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 福岡通信 04/02/27 (金) <前へ次へindexへ>
メインスタンドを埋める観衆。今年の鳥栖への期待の大きさが窺える。

 サガン鳥栖の挑戦


 文/中倉一志
 誤解を恐れずに言えば、サガン鳥栖は存続することだけを目標にしてきた。運営資金はない、常勤の役員はいない、社長になって泥をかぶろうという人物も現れない。もちろん、活動するからには、いつかはJ1という夢は持ち合わせてはいても、それはずっと遠い夢。現実的な目標にはなり得なかった。サガン鳥栖はクラブが拡大していくために必要な要素を何一つ持ち合わせていなかった。そんなクラブが存続することを目標にするのは、ある意味では当然の選択だった。

 しかし、それは多くの弊害を招いた。「市民で支えるクラブ」「市民球団」。そんな言葉は心地よく聞こえる。しかし、クラブは企業。人・物・金を投入し、利潤を追求し、そして拡大していくものだ。それを無視して存続することだけを目標とすれば、クラブが地域住民の思いとは別の方向へ進んでしまうのは当然の帰結だった。良かれと思って起こした行動も、それは企業体を無視した行動につながり、そしてひずみをもたらした。

 そんなサガン鳥栖が最後の勝負に出た。ここまでに至る経緯や、期間限定とはいえJリーグが実質的な運営母体になることに対し、内外から批判が出ている。しかし、その是非はともかくとして、サガン鳥栖が存続し、やがては発展していくためには、この方法しかないのも明らかだ。そもそもの原因は、存続することだけを目的にクラブを立ち上げたところにある。プロ球団としての存続を目指すのなら、たとえ批判を浴びようと断行するしかない。

 その一環としてチーム強化にも本格的に乗り出した。監督として白羽の矢が立ったのは松本育夫監督だ。「私はサッカーで育てられた1人の男。サッカー界に何かが起きたときにその建て直し、貢献ということが私の人生。まさに私にとっては非常に名誉な仕事」。そう力強く宣言した松本監督が掲げるスローガンは「挑戦〜Challenge」。「プロ意識への挑戦」「昨年の成績を上回る為の挑戦」「勝利へのチャレンジ」の3つを挙げ、チーム改革に全てをかける。



雨にぬれながら声援を送るサポーター。彼らの声は確実に選手たちに
届いている。
 果たしてチーム改革は進むのか。3月22日、G大阪とのプレシーズンマッチを取材するために、今年初めて鳥栖スタジアムに足を運んだ。サガン鳥栖のシステムは3−5−2。GKはシュナイダー潤之介、最終ラインは朝比奈、佐藤(陽)がストッパーで、山道がリベロを務める。中盤はダブルボランチに鈴木と本橋、両WBは右に小石、左に竹村、トップ下に伊藤が構える。2トップは羽畑と鳴尾のコンビだ。GKの富永と、捻挫のためにストッパーの加藤が欠場しているが、ほぼベストメンバーと考えていい布陣だ。

 14:02、キックオフの笛が鳴った。昨年とはメンバーが大きく変わっていることもあるのだろうが、すぐにチームの様子が変わっていることに気づく。ボールを持っていない選手の動きが格段に違う。相手ボールの時にはボールホルダーにマンマークで付く選手を中心に、マイボールの時にはルックアップする選手を中心に、10人のフィールドプレイヤーが連動して動き出す。ボールホルダーが孤立してばかりだった昨シーズンとは比べ物にならない。

 そして13分、サガン鳥栖は見事なカウンターから先制点を叩き出す。本橋がドリブルで中央を駆け上がって左サイドのスペースへボールを送る。そこへ走りこんできた竹村が上げたクロスボールに鳴尾が頭で合わせた。シュートは惜しくもポストを叩いたが、その跳ね返りを伊藤が押し込んだ。流れるようにボールをつなぎ、G大阪守備網を完全に崩しきっての得点。ゴール前のG大阪の選手はただボールの行方を見ているだけだった。

 見事な得点。しかし、それ以上に目立っていたのは守備意識の高さだった。あらゆるところでマンマークについて相手の自由を奪い、1対1の局面でもJ1相手に一歩も引けをとらなかった。特に目立っていたのが鈴木と山道。鈴木は中盤の底でフェルナンジーニョを徹底マーク。最後まで自由にプレーをさせなかった。そして山道は持ち前のスピードを生かして完璧に仕事をこなした。もちろん、大黒、マグロンのマークに付いた佐藤(陽)と朝比奈が起点を作らせなかったことも大きかった。



