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 福岡通信 03/10/31 (金) <前へ次へindexへ>
 初優勝を飾った鳳凰高校。全日本選手権ではL・リーグ勢に挑む

 高校チャンピオン・鳳凰高校、全九州を制す!


 文/中倉一志
 第21代目の九州女王の座を争う大会、九州女子サッカー選手権大会が10月25・26日、博多の森陸上競技場他、福岡市内のグラウンドで開催された。参加したのは各県大会を勝ち抜いた8チームと、九州女子サッカーリーグの上位2チーム(前期終了時点)の計10チーム。一発勝負のトーナメント戦で優勝を争う。試合時間は35分ハーフ。引き分けの場合はPK戦で勝負を決する。なお、準決勝以降は20分間のVゴール方式の延長戦も行われる。

 大会はダントツの優勝候補と目される福岡女学院FCアンクラスを中心に進む。福岡女学院FCアンクラスは、現在、九州女子サッカーリーグ4連覇中。今年のリーグ戦でも後期第3節まで消化して全勝をキープしている。高い個人技、細かくボールを回すパスワーク、勝負どころを知り尽くした戦術眼と、その力は他を圧倒している。敢えて課題を探せば、ボールを持ちすぎる傾向にあること。しかし、それも欠点と呼べるほどのものではない。

 この福岡女学院FCアンクラスと並んで今大会の注目を集めるのが鳳凰高校(鹿児島)だ。同じく鹿児島県の神村学園とともに九州の強豪として知られる鳳凰高校は、今年の全国女子高校サッカー選手権大会で念願の初優勝を達成。チーム戦術の共通理解という点では大会参加チーム中随一で、その堅固な守備と、正確なロングボールを多用した縦へのスピードは対戦チームにとって脅威の的だ。経験という意味ではクラブチームに分があるが、それを跳ね返す実力を持っている。

 大会は予想通り、この2チームが他を寄せ付けない力を発揮した。福岡女学院FCアンクラスがMELSA熊本FCを11-0、琉邦クラブを7−0で下して決勝戦進出を決めれば、鳳凰高校は1回戦で同じく高校生の豊国学園(福岡県代表)に8−1と圧勝。準決勝では九州女子リーグ前期2位の熊本ユナイテッドFCフローラを3−0で下して決勝戦に駒を進めた。名実ともに九州No.1の福岡女学院FCアンクラスに鳳凰高校がどう挑むか。注目の決勝戦は14:00に博多の森陸上競技場でキックオフされた。



 激しく競り合う福岡女学院FCアンクラスと鳳凰高校。
 福岡女学院FCアンクラスのフォーメーションは3−5−2。福岡の女子サッカー界では、3人のDFの後ろに1人のスイーパーを置いて4人で守るのが一般的だが、福岡女学院FCアンクラスは3人がフラットに並び、高い位置を保ってボールサイドに積極的にプレスをかけていく。ゲームを作るのは、この試合から復帰した河島美絵主将。ボランチの位置から巧みにパスを回す。前線はMFの1人が上がって3トップ気味で、反対サイドのMFとボランチが左右からオーバーラップを仕掛けていく。

 開始早々から、福岡女学院FCアンクラスは積極的な姿勢を見せる。その中心は河島選手。鳳凰高校の隙を見つけて縦へドリブルで駆け上がったかと思えば、狙い済ましたようなロングフィードを対角線上に送って鳳凰DFの隙を突く。普段は左右につなぐことが多い福岡女学院FCアンクラスだが、河島選手の縦へのプレーがアクセントになって攻撃は一段と迫力を増している。圧倒的な存在感を見せる河島選手。かつて鈴与の一員としてL・リーグでプレーした経験は伊達じゃない。

「上手さにどうやって対抗するかっていったら、うちはチーム力。個人の力に頼らない、チームで共通理解を増やしてっていう戦い方」(嶋田監督・鳳凰高校)。チャレンジャーの立場の鳳凰高校は4−4−2。やや低目の位置にコンパクトなゾーンを形成し、福岡女学院FCアンクラスが入ってくるところを捕まえて、そこからDFの裏へ放り込んで両サイドのMFを走らせる。だが、なかなか思うようにはボールを運べない。さすがは福岡女学院FCアンクラス。実力の差は大きいように思えた。

 しかし10分、鳳凰高校が待望の先制点を奪う。右からのCKのチャンス、ゴール前での競り合いの後、ボールがペナルティエリア内にこぼれた。余裕があるのか、どこか緩慢な福岡女学院FCアンクラス。そこへ鋭く入ってきたのが堤選手だ。周りがボールウォッチャーになる中、勝利への思いを右足に込めて一閃。次の瞬間、福岡女学院FCアンクラスのゴールネットが大きく揺れた。試合はこれを機に鳳凰高校の狙いどおりに進みはじめた。



