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 福岡通信 04/10/25 (月) <前へ次へindexへ>
初参加の福岡県選手権から。1回戦、対誠修高校戦。

 私もいつかは"なでしこジャパン" 〜かすみFCの挑戦
 

 文/中倉一志
 なでしこジャパンの活躍によって注目を集めた女子サッカーは、ようやくスポーツとして認知され始めた。しかし、その環境は依然として整えられているとは言い難い。そんな中でも、好きなボールを追いかけて汗を流し、サッカーに打ち込む少女たちがいる。そんな少女たちのために、もっと自由にサッカーができる環境を整え、もっとサッカーを好きになってもらおうとする指導者たちがいる。その現場をレポートしようと、福岡市内で活動する女子サッカークラブを訪ねた。

「かすみFC」。女子サッカーの普及と育成を目的として2002年6月に設立された、5歳〜18歳の女子を対象としたクラブチームだ。活動の中心は福岡市城南区。学校開放を利用して毎週水曜日と土曜日に練習を行っている。今年の7月には朝倉郡三輪町に活動拠点を置く「かすみFCウィスティリア」も設立。こちらは毎週火曜日と木曜日に練習を行っている。小学生以下20名と、中高生が13名が練習に参加。笑顔を絶やさずボールを追いかけている。

「最終的には選手を育成するのが大きな目的。けれど、小学生や中学生のプレーヤーを増やさないと何も始まらない。それに、サッカーをしたいと言ってくる子供たちに何かしら、してあげたい」。そう語るのはクラブを指導する坂尾美穂監督。「かすみFCを通して、ちびっ子たちにもっとサッカーを好きになってもらいたい」とする坂尾さんは、子供たちとサッカーの出会いの場を作ることに重点を置くために、敢えて社会人のプレーヤーを外して、5歳〜18歳という年齢を選んだという。

 クラブ員は、幼稚園や少年サッカークラブでのプレー経験があり、小学校低学年ながら一定の技術レベルを持っている子もいれば、かすみFCで初めてサッカーをする子もいる。学校で女子がサッカーをプレーする環境がなく、他のクラブに所属しながら「かすみFC」の練習に参加する子もいれば、学業との両立にチャレンジしている子もいる。通う学校が異なり、環境も違う子供たち。けれど、ボールを追いかける時の気持ちはひとつだ。



この日の練習参加は3人。それでも、ちびっ子たちの表情は明るい。
 練習が行われている堤ヶ丘小学校にお邪魔したのは体育の日。あいにく前日の大雨で各小学校の運動会がこの日に順延されたこともあり練習参加は3名。それでもちびっ子たちは気にする素振を見せない。とにかく、ボールを追いかけて走り回っていることが楽しくてしょうがないようだ。ウォームアップをかねた「鬼ごっこ」から始まり、遊びながら足先でボールをコントロールするトレーニング。休憩を挟んでシュート練習、そして、ミニゲームへと進んでいく。

 サッカーをしているというよりは、ボールを使って遊んでいると言ったほうがいいかもしれない。それでいて随所にサッカーのエッセンスを加えたトレーニングメニューは、ちびっ子たちを、ごく自然にサッカーの世界に引き込んでいく。年齢によるメンタル面の成長度が大きく異なる12歳以下の子供たちを一緒に指導することは、かなり難しいと思うのだが、指導は1人、1人の子供たちに十二分に配慮されており、子供たちに違和感はないようだ。

 午後は、場所を隣の三尾池公園に移して中高生の練習。三々五々集まってくる少女たちのトレーニングは、まずは坂尾さんとの握手で始まる。「いろんな人たちと積極的にコミュニケーションをとって欲しい。その最初の段階として握手をして自分から相手に働きかけることが目的です」。普段は握手をするという習慣がない我々だが、確かに握手をすると、初対面の人でも妙に距離感が縮まった感覚を得るものだ。トレーニングを見る前から「なるほど」と納得してしまう。

 中高生の練習は技術や互いの連携を向上させるトレーニングが中心だ。フリーマンを付けた1対1から始まり、中の人数を増やしながら、パスワーク、ポジショニングを意識したミニゲームを進めていく。物静かな子。先頭に立って積極的に声をかける子。クラブ設立時は、たった一人で練習を続けていたという子。誰からもサッカーが好きでたまらないという気持ちが伝わってくる。トレーニングの予定時間が過ぎても、みんなボールを追い続けていた。



