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 福岡通信 04/03/12 (金) <前へ次へindexへ>

 さあ開幕!12年目のJリーグ


 文/中倉一志
 3月2日、アビスパ福岡と蔚山現代のトレーニングマッチを取材するために博多の森球技場を訪れた。スタジアム内の階段を上がりスタンドに出て、いつもの席に腰掛けてピッチを見下ろす。目の前に広がる青々とした芝生。スタンドを覆う流線型の屋根。全日本女子サッカー選手権の2回戦以来2ヵ月ぶりに訪れたスタジアムは、変わらぬ姿で出迎えてくれた。「お帰りなさい。いよいよ開幕だよ」。そう語りかけてくれているかのようだ。

 まだ誰もいないピッチの上。けれど、22人の選手たちがピッチの上を走り回っている姿が見えてくる。激しくプレッシャーを掛け合う中盤。身体をぶつけ合うゴール前での攻防。選手を後押しするサポーターの姿。ゆれるゴールネット。歓喜と落胆。そして大歓声に包まれるスタジアム。様々なシーンがよみがえる。「準備は万端、負けるはずがない」、そう思う自分がいる。「相手だって強くなっている。大丈夫かな」と思う自分がいる。期待と不安、そして緊張感。いつも開幕前に感じる複雑な気持ち。しかし、それも心地よい。

 Jリーグの日程表をスケジュール帳に書き写していく。「ここが勝負どころだな」、「この対戦は最初の山場」、「この相手も厳しいぞ」。まだ始まってもいないのに、それぞれの対戦相手との戦いに思いをはせるのはいつものこと。新しい取材ノートを用意し、愛用するデイバックに様々な取材用グッズを詰め込んでニンマリするのも年中行事だ。何度、開幕を迎えても変わらないこの気持ち。サッカーは私の心を捉えて離さない。



 さて、福岡は開幕戦で山形を博多の森に迎える。昨シーズンを15勝10分19敗の8位で終えたチームは、数字だけで判断すれば福岡が苦労することはなさそうだ。しかし、チームは生き物。昨年の成績はあくまでも過去のもの。今年の対戦を考える上での参考程度にしかならない。過去にこだわらず全力で叩きに行く必要がある。「開幕戦は44分の1以上の意味がある。昇格を狙うには非常に大事な試合。全力を尽くして勝ちに行く」。松田監督も気を引き締める。

 福岡の目標は、J2で優勝してJ1昇格を決めること。そのために福岡は「昨年度の継続性」をテーマにチームを作り上げてきた。その狙い通り、チームは順調仕上がっている。「開幕戦を迎えるにあたっての準備はできている」。松田監督も自信を見せる。まずは目の前の試合を確実にものにすることでJ1昇格を目指す。その精神も昨シーズンと変わらない。専門誌等では意外と下馬評の低い福岡だが、その実力はJ1昇格を口にするにふさわしい。

 サポーターも強い期待をチームに寄せる。「今年は勝負の年」と誰もが口にし、そして昇格することを信じている。しかし、それは単なる願望ではない。それは、どんなときでも選手とともに戦い、勝利を勝ち取るという強い意思の表れだ。昨シーズン、チームが不振にあえいだときもサポーターはチームを支えた。そして、チームを信じ、自分たちを信じ、ひとつ、ひとつの山を乗り越えていくことが勝利への道であることを知った。一丸となって戦うこと。これが出来るチームほど強いものはない。

「昨年、若い選手たちは自分たちの能力を信じてすばらしく成長してくれました。これも皆さんの暖かいご声援と叱咤激励、温かく見守っていただいたおかげだと感謝しています。その選手たちが何よりも早くJ1で戦いたいと望んでくれています。そのために、これから始まるJ2のリーグをファンの皆さんとともに戦っていきたいと思っています」。松田監督は「ファンの集い」で力強く宣言した。福岡の2年越しの努力が実るシーズンが始まる。



 サガン鳥栖のリーグ戦はアウェイの川崎戦で幕を開ける。相手はJ1昇格候補に名を連ねる強豪チーム。鳥栖はいきなり厳しい戦いを強いられることになる。しかし、松本監督は少しもひるまない。「日本人だけならうちの選手のほうが質は高い。外国人選手さえ抑えれば何とかなる」。キャンプ中は川崎のトレーニングマッチに偵察にも行かせた。昨年はわずかに3勝しかできなかった鳥栖。しかし、強豪・川崎相手に本気で勝ちに行く。