気合を入れるゴール裏サポーター。彼らもイレブンとともに戦っている。
 G大阪に決定機を作られる場面もあったが、試合の流れは、しつこい守備とボールを奪ってからの素早い切り替えを見せる鳥栖のもの。後半開始早々の46分には、鈴木を起点に中村、竹村と流れるようにパスをつないで決定機を演出。中央に飛び込んだ伊藤のシュートはゴールならなかったがスタジアムが大いに沸いた。そして55分にも相手の最終ラインのパスミスに羽畑がシュートを放つ場面も作った。

 しかし59分、鳥栖はセットプレーから宮本のヘディングシュートを浴びて同点に追いつかれる。「ある程度頭の中に入れさせていたが、やはり一番肝心なところでやられた」と松本監督も悔しそうに、このシーンを振り返る。その直後の66分、フェルナンジーニョの退場で数的有利に立った鳥栖だったが、高い位置に出てくる遠藤とボールを捌くシジクレイの動きが掴みきれずに防戦一方。71分にはゴール前でフリーになったマグロンに逆転ゴールを決められた。

 さすがにここまでか。そう思われたが、ここから鳥栖は昨年までとの違いを見せる。75分あたりから数的優位を生かして一方的にG大阪を攻め立てはじめたのだ。後方からのロングフィード。中盤でためを作ってからの展開。スピードを生かした左右からの突破。その攻撃にスタンドから何度も歓声が上がる。77分、83分、そしてロスタイムと、決定的なチャンスを作り出した。結局ゴールは生まれず1−2で敗れたが、その内容は十分に評価できるものだった。

「今日の失点1、最初にとられたのもやはり甘さ。J1とJ2の経験の差、それから出てきたチャンスというものを確実に結びつける激しさ、強さ。そういうものが、うちのチームにはまだない」。松本監督は試合をそう評した。しかし、その一方で、「内容とすれば、ずいぶん、うちの選手たちも進歩した、自信をつけたゲーム。彼らにとっては、このチームでやっていけるという自信をつけられた一戦だった」と試合内容を評価した。



雨の中ボールボーイを務める鳥栖ユースの選手。彼らには鳥栖の勝利
こそが最高のプレゼントだ。
 もちろん、G大阪が合宿の最終日で疲労がたまっていたことも考慮しなければならない。しかし、それを差し引いても鳥栖は大きく変わった。「プロという集団はなんぞやということを徹底的に追求しようということでやってきた」。その原因を松本監督は語る。プレッシャーを受けてもミスをしないこと。豊富な活動量。リズムのあるサッカー。90分間途切れぬ闘争心。1日中プロ選手としての自覚を持った生活。これらのことを強く要求する松本監督。そして、それを選手たちが理解してきた。

 具体的な成果を問われて、「90分間走ることが出来たということ。それから激しいプレッシャーのもとでもミスをせずにゲームを展開できるようになってきた、それから相手のボールを高い位置で奪うことができるようになってきたと。それと守備の組織が、選手がようやく私のやろうとしていることを分かってきてくれた」と語った松本監督。ここまでは順調すぎるほどに調整が進んでいるようだ。

 そして、攻撃面では本橋、トップ下の伊藤の存在が効いている。本橋の高いパス能力と戦術眼と、伊藤の2列目からの飛び出しと正確なキックがチームにひとつの柱を作り出した。まだ攻撃面には力を入れていないという松本監督だが、柱が出来たことで選手同士の連携がスムーズになった。ボールを奪った後に見るスペースの場所、ボールの運び方、そしてボールを持たない選手が走りこんでいく場所等、すでに選手間で共通理解が醸成されていることが窺えた。

 いまサガン鳥栖は大きな一歩を踏み出した。そして確実に階段を上っている。そのスピードは、サポーターや報道陣の予想をはるかに上回るものだ。しかし、プロの世界は甘くはない。本番で勝利を挙げるためには、まだまだ積み重ねなければならないものがある。それは松本監督も十分承知の上だ。「一番必要なのは体験。自分ひとりで、どれだけ苦しい場面を解決したかっていう。それをこれから5日間のトレーニングで、攻撃と守備のところでやらせて逞しくさせようと思う」。サガン鳥栖の挑戦は続く。
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