topnewscolumnhistoryspecialf-cafeabout 2002wBBSmail tolink
 福岡通信 04/10/02 (土) <前へ次へindexへ>

 戦いはまだ終わらない。
 

 文/中倉一志
 本城陸上競技場で行われたJ2第36節。福岡はJ1昇格のサバイバルレースへの生き残りをかけて京都戦に臨んだ。前節の大宮との直接対決で敗れた福岡は、2位の大宮に勝ち点8差、3位の山形に勝ち点5差をつけられての6位。デーゲームで、大宮、山形の両チームが勝利を収めており、サバイバルレースに生き残るためには京都に勝つ以外に道がない。必勝体制で臨むチームとサポーター。メディアも大きな関心を持って迎えたゲームだった。

 エジウソンの復帰で前線に起点ができた福岡は軽快なリズムでボールを回す。大きなサイドチェンジ。積極的にサイドを突破する両ワイド。立ち上がりは決して悪くはない。対する京都は守備重視。しかし、中盤のプレスは甘く、5人で守る最終ラインも安定しているとは言いがたい。しかも、攻撃面では、ロングボールを蹴りこんで、崔龍洙、黒部、熱田の3人に任せるだけ。今日はやれる。そんな雰囲気が本城陸上競技場を包む。

 しかし、手元の取材ノートにシュートシーンが書き込めない。決してリズムは悪くないのだが、福岡はシュートまで持ち込めない。そして18分、京都がCKから先制点を挙げる。ファーサイドでフリーになった黒部がヘディングシュート。これはクロスバーに当たったが、ゴール前の混戦になったところから崔龍洙に豪快に蹴りこまれた。いつものように、自分たちの時間帯に攻めきれずに隙を突かれて失点するパターン。最も警戒すべき黒部をフリーにしたことが間違いだった。

 ここから先は今シーズンの福岡を象徴するような試合が続く。ボール支配率では上回り、パスもつながる。しかし、縦へ勝負できない。判で押したようにサイドにボールを出すパターンは京都に読みきられ、チャンスらしいチャンスを作ることができない。セットプレーのチャンスはGK平井の好セーブに阻まれる。47分には京都に追加点を奪われ、米田の見事なロングシュートで1点を返したものの、77分にはCKからあっさりと黒部に3点目を奪われて福岡の敗戦が決まった。



 数字の上ではJ1昇格の可能性は残されている。だが、2位の大宮との差は勝ち点11。入替戦の権利を得られる3位の山形との勝ち点差も8。事実上、かなり厳しくなったと言わざるを得ない。記者会見場に現れた松田監督は努めて冷静に振舞ったが、選手たちの表情にはショックが隠せない。怪我のために無念の途中交代となった林は、「次の試合に向けて頑張るだけ」と話すので精一杯。「下向いても仕方ない。もう戦うしかない」と太田も足早にバスに乗り込んだ。

 活躍が期待されていた林、福嶋の不振。調子が上がらないままにチームを去ったベンチーニョ。切り札として期待されたエジウソンの怪我。得意のサイド攻撃もパターン化してしまって相手に脅威が与えられず、大きなFW向かって大きなボールを預けるだけという単調な攻撃に陥った。様々な事情でイメージする攻撃を展開できない福岡は、持っているものの半分も発揮しないままにシーズンの大半を過ごした。

 しかし、このままでは終われない。苦しいトレーニングキャンプで積み重ねてきたものや、悔しい敗戦の中から得た教訓を糧に自分たちの力の全てを相手にぶつけることなくシーズンを終えてしまうほど情けないものはない。努力を重ねてきた意地があるのなら、その気持ちを形に表わして欲しい。まだ見せていない自分たちの実力を相手チームや、応援を続けるサポーターに見せて欲しい。誰もがそう願っている。

