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 福岡通信 04/02/25 (水) <前へ次へindexへ>
九州のタイトルを欲しいままにする福岡女学院FCアンクラス

 熱い心と、強い気持ち


 文/中倉一志
 西鉄大橋駅からバスに揺られること15分。閑静な住宅街の道の突き当たりに大きな校門が見えてくる。福岡では古くから「ミッション」の名で親しまれ、セーラー服の元祖としても知られている福岡女学院のキャンパスだ。設立は1885(明治18)年。当時最も立ち遅れていた「女子教育」を行うことを目的に設立され、中高一貫教育を通して、キリスト教の教えを根幹とした全人教育を行っている。1964(昭和39)年には「福岡女学院短期大学」が、1990(平成2)年には小郡(おごおり)に「福岡女学院大学」が開学された。
(ホームページはこちらから >>> http://www.fukujo.ac.jp/

 静かで落ち着いた雰囲気が漂うキャンパス。ここに九州女子サッカー界をリードする強豪チームがいる。「福岡女学院FCアンクラス」。福岡女学院を母体とした女子サッカーのクラブチームだ。九州に住んでいる人なら女子サッカーのことをほとんど知らなくても、一度や二度は名前を聞いたことがあるだろう。アンクラスはスペイン語で「錨」の意。福岡女学院中高の制服の胸のマークに由来しており、チームのシンボルでもある。

 その戦績は九州女子サッカー界において群を抜いている。福岡県リーグでは90年に初優勝してから13連覇を達成。また、福岡県選手権6回、九州レディス6回、九州選手権3回と数々のタイトルを獲得したのに加え、九州リーグでは初参加となった第2回大会から現在まで5連覇中だ。5年間のリーグ戦で敗戦を喫したのはわずかに2回。しかも、2回とも引き分け後のPK戦によるもので、その強さは驚異的ですらある。

「最初は弱かったですよ。県リーグ最初の試合は0-11で負けたし、初めて出た九州選手権でも大津高校に0-11で負けましたから。でも、負けたところは次にやっつけたいじゃないですか。ですから、負けたところには次は勝つってやっていたら、そこそこ、やれるようになってきました」。鶴原一徳監督はさらりと話す。しかし、そこそこなどという成績ではない。なにしろ1シーズンを無敗で通すのが当たり前。負けたとしても、せいぜい1回だけなのだから。



勝負はいつも真剣勝負。たとえミニゲームでも誰も手は抜かない。
 もともとは福岡女学院の中高の部活動のひとつだった。ところが高校卒業後もサッカーを続けたいという声が上がるようになる。「福岡女学院には、女学院ファミリーという考えがあります。卒業してもいつでも戻っておいでという。自分にも、中高だけではなくサッカーを一環教育したいという考えと、ママさんになってもサッカーを続けて欲しいという考えがありました。だったらクラブチーム化して卒業後もプレーできるようにして女学院の一大クラブを作ろうと」(鶴原監督)。

 現在は福岡女学院の中高に在学する生徒を中心に、大学生、卒業生、学校にサッカー部がない他校の生徒を含めて40人を超えるクラブ員が活動を続けている。チーム編成はJリーグのトップチームにあたるアンクラスと、サテライトチームにあたるジェネシスの2つ。月曜日を除いて、平日は15:30から、土曜日は15:00から2〜3時間程度の練習を行い、日曜日は試合を中心に月に2〜3回程度活動を行っている。現在は週に2回のナイター練習も行っている。

 しかし、練習量が多いだけでは、これだけの強さは生まれない。そのあたりのことを選手兼任コーチの河島美絵さんに尋ねてみた。河島さんは福岡女学院の卒業生で、かつてのLリーガー(鈴与)。残念ながら鈴与がLリーグから撤退したため福岡に戻りサッカーを続けている。日本代表候補に選出されたこともある実力の持ち主だ。「やるからには負けるなと言っています。どんなに小さなゲームでも、たとえリフティングでもです」。

「もちろん楽しくやるのは大事。だけど試合に勝つためには頭を使って練習を厳しくやるということを徹底しています。緊張感を持って、練習のための練習じゃなく、試合をイメージしてプレーするということです」。練習を見ていると、選手たちは1対1の対面パスの練習のときでも、必ず顔を振って前後左右を確認する動作を怠らない。ボールを受ける際の身体の向きや、両腕の使い方なども、事細かに試合を意識しているのが良く分かる。