2対2のミニゲームをする中高生チーム。
 翌日は、「かすみFCウィスティリア」の練習を覗きに三輪町小学校へ。この日は小学校に隣接している公園の芝生広場でナイターで練習が行われた。参加していたのは幼稚園の年長の子から小学校5年生までの5人。こちらもボール遊びから、ボールを使った鬼ごっこで身体を温め、サッカーの練習へと移っていく。ひとつのメニューが終わるごとに子供たちは坂尾さんの周りに集まって自分たちのプレーを自慢している様子が微笑ましい。

 この日、驚かされたのは子供たちの柔軟性の高さだった。3人1組で4つのゲートの間をパスを通していくトレーニングで坂尾さんがタイムレースを提案すると、子供たちはなにやら相談を始めた。そしてスタートの笛と同時に、ボールを持たない子供がスペースへ向かって走り出したのだ。パス&ゴーとスペースへ走りこむ動き、そして、まるでスルーパスでも送るようにボールが動く。そんな難しいことは教えていないのだが、ボールを早く運ぼうと自分たちで考え出したようだ。

 このトレーニングに限らず、サッカーを始めたばかりで既成概念を持たないちびっ子たちは、他のトレーニングでも実に柔軟な発想に基づいてボールを蹴る。ところが、その発想が実に理にかなっているから面白い。「年代が上がっていくほど教えられた範疇でしか物事が考えられなくなるんですけれど、ちびっ子たちは、こちらが驚くような発想でプレーするんです」(坂尾さん)。自由にボールを追わせることの大切さが良くわかる。

 それぞれのトレーニングの中で、坂尾さんが最も大切にしていたことは互いの連携だった。「声を出して。はい、コミュニケーション、コミュニケーション」。「助けてあげて!どこへ行ったら助けられるの?」。この言葉が何度も、何度も子供たちにかけられる。そして、必要最低限のことと、プレーに関するヒント以外は教えず、自分たちで考えさせることも徹底されていた。個人と組織の融合がサッカーの最大の魅力。まだ小さいけれど、いい雰囲気のクラブだなという印象のトレーニング風景だった。



この日はオーバーヘッドキックに挑戦。上手くいくかな?
 設立2年目を迎えたクラブは今年から福岡県リーグ2部に所属して公式戦を戦っている。今年の春先は、中高生がようやく11人揃ったばかり。通う学校が違うために、試合当日に選手全員がそろうことは難しかったが、試合をしたいという子供たちの希望をかなえる形で県リーグに登録した。9月に行われた福岡県女子選手権にも初めて参加を果たした。「リーグ戦は、まだ11人で試合に出たことがないんですよ(笑)」(坂尾さん)。公式戦初勝利が当面の目標だ。

 確実に一歩ずつ歩み続ける「かすみFC」。なでしこジャパンの活躍は、残念ながら、ちびっ子女子プレーヤーたちの増加という面での影響はなかったが、それでも坂尾さんに気にする素振りはない。「女子サッカーに時間がかかるのは覚悟の上。地道にやり続けます」。現在はHPでの告知や、活動地域に張り出しているポスター、そして、口コミを中心にクラブ員の増加を図っている。

 将来的には選手育成を目指しているとはいえ、サッカーに関わりを持った女の子たちに、もっとサッカーを好きになってもらいたいという思いが「かすみFC」の根底にある。「ちびっ子たちはスポーツを始める段階。そこで、どういう形でサッカーと出会うかが大切ですから」。12歳以下のカテゴリーを持つ多くのクラブが、男子と一緒に女子をプレーさせている中で、女子だけでクラブを運営しているのも、その姿勢の表れのひとつだ。そんな思いは確実に子供たちに届いている。

「生涯サッカーと育成を成り立たせたい。ちびっ子たちがサッカーを好きになって、中学・高校でサッカーで何をしたいのかということを考えてくれれば育成につながるし、そうして育った選手たちが、学校を卒業しても『かすみFC』でやりたいといってくれたら生涯サッカーにつながる」。最後に坂尾さんは、そう話してくれた。明るく、夢中になってボールを追いかけるクラブ員たちを見ていたら、その実現は可能なような気がした。

「かすみFC」のホームページはこちら → http://kasumifc.hp.infoseek.co.jp/
「かすみFC」ウィスティリアのホームページはこちら → http://kasumifcwisteria.hp.infoseek.co.jp/
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