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 福岡通信 04/05/01 (土) <前へ次へindexへ>

 真摯に戦え!結果は必ず付いてくる。


 文/中倉一志
 時間はロスタイム。福岡の体制が整わないうちに財前が素早くリスタート。右サイドで受けた小原がクロスボールを上げると、これ以上ないタイミングでシルビーニョが頭で合わせた。ゴールネットに突き刺さるボール。この間、福岡の選手はただ呆然とプレーを見守るだけだった。残された時間は3分。ベンチを飛び出した松田監督(福岡)がプレーを再開するように檄を飛ばす。しかし、選手たちはうなだれて立ち尽くすだけ。もう反撃に転ずる気力は残されていなかった。

「この前の勝ち方も劇的だったが、今回の負け方も劇的だったという気がする。そういうふうに捉えてやっていこうと思う」(松田監督)。しかし、ある意味では負けるべくして負けた試合だった。この試合、ほとんどの時間を支配していたのは弛緩した雰囲気だった。積極的に攻めに出るわけでもない。かといってしっかりと守っているわけでもない。ただ仙台の選手のプレーを受けているだけで試合は進んでいた。

 2−1となってからは、がむしゃらに攻めに行った。決定的なチャンスはいくつもあった。どれかを決めていれば結果は全く違ったものになっていたかもしれない。しかし、そもそもサッカーというスポーツは、90分間をどのように過ごしたのか、そのトータルで勝負が決まる。ある局面だけを頑張ったからといって試合が大きく動くわけではない。45分をただ無駄に過ごしたチームが最終的にしっぺ返しを喰らうのは当然の帰結だ。勝負はそんなに甘くない。

 あちこちにあったスペースに飛び出せなかった。クロスを上げる相手に対して寄せられなかった。ファーサイドに上げられたクロスに対して全くといっていいほどカバーが出来ていなかった。中盤でプレスにいけずズルズルと下がった。仙台が90分間に渡ってアグレッシブな姿勢を崩さなかった。財前を捕まえられなかった。細かなことを言えばキリがない。しかし、それは単に現象面でのこと。敗因は「真摯に戦わなかった」ことに尽きる。



 昨シーズン前半の長いトンネルを抜けて、福岡は戦えるチームになった。フィジカル、技術、戦術のどれをとってもJ1昇格の最有力候補であることは依然として間違いのない事実だ。全国紙等の大手メディアでは大きく取り上げられることは少ないが、それは単に取材にやってこないという理由からのもの。福岡の実力が認められていることは、他のチームの戦い方や、記者会見での相手チームの監督の発言を聞いていれば容易に理解できる。

 しかし、プロのレベルにおいては、他のチームとの差などわずかなものだ。たとえて言うならば、あと数10センチのところを常に走りきれるのか、時々走りきれるのか、それとも全く走りきれないのか。上位、中位、下位チームの差など、その程度のものでしかない。そして、常に走りきったチームだけに栄冠が授けられる。逆に言えば、ほんの数10センチの距離で気を抜けば立場は一転。強いと思われたチームでも簡単に足元をすくわれる。

「サッカーの厳しさをもっと認識してゲームを進めなければいけないという部分が足りなかった」(松田監督)。いま福岡がJ1昇格のために手に入れなければならない最後の武器がこれだ。そして、ここまでの成績も、この足りない部分と決して無縁ではない。勝利を手にした3試合は局面でチャレンジを繰り返した。しかし、残りの4試合は無難にゲームを進め、最後の数10センチの勝負に持ち込むことをしなかった。リスクを負わないところにチャンスは生まれない。

 リーグ戦はまだ8節。劇的に勝とうが負けようが、せいぜい勝ち点3だけのことだ。いくらでも取り返しがつくだけの試合数は残されている。そういう意味では、敗戦というショックを切り替えればいいだけのこと。お互いプロ同士の試合では、負けたという結果を受け入れる度量の広さも求められる。しかし、相手を軽く見るような、あるいは怖がるような気持ちで試合を続けたら、大きな、大きなしっぺ返しが必ずどこかでやって来る。