ジェネシスを指導する河島選手兼任コーチ。元L・リーガーの言葉は、
ひとつ、ひとつに重みがある
 とにかく、クラブの目標が「試合に勝つこと」であることを明確にし、全ての活動は目標を達成させるためのものということを徹底している。これは、普及と強化の両面を背負っている他のクラブとは大きく異なる部分だ。その違いは個人の価値観によるもので、もちろん、福岡女学院FCアンクラスのようなチームがあっても、それ以外の、普及と強化の両面を追うクラブがあってもいい。しかし、ここまで勝負にこだわられては、他のチームが付け入る隙を見つけられないのもうなづける。

 当然のように、福岡女学院FCアンクラスに集まってくる選手たちは勝利を求めている選手たちばかりだ。ボールを追う表情には他のクラブにない緊張感が漂う。少しでも上手くなりたい、試合では何があっても勝ちたい、そんな気持ちの選手たちは、たとえ練習でも100%の力を出してボールを追う。少しでも気を抜いたプレーをすれば、情け容赦なく河島さんの激しい声が飛ぶが、誰も嫌な顔はしない。試合に勝つという共通意識が徹底されているからだ。

 目標は全国制覇だと河島さん。そのための練習相手を求めて、L・リーグの岡山湯郷BELLEや大原学園とも練習試合をこなしているが、勝負はほぼ互角。今のままでもL・リーグ中位程度の実力はある。「足りないのは経験と気持ち」。河島さんは続ける。「L・リーグとは技術的には変わらない。むしろ上手い子もいる。ただ気持ちの面が足りない。上の人は決してあきらめたりはしない。その辺を求めていきたいですね」。河島さんがL・リーグで学んだものを伝える日々は続く。

 とにかく河島さんは負けず嫌いだ。しかし、気持ちの強さなら鶴原監督も負けてはいない。「高校、大学とサッカーの弱い学校だったので、昔からいつか強いチームに勝ってやると思っていました。だから、どうやったら勝てるかってことばかり考えています。同じ土俵でいつも戦えるのならそこそこやれる。ところが、年に1度だけ全国でやるとなると、(経験不足で)やられる。でも、そこは工夫して地方からでも勝ってみせる。みんながすごいというチームに対しても、僕はいつも絶対に勝つって思っていますから」



L・リーグとの差は経験と気持ち。どこまで気持ちを高められるかが課題
 さて最後に、熱く語る2人に女子サッカー界全般のことを尋ねてみた。サッカーファンや、我々メディアは、女子サッカーのことを「環境が悪い」と一言で済ませてしまうが、実際に現場で関わる人たちは、そんな環境の中で何を求めているのだろう。「サッカーをするために、早朝や深夜に仕事をしてグラウンドに集まってくる。この子達に限らず、女子サッカーをやっている子は熱く、すごく前向きな子が多い。だから絶対にバックアップして関東に負けないチームを作りたい」(鶴原監督)

 鶴原監督は更に続ける。「いろんなチームがもっと上手くなって、強くなって、そして底辺が広がってくれればうれしい。そして、女学院の卒業生たちも結婚する年齢になってきたので、子供をつれてサッカーをして、子供と一緒にサッカーをして、その娘が福岡女学院に入ってくるとか、そういう風に広がっていって欲しいと思う。たまたま女子サッカーに関わることになりましたが、そういう風になって欲しいと思っています」

 河島さんは、こう語る。「厳しいのは分かっているけれど、L・リーグがみんなの目標になるリーグになって欲しい。そうすることによって、地方の子供たちもL・リーグを目標に頑張ろうと思ってくれるはずです。そして自分は、そんな地方の底辺部分を引っ張っていこうと思っています。そうなるためには難しいかもしれないけれど、Jリーグがサテライトと一緒に女子リーグを持ってくれないかなと思います」。生活環境は今のままでもいい。思い切りサッカーが出来る場所が欲しいと続けた。

 サッカーがやりたい。サッカーが上手くなりたい。そんな熱い気持ちが伝わってくる取材だった。今よりほんの少しでいいから女子サッカーのことを考えて欲しい。そんな気持ちも強く伝わってきた。「私たちの思いを強く伝える場所はないでしょうか。このサイトの記事は協会まで届きますか」。河島さんに取材の最後に尋ねられた。我々の力がそれほどあるとは思えない。しかし、ほんのわずかでも力になれることを信じて、機会があるごとに女子サッカーの情報を発信しようと強く思った1日だった。
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