 可能性が残されている限り、J1昇格を目指すことは当たり前のこと。しかし、その前に、選手として、チームとして、目の前の試合を力尽きるまで戦うことが今は大切だ。そして、自分たちの積み重ねてきたことの全てを披露すること、それが、今やらなければならないことだ。置かれた状況が厳しかろうと、安泰だろうと、そんなことは二の次だ。本当の意味でチームはまだ戦っていない。しかし、あと8試合もある。戦う機会は十分にある。



 サイドから攻めるというチームコンセプト自体は変える必要はないだろう。ただ、その攻撃を効果的にするためには若干の修正を施す必要がある。まずは2トップのバランス。もう少し近い位置取りをして、縦のバランスに気を配る必要がある。2人が前線に残ってボールを受けるのではなく、1人が受け、1人が裏へ飛び出すというパターンが欲しい。ボールがキープできるエジウソンが復帰したことで起点は作れる。後は思い切って飛び出すだけだ。

 もうひとつは両ワイドの動き。ここまでは2人ともがサイドの高い位置まで張り出して、まるで4トップのような布陣になることが多かった。これでは、中盤に大きなスペースが開いてしまい、後ろからトップに直接当てざるを得ない。もう少しバランスを取って、片方のMFが中に入ってくる動きが必要だろう。ここ数試合は、山形が意識的に中へ入ってくるパターンが見受けられるが、相手守備陣の意識を中へひきつけることがワイドからの攻撃をより効果的にすることにつながるはずだ。

 そしてボランチの攻撃参加。仙台戦を控えての練習では、出場停止のホベルトに代わってレギュラー組のビブスをつけた松下が、チャンスの時には最前線まで顔を出し、あるいは、ワイドの選手の外側を回って積極的にオーバーラップするシーンが繰り返された。守備バランスの良さでは定評のあるホベルトと米田のコンビだが、この日の松下のような動きが攻撃に厚みを加えることにつながるはずだ。そしてシュートで攻撃を終えること。それが相手のカウンターを防ぐことにもなる。

 ここまで言い尽くされてきたことではあるが、やはり戦う姿勢を打ち出すことも必要だ。福岡の攻撃は、ある意味でオーソドックスと言える。そのため、リスクを回避して確率の高い方法を選択する傾向にあるが、それが勝負所でさえもリスクを背負わないという結果につながっている。サッカーでは、相手の組織を崩すことがポイントになるが、そのためには、どこかの局面で1対1の勝負に勝たなければいけない。積極的に前を向いて縦に勝負を仕掛ける気持ちを持つこと。それだけで大きく局面は変わるはずだ。



 残り8試合、苦しくなった状況に悲観的な声が上がり始めている。確かに、福岡は8戦全勝した上でライバルチームの結果を待つことしか許されていない。しかし、多くのサポーターは、まだ全くあきらめていない。自分たちが応援してきたチームが、このまま終わるようなチームではないことを信じているからだ。そして、サッカーという競技は、最後の最後まで何が起こるか分からないスポーツであることを知っているからだ。

 この福岡通信でも何度もお伝えしたことだが、このフロント、このスタッフ、このチーム、そして、このサポーターとメディアでJ1昇格を果たすことを誓ってスタートした今シーズン。今まで、ただそれだけを信じて戦ってきた。苦しくなったからといって悲観的になり、戦いを放棄するような気持ちは最初から持ち合わせていない。最後までチームとともに戦い、そして最後まで結果を見届ける覚悟はできている。戦いは、まだ終わっていない。

「相手をコントロールすることはできない。コントロールできるのは自分たちだけ。自分たちのサッカーをやることが大事」。松田監督は何度もその言葉を繰り返してきた。自分たちが全勝することしかなくなったいまこそ、自分たちが積み重ねてきたサッカーを思う存分に発揮するときだ。負けることを恐れるのではなく、勝つことを目指すこと。時にはリスク覚悟で相手に勝負を挑むこと。そこに活路がある。残り試合は8。最後に福岡の実力を見せてもらいたい。
<前へ次へindexへ>
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送