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 福岡通信 04/11/09 (火) <前へ次へindexへ>

 全員の力で勝ち取った勝利。
 2004Jリーグ ディビジョン2 第41節 アビスパ福岡vs.川崎フロンターレ

 取材・文/中倉一志
2004年11月06日(土)14:03キックオフ 東平尾公園博多の森球技場 観衆:9,293人 天候:晴
試合結果/アビスパ福岡2−1川崎フロンターレ(前1−1、後1−0)
得点経過/[福岡]エジウソン(24分)、[川崎]我那覇(25分)、[福岡]太田(73分)


「エゴを捨てろって言われています。チームがリードしているときに入ることが多いので守りを固めてカウンターを狙えと。チームが勝つことを考えて試合を運ぶことが大切。勝つのが一番です。でも満足はしていませんから。川崎戦は絶対に後半でも点を取りに行く展開になるので思いっきりやりたい。相手の気が緩んだ所を狙う」。雁の巣でのトレーニングを終えた後、太田はそう話した。そして66分、指揮官は太田をピッチに送り出した。

 場面は1−1。福岡の中盤の運動量にやや陰りが見え、川崎Fがリズムを掴み始めていた時間帯だった。川崎Fは、やや引き気味の布陣からボールをカット。DFラインの裏へ長いボールを蹴りこんでジュニーニョを走らせる。前半は全くといっていいほどボールを触れなかったジュニーニョにボールが集まりだし、危険な香りが漂いだしていた。太田に求められたのは、福岡に再び前へ出るパワーを与えること、そして勝負を決めるゴールを挙げることだった。

「絶対に1点を取ってやる」。太田はピッチの上に飛び出す。拮抗した流れが少しずつ福岡に傾いていく。そして73分、太田の、監督の、チームの、そしてサポーターの思いが結実する瞬間がやって来る。太田がつないだボールを拾ってアレックスが左サイドを突破。絶妙なクロスを送り込む。DF2人を押し分けるようにゴール前に入り込む太田。次の瞬間、太田の放ったヘディングシュートがGK吉原の手を弾いてゴールネットを揺らした。

 誰よりもゴールを渇望していた太田のゴール。福岡に関わる全ての人が待ち望んだゴール。川崎の息の根を止めるのには十分すぎるゴールだった。川崎Fの攻め手はロングボールだけ。守備バランスに定評のある福岡が試合を終わらせるのは、それほど難しいことではなかった。1点のリードを奪った後は、やや引き気味の布陣で守備陣形を整えてゲームを巧みにコントロール。最後まで戦う気持ちを失わず、大きな、大きな勝ち点3を積み上げた。



 J1昇格のためには勝ち点1さえ落とせない戦いを続ける福岡にとって、川崎Fとの一戦は、今シーズンの行方を決定付ける重要な一戦と捉えられていた。敗れればJ1昇格はほぼ絶望。しかも川崎Fに対しては、松田監督が就任して以来、一度も勝ち星がない。しかし、試合前の選手たちの表情には気負いも、プレッシャーも感じられなかった。勝ち続けることで身に付けた自信。自分たちのサッカーをやれば勝てる。そこには、何の雑念もなく試合に臨む姿があった。

 福岡は、立ち上がりから狙い通りの戦い方で川崎を圧倒した。ホベルトが闘志あふれるプレーで中盤のボールを拾いまくり、エジウソンが起点になって試合にアクセントを加える。「最初からガンガン行く。1対1の場面では徹底的に仕掛ける」(有光)。その言葉どおり、有光が前線で勝負を挑めば、空いたスペースに山形、宮崎の両ワイド、更には、アレックス、宮本がオーバーラップしていく。川崎Fがボールに振り回される時間が続く。

 攻撃が狙い通りなら、守備も狙い通り。下がってボールをもらいに行くジュニーニョを千代反田が徹底マーク。中盤の選手と挟み込んで自由を与えない。試合前のトレーニングで繰り返してきたパターンだ。ジュニーニョをフリーにしてしまったのは36分の一度だけ。その一度で決定的なシュートを放ったジュニーニョもさすがだが、それ以外は、ほとんど前を向かせなかった。そして24分、アレックスの折り返しをエジウソンがゴールマウスに流し込む。川崎Fのサイドのスペースを突いてのゴール。これも狙い通りだった。

 福岡に誤算があったとすれば、それは先制直後の25分に浴びた同点ゴールだった。中村から右サイドの飛弾へのロングフィードという、川崎Fの前半唯一の武器に一瞬の隙を突かれた。しかし、福岡イレブンは何事もなかったかのようにプレーを再開。再び、素早いパス回しと、これでもかと言わんばかりにスペースに飛び込んで川崎Fを自陣に押し込めた。強く戦う集団になった福岡には動揺という言葉は無縁だった。



