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 福岡通信 04/02/17 (火) <前へ次へindexへ>
取材にお邪魔したのはインカレ直前の土曜日。一つ一つのプレーに
熱がこもる。

 好きな気持ちと自主性を重んじて


 文/中倉一志
 まだ朝が明け切らない6:00。福岡大学キャンパスのはずれにある部室から賑やかな声が聞こえてくる。「平日はスケジュールが決まっているんですが、土日は男子の練習試合などが組まれる関係でフルコートを使うためには練習時間が不規則になるんです。取材の日は朝6:00からなんですが大丈夫でしょうか?」。取材のお願いをすると坂尾美穂監督から申し訳なさそうな声が返ってきた。だからといってひるむわけにはいかない。しかし、西に位置する福岡の6:00は、朝というよりも夜中のようだ(取材には昨年の12月にお伺いしました)。

 福岡大学サッカー部女子が設立されたのは1989年。当時、女子サッカーの強豪校として知られていた大津高校(熊本)の卒業生が学内の学生に声をかけたのが始まりだった。日本サッカー協会が女子選手の登録を始めてから既に10年たっていたが、女子がサッカーをやることはまだ珍しい頃。必死になって部員を集めて創部にこぎつけ、2〜3年かけて試合に出られるようになったという。それから14年、2003年シーズンは26名の部員が活動している。

 活動の最大の目標はインカレ(全日本女子大学サッカー選手権)での上位進出。しかし、第1回大会(1992年)から12年連続出場を続けている福岡大学でも全国の壁は厚く、第3大会(1994年)でベスト4に進出して以降、関東、関西の厚い壁に阻まれ続けている。有望なサッカー経験者が関東や関西の大学に進学してしまうこと、九州の大学女子チームは4つしかなく厳しい試合を経験できないこと等により、強化が思うよいに進まないのが、その理由だ。

 現在、福岡大学の活動の中心は九州女子サッカーリーグ。2002年シーズンまでは福岡県リーグを活動の場にしていたが、シーズン終了後に九州リーグ参入資格を得て、2003年シーズンから参戦している。参加初年度となった2003年シーズンは、8チーム中、4位と健闘した。「残留争いもない、上にもつながらない県リーグでは、どこに勝とうとか、何位になろうというものもなかった。九州リーグは降格もありますし、選手の意識が全然違う」(坂尾監督)。九州リーグへの参加はチームの強化に確実に役立っているようだ。



初心者、経験者の区別なく激しく競り合う。残念ながらインカレベスト4
の目標は来年に持ち越した。
「勝ちたいっていうのはあるんですけれど、私がサッカーに関わっている一番の理由が楽しむということ。ですから、それを大切にしています」。サッカー部を率いる坂尾監督は指導の基本方針を語る。「まあ、楽しむという言葉は、いろいろと捉え方があるので説明が難しいですけれど(笑)」。ただにこやかに、あるいは、ただレクリェーション的に愉快に過ごすことを指しているわけではないことは確かだ。愉快に過ごすだけでは何も見つけられない。

「選手が4年間充実して終えることが出来ればいいのかなと。競技志向の子、そうでない子、選手はいろいろです。ですから、ひとつの大会を目標にして、その試合に勝つためにどうやって活動していくかということを考えながらやらせています。それを1本の柱にして、それぞれの選手が楽しんで、充実して、4年後に卒業してもらいたいですね」。目標に対し、それぞれの立場でどうやって関わっていくのか。その過程でどうやってサッカーを楽しむのか。それを実践することは、サッカーを生活の中に位置付けることにつながる。

 もうひとつの大きな柱が「初心者の子がサッカーを止めなくてすむようにすること」だ。福岡大学の場合、部員の半数近くがサッカー初心者。そういう状況の中では、初心者の学生抜きにはチームは成り立たない。3年前は初心者の学生を入部後2週間で試合に出したこともある。しかし、坂尾監督は別の意味で彼女たちを大切にしたいのだという。「何かの縁でサッカーを好きになった人を大切にしたいということですか」。そう問い直すと、その通りとうなづいた。

「福岡大学の他のクラブのコーチたちには、『それじゃ勝てないよ』と言われています。そういう子を気にしてバランスをとりながらやっていたら勝てないって。だけど、自分がサッカーを指導していく上で、ここはちょっと譲りたくないんです」。どんな形であれ、サッカーに関わる人たちを大切にしたいという強い気持ちが伝わってくる。勝負にこだわっていないわけではない。けれど、サッカーが好きだという気持ちを最も大切にしたい、そんな強い意志が感じられた。