 その言葉は決してハッタリではない。どこよりも早くトレーニングを開始し、どこよりも厳しいトレーニングを課してきた。プロ意識を徹底して植え付け、チーム改革に手応えを感じているからこその発言だ。11人もの選手補強を行い、補強選手を中心に編成しなおしたチームは昨年とは見事に生まれ変わっている。松本監督の言うように、流れるような攻撃は選手の質の高さを表すもの。若干、不安を残していた守備も次第に安定感を増しつつある。

 鳥栖市にホームタウンを置くJリーグのクラブとしては、今シーズンは事実上3度目のスタートになる。消滅した鳥栖フューチャーズの負の遺産を背負い、そして、チーム設立の経緯からくる様々な問題を抱えたクラブは、正直に言えばプロになりきれないままに時を過ごした。今年は鳥栖がプロのチームとしてやっていけるかどうかを決める最後のチャンス。「いまやらなければ、いつやるんだ」。松本監督のひとつ、ひとつの言葉からは、そんな思いが伝わってくる。

 大きく変わったチーム。しかし、様々な問題を乗り切り、様々なイメージを払拭して戦うシーズンは決して簡単なものではない。本番の舞台で結果という形を残すまでには、まだまだ多くのことを乗り切らなければならないだろう。それでも、鳥栖はその戦いを勝ち抜かなければならない。そうすることでしかプロのクラブとして成長する道がないからだ。だが道は確実に見えている。様変わりした鳥栖がJ2でひと暴れすることを期待したい。



 九州唯一のJ1クラブである大分トリニータは、ハン・ベルガー監督を招いてチームの大改造に踏み切った。深く引いて守りを固め、少ないチャンスをカウンターで生かすという戦い方は、J2では通用したもののJ1では歯が立たなかった。確かに失点は最小限にとどめた。しかし、ゴールが奪えなければ勝利は見えてこない。目指すサッカーは「攻撃的なサッカー」。今シーズンの目標は、まずはJ1に定着できるチームにすることだ。

 しかし、福岡、鳥栖が順調に準備を重ねていくのに対し、大分は若干ながら調整に遅れを取っている。メンバーが固まらず、フォーメーションも固定できず、試行錯誤を繰り返したトレーニングキャンプ。終盤になってほぼ形が見えてきたが、まだ守備に不安を残している。五輪最終予選のため高松大樹を欠き、さらには開幕戦メンバーが予想されていた根本が五輪代表に追加招集される等、ベストメンバーを組めないのも痛いところだ。

 だが、ハン・ベルガー監督は強気の姿勢を崩さない。「いつもどおりにやっていくだけ。開幕までに準備が出来ているか、いないかということではなく、本当にやるしかない」。元オランダ代表のヴィチュヘ、元ブラジル代表のマグノ・アウベスらを筆頭に、戦える経験を持った選手はそろっている。不安を残すことも確かだが、その中で勝ちを掴んでいくことでチームは大きく成長するもの。アウェイで行われる柏との開幕戦に勝利して、ビッグアイに戻ってくることをサポーターは望んでいる。

 元オランダU-23代表監督の経験を持つハン・ベルガー監督はチーム改革には申し分のない人物だ。ただ、過去、Jリーグにやってきた大物監督が必ずしもJリーグで成功したわけではない危うさも持ち合わせる。チーム改革には時間がかかるもの。ハン・ベルガー監督がチームの能力を引き出せるまでの間、フロントをはじめ、クラブとして監督をサポートできるか否かに鍵がある。いずれにせよ、クラブが一丸となって改革に取り組むことが最大のポイントになるだろう。



 それぞれの人の、それぞれの思いを乗せたJリーグ。今年はどんなシーズンが待っているのだろう。熱い思いは遂げられるのか。それとも志半ばで敗れるのか。全てはサッカーの神様にしか分からない。それでも、ただひとつだけ言えることがあるとすれば、それは、今まで積み重ねてきたもの以上の結果は得られないということ。そして、たとえ苦しい時期を過ごしても、積み重ねてきたものは必ず形になって現れるということ。それを信じて戦うしかない。

 3月13日、12年目のJリーグが幕を開ける。
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