「星勘定はしない」「目の前の試合をひとつずつ勝っていくだけ」「どんなチームにだって負けるし、どんなチームにだって勝てる」「自分たちの戦い方を繰り返しやっていくだけ」。就任以来、松田監督が何度となく口にする言葉だ。謙虚に、相手を尊重して、しかし自分たちに自信を持って戦うこと。今の福岡にはまさにこのことが求められている。サッカーを真摯に受け止めて、正面から堂々と挑むこと。その大切さを知って欲しい。

 もともと彼らはそういったことを知らないわけではない。たとえば古賀。超高校級と呼ばれて鳴り物入りでJリーグ入りした古賀は、怪我もあってJ1で活躍の場所を見つけることが出来ずに福岡へやってきた。そして、福岡でも決して彼の力が十分に発揮されていたわけではなかった。しかし、そんな状況の中から這い上がり、いまや押しも押されぬ不動の左サイドのプレーヤーになった。彼がどれだけの努力をしたのかは想像に難くない。

 たとえば平島。昨シーズン、右SBにコンバートされた川島の活躍で、平島は出場機会を失っていた。ある意味では今シーズンは彼にとって勝負の年だ。にもかかわらず、キャンプ中はサテライト組でトレーニングを重ねた。しかし、腐ることなくキャンプ中から積極的な姿勢でチャレンジを繰り返し、そして川島の怪我で回ってきた、たった1回のチャンスを生かしてレギュラーの座を勝ち取った。その姿勢は試合の中でも随所に現れている。

 そして山形。福岡は昨日、山形とプロ契約をしことを発表したが、練習生として参加したキャンプでは決していいアピールが出来たわけではなかった。実力的に足りなかったわけではない。ボールを足元で持って個人での突破にこだわるプレースタイルが福岡のスタイルにマッチしていなかったのだ。しかし、自分の良さを見失うことなく、そして福岡のスタイルに自分のプレーをマイナーチェンジして見せた。プロとしての誇りと意地だった。



 いくら実力があってもJ1昇格が簡単ではないことは過去の歴史が証明している。チームとしてチャレンジする姿勢を持つこと、44試合にわたって、そのチャレンジを続けること、そして自分たちの積み重ねてきたものを信じて真っ向からぶつかっていくこと。その先にJ1への扉がある。「いい薬になったと捉えなければいけない」(松田監督)。仙台戦を忘れることなく、自分たちが持っているチャレンジ精神を思い切りぶつけて欲しい。

 流れはまだ福岡にある。これだけ勝ち点を落とし続ければ、首位とは大きく離されても不思議ではない。しかし、幸いにもまだ勝ち点差は6でしかない。林が不振に陥いりシーズン前の思惑が崩れたかと思われたが、山形、田中という新戦力が台頭して堂々と先発メンバーとして活躍するようになった。そうこうしているうちに福嶋にキレが戻り、ベンチーニョも調子を上げてきた。サッカーの神様はこれ以上ない配慮を福岡にしてくれているようだ。

 そんな中で迎える札幌戦。これまでのもやもやを教訓にして、自分たちのスタイルを見つめなおし、誰もが脅威に感じた昨シーズン後半のアグレッシブな戦い方を見せて欲しい。勝利や順位よりも、明日の試合で求められるのは勝負に対する姿勢。チャレンジし続ける姿勢を見せれば結果はおのずと付いてくる。それはJ1昇格に向けた新たなスタートになるはずだ。そして、昨年から2年越しで福岡のJ1昇格を願うサポーターもそれを望んでいる。

 明日、全日空793便・福岡発8:00の飛行機で札幌へ向かう。真っ赤に染まるであろう札幌厚別公園競技場での戦いは厳しいものになるだろう。過去の経験から言えば、おそらく記者席も札幌を応援する雰囲気であふれているはずだ。そんな中で、自分も選手とともに戦いたいと思う。仙台戦では机を蹴飛ばした途端に決勝ゴールを奪われた(汗)。だから、あくまで冷静に。そして福岡勝利の報告をサポーターの皆さんにしたいと思う。
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