったということが一番試合内容を決めてしまったのではないか。我々は、ある意味で、何も失うものがない。その辺が一番大きなところ」。しかし、松田監督はあくまでも謙虚な姿勢を崩さない。もともと差など殆どないプロの世界では些細なことが試合の結果を大きく左右する。広島にかかるプレッシャーが福岡にとってアドバンテージになったのは事実。それを冷静に捉えること、それが本当の実力を見極めることにつながる。

「本当の力っていうのは1年を通して出る」。第27節、ホームで広島に勝利した後の松田監督の言葉だ。第1クールを圧倒的な強さで駆け抜けた広島。第3クールを終えた時点でほぼ安全圏に達したかと思われた新潟。一時はJ1昇格が絶望的になるところまで追い詰められた川崎F。しかし、39節を終えた時点で3チームは横一線。リーグ戦とはそういうものだ。確かにいまの福岡は強い。しかし通算順位が5位というのも事実。積み重ねた大きな自信と現実を受け入れる謙虚さ。それを併せ持って力はさらに大きくなる。

 そんな監督に率いられる選手たちは、真摯に、しかし自信を持って試合に臨む。ピンチの場面で跳ね返し、チャンスの場面で確実に決めるのは自信の現れ。誰一人足を止めずにハードワークを続けるプレースタイルは謙虚さの現れだ。どんな相手に対しても恐れることなく、そして驕ることもなく、やるべきことを何度も、何度も繰り返して勝利を目指す。進化を続ける福岡は、いま確実に「2年でJ1昇格」というゴールを視界に捉えた。



 大きな谷と、大きな山があった2003シーズンも、気がつけば残すところ後5試合。リーグ戦はいよいよ最終局面を迎えた。しかし、福岡にとって、この5試合は単なる締めくくりの5試合ではない。数字の上でJ1昇格の可能性がなくなった第38節の湘南戦後の記者会見で「来年に向けて戦いは始まっている」と松田監督が宣言したように、これからの5試合は、来シーズンの戦いへの助走路。落とせる試合はひとつもない。「第4クールを無敗で」とは単なるスローガンではない。

 対戦は、横浜FC、鳥栖、川崎F、新潟、水戸と続く。中でも激しい試合が予想されるのが川崎Fと新潟との対戦だ。広島とともにJ1昇格レースで激しくデッドヒートを繰り広げる両チームにとって、福岡との試合はその行方を大きく左右するゲーム。場合によっては福岡との試合結果によって昇格・残留が決定することも十分にある。そんな相手は総力を挙げて福岡に対峙するはず。福岡にとっては今シーズンで一番激しい戦いになるだろう。

 アウェイで戦う川崎F戦は、J1昇格を願う満員の川崎Fサポーターも敵にまわすことになる。また新潟戦はホームで戦うとはいえ、相手は全てを賭けて戦ってくるはず。ただでさえ周到な準備で臨む反町アルビレックス。J1昇格のかかる大一番では更なる準備を積んでくる。しかし、厳しい戦いは福岡も望むところ。そういう試合で勝利してこそ、今まで積み上げてきたものが更に大きく膨らむ。今シーズン、まだ勝ちのない相手にひるむところはない。

 横浜FC、鳥栖、水戸との対戦も決して侮れない。確かに順位は福岡が上だが勝負の世界は厳しい。油断や驕りは、たちまちにして互いの力関係を逆転させる。当たり前のことだが、勝ちが計算できる相手などはいない。全力で戦うからこそ願う結果が得られるのだ。もちろん、監督をはじめとするスタッフも選手たちも十分承知しているはず。万全の準備を整えてゆるぎない戦いを見せてくれることだろう。その先にあるJ1昇格というゴールを目指し、福岡の挑戦は続く。
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