 福岡女学院FCアンクラスの河島主将。しかし、攻撃は不発に。
 鳳凰高校の執拗なプレスに福岡女学院FCアンクラスから縦への意識が消え、無難に横へつなぐシーンが増える。そして鳳凰高校は、最終ラインの3人がボールサイドに激しくプレッシャーをかけてくる福岡女学院FCアンクラスの癖を逆手にとって、サイドにボールを寄せてから大きく反対サイドに展開してカウンターを仕掛けた。ボールを持たせるだけ持たせておいて、機を見てカウンターを仕掛ける。そんな鳳凰高校の作戦に福岡女学院FCアンクラスは次第に引き込まれていく。

「勝負してないじゃない。展開するかどうかは私が決める。みんなはボールを持ったら前へ勝負して」。ハーフタイム、福岡女学院FCアンクラスの河島主将がイレブンに檄を飛ばす。しかし、どうしても攻めきれない。鳳凰高校の激しいプレスに加え、切れのあるカウンターが脳裏に刻まれてしまったのだろう。どうしても縦への勝負を仕掛けきれない展開が続く。得点差はわずかに1点。しかし、その1点が、時間の経過とともに福岡女学院FCアンクラスに重くのしかかっていく。

 52分、福岡女学院FCアンクラスは、後半から出場した野村選手が、これまでの鬱憤を晴らすかのようにハーフライン近くから猛然とフリーランニング。ゴール前でボールを受けてチャンスを作った。この試合、福岡女学院FCアンクラスが初めて作ったチャンスらしいチャンスだった。このプレーに触発されたかのように、福岡女学院FCアンクラスは前へ出る。53分、河島選手のミドルシュートがクロスバーをかすめ、続く54分には、鳥井選手のシュートがボール1個分だけ右にそれる。初めて福岡女学院FCアンクラスが主導権を握った。

 しかし、鳳凰高校は慌てない。「先に(1点)いかれたりとか、返されたりとかいうのも想定していた」とは嶋田監督。鳳凰は変わらぬプレッシャーで、中に入ってくる福岡女学院FCアンクラスの選手を捕まえる。やがて福岡女学院FCアンクラスの足が止まりだすと、ここが最後の攻防とばかりに高い位置からプレスをかけ始める。そして65分、ボールを奪った鳳凰高校はドリブルを仕掛けて福岡女学院FCアンクラスの右サイドを突破。そこからのクロスボールに中央を駆け上がってきた徳留選手が頭で合わせて事実上の決勝点をゲットした。


 気迫溢れるタックル。鳳凰高校は最終ラインを割らせなかった

 ロスタイムを経て試合終了を告げるホイッスルが博多の森陸上競技場に高々と鳴り響く。鳳凰高校の初優勝の瞬間だ。「予想通り厳しい戦いとなった。練習試合でも勝ったことがない相手だったが、全国高校チャンピオンとして誇りと自信をもって戦い、70分間にわたり高い集中力を持続できた」(嶋田監督)。試合前の予想では福岡女学院FCアンクラスの圧倒的な有利が予想されていた決勝戦。それを見事に覆しての初優勝だった。

 総合力なら福岡女学院FCアンクラスが上。誰もが認めるところだろう。しかし、鳳凰高校は、これしかないという作戦を見事に実践し、福岡女学院FCアンクラスにサッカーをさせなかった。「不用意に前から行けばやられるというのはわかっていた。行くときと行かないときをはっきりと分けてやろうと。後半の最後は早いプレスで、ボールを奪ったら切り返してシュートへっていうことだった」。これが福岡女学院FCアンクラスの唯一の課題であるボールの持ちすぎを呼び、決勝点となる2点目を叩き出した。

 L・リーグ経験者の河島選手、中学3年生ながらU-18日本女子代表に選出された内堀選手等、福岡女学院FCアンクラスは豊富なタレントを擁するチーム。それと比較すれば、鳳凰高校は地味な印象すらある。戦術そのものは極めてシンプルで、華麗なテクニックやパスワークを駆使するチームではない。しかし、ひとつの目標に向かって11人が共同して相手を押さえ、ボールを運ぶ共通理解の高さは、サッカーが団体競技であることを改めて教えてくれた。

 さて、第21代目の九州女王となった鳳凰高校は、来年の1月に開幕する全日本女子サッカー選手権大会へ出場する。2回戦へ進めばL・リーグとの対戦が待っている。「公式大会でL・リーグと対戦できるのは、この大会だけ。まずはL・リーグと対戦できるようにすること。対戦できたら自分たちの持っている力を全部出したい」(嶋田監督)。持ち味は、この日も最終ラインを割らせなかった堅い守備と、両MFのスピードを生かしたサイドアタック。どこまで通用するのか、今から楽しみだ。
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