プレーを止めて指示を出す坂尾監督。まだ早朝のグラウンドに大きな
声が響き渡る。
 坂尾監督の指導方針は学生たちの間にも十分に浸透しているようだ。練習を見学していると、初心者らしい学生も、かなりキャリアがありそうな学生も、誰もが自分の力を精一杯発揮してボールを追っているのが分かる。必要以上の遠慮もなければ、自惚れもない。一つ一つの練習メニューに自分がどう取り組んでいくのか、全員がそれを考えながらボールを追いかけているように見えた。そして練習が終われば、和気あいあいとした雰囲気が漂う。しかし、それでいて礼儀は欠かさない。

「不必要な上下関係は全然ないし、いい伝統が続いていて大変いい感じです。部活動以外でも、みんな仲がいい」。そう語る森美穂子さんは大学に入ってからサッカーを始めた。「部活の雰囲気が嫌でバスケットボールを辞めました。それで、大学から始められるスポーツはないかなと思って入部しました。ここはアットホームな感じです」。そう話すの富山純子さん。この日の練習では、水溜りの残るゴール前で泥だらけになってボールをセーブしていた。

 決して初心者に甘いというわけではない。「スムーズに部活に溶け込めました。本当にいい雰囲気だし、やっていて楽しい。お互いが尊重し合えるいいチームだと思います。先輩たちが交代で教えてくれたりもするし」。重川裕加さんは小学生からサッカーを続ける選手。広島の高校を卒業して福岡にやってきた。「みんな個性派揃い。やるときはやってくれる」。エースナンバー10を背負ってゲームを作る姫野慶子さんは、みんなの顔を見ながら頼もしげに話した。

 アットホームだとか、雰囲気がいいというのは、ややもすると緊張感が途切れることに繋がりかねない。自由な雰囲気は責任の裏返しでもある。「決められて何かをするというのではなく、自分たちで上手く気づいてくれることが大切。でも、それが一番難しいんですけどね。何かあった時は上級生が気づいて、その時々で教えています」(坂尾監督)。初心者が半数近くいるという事情は、選手同士で教えあうという土壌を作り出しているようだ。



自主的にプレーを振り返り、パターンを確認しあう選手たち。
 そんな福岡大学が大切にしているのが選手たちの自主性だ。実は九州リーグへの参加も学生たちに決めさせた。「強化につながるので入らないかって持ちかけたんです。参戦するためには金銭的に負担が大きくなるので、それなら部活を辞めますっていう子が出てくるのは良くないので。選手たちで話し合って、ゴールデンウィークの遠征をやめて、それこそ1000円単位で活動経費を見直して、何とかやれるって言ってきたんで決めました」

 部活動の運営方針も全て学生たちが決めている。方針を決めるのは上級生を中心とした10名程度で組織される幹部会。そこで決めた目標を部員に徹底する。そして、1年間の全ての活動は目標を達成するために組み立てられる。競技志向の子も、そうでない子も、初心者も経験者も混在する福岡大学サッカー部女子。そんな選手たちがひとつにまとまれるのも、自主的に問題点を整理して話し合っているからなのだろう。「個人的な目標を聞かない限り、選手たちは同じことを答えますよ」。なるほど、誰に聞いても「目標はインカレベスト4」という言葉しか返ってこなかった。

「いい面も、悪い面もあるんですけど」。坂尾監督はそう前置きして続ける。「こういうのもいいかなと。選手たちが自分で考える。もし何も考えないで、監督が競技志向、チームも競技志向だったら、自分が本当にそれを目指しているかどうか分からないままに4年間を終えてしまう子って多いと思うんです。とにかく自分で決めること。だから、うちの部活動は本当に考えることが多いんですよ」

「将来もスポーツに関わって指導者になって欲しいので、生涯スポーツの考え方も、競技スポーツの厳しさも理解して欲しいと思います。だから、こういうのもいいんじゃないかなと。それに、自分で悔しがらないと、自分で勝ちたいと思わないと、自分からそういう環境に入っていかないとモチベーションも高くならないですから」。競技志向のチームに言わせれば、確かに「それじゃ勝てないよ」ということになるだろう。しかし、彼女たちの真摯な練習態度と、不必要な上下関係のない雰囲気を見ながら、「これがいいんじゃないか」と心の中でつぶやいた。
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