 失点後にリズムを崩さなかったのが、この試合の最初のポイント。そして最大のポイントは後半の攻防だった。マルクス、ジュニーニョに徹底してロングボールを送る川崎Fの前に、福岡の優位性が消え始めた時間帯。ジュニーニョがボールに触るシーンが増える。しかし、福岡イレブンは決してジュニーニョを1人にはしなかった。「戦っている選手が何人いるかというところの差」(松田監督)。福岡の戦う気持ちが川崎Fに優っていた。

 そして冒頭の太田のゴール。事実上の決勝ゴールだった。福岡はここからゲームをコントロールしにかかる。77分、有光に代えて松下を投入。中盤を熱くして守備陣系を整える。そして86分には宮崎をベンチに下げて平島を送り出す。やや低い位置で川崎Fのロングボールに対応し、奪ったボールはカウンターを仕掛けてゴール前へ。そして高い位置でボールをキープして巧みに時間を使う。最近ではお馴染みになったパターンだ。

 そして試合は3分間のロスタイムに。最後まで狙い通りに試合を進めてきたとはいえ、ワンチャンスをゴールに結びつけるのが川崎Fの怖さ。福岡イレブンは細心の注意と、衰えぬ戦う気持ちで慎重にゲームを運ぶ。その姿を、サポーターはメッセージボードを頭上に掲げ、大きな歌声で後押しする。そして試合終了のホイッスル。博多の森は、今シーズン、最も大きな歓声に包まれた。

「最高のクロスが上がって、それを役者が決めた。全員で勝ち取った勝利。サポーターの皆さんとともに戦って力をもらった。本当にありがとうございます」。松田監督は、興奮気味にTV局のインタビューに答えた。選手たちは厳しい局面で身体を張り、集中力を研ぎ澄まし、何より、絶対に勝つという強い意志の元に戦った。サポーターも強い思いで声を出し続けた。ヒーローはいない。全ての人間の力を合わせて勝ち取った勝利だった。



 今季初の5連勝を飾った福岡。3位の山形が湘南と引き分けたため、勝ち点差も3に縮まった。逆転J1昇格に向けて、大きな、大きな一歩を踏み出した勝利だったと言える。しかし、ミックスゾーンに出てくる選手たちの表情は意外なほど冷静だ。自力が復活したとはいえ、残り試合に全勝しなければならない状況に変わりはない。目の前の試合に集中し、ひとつずつクリアすることが逆転への条件。次の試合に集中しているからこそ見せる表情だ。

「今日の試合は今日で終わったこと。決して、ここで浮かれてはいけない」と松田監督は気を引き締める。「最後の直接対決に向けて取りこぼしは出来ない。最後にしっかり勝てるように持っていきたい」とは増川。そして選手たちは、自分たちの戦いを続けて目の前の試合を勝つことだけに集中することが大切だと異口同音に口にする。大きな勝利にも必要以上に浮かれず、星勘定をせず、そして目の前の試合に集中する。こういうチームは強い。

 しかし、どんなときにも油断は大敵だ。42節の対戦相手である湘南は、11位とは言え同日に行われた山形との試合を引き分けたチーム。新体制の下、新たな気持ちで試合に臨んでいるチームが、今までと同じようなゲーム運びをするはずはない。更に43節の対戦相手である鳥栖も侮れない。シーズン終盤になると毎年のように上位チームを苦しめるのは良く知られるところ。ましてや九州ダービー。鳥栖にも絶対に負けられない意地がある。

 ここまで来たら相手は関係はない。松田監督の下、2年間に渡って積み重ねてきたものの全てを、目の前の試合で発揮しつくすだけだ。そして、福岡に関わる全ての人の力を結集して戦うことだ。「フロント、監督、コーチングスタッフ、そして選手、みんなの間に団結心が生まれている。その団結心を持って最後の一戦まで戦っていければ、J1昇格に向けての道を歩んでいける」(ホベルト)。厳しい戦いは、まだまだ続く。その壁を全員の力で乗り越えたい。


※記者会見の模様と選手のコメントはJ's GOALでご覧になれます。
松田監督(アビスパ福岡)記者会見 http://www.jsgoal.jp/club/2004-11/00013330.html
関塚隆監督(川崎フロンターレ)記者会見 http://www.jsgoal.jp/club/2004-11/00013332.html
試合後の選手コメント http://www.jsgoal.jp/club/2004-11/00013334.html


(アビスパ福岡) (川崎フロンターレ)
GK: 水谷雄一 GK: 吉原慎也
DF: 宮本亨 千代反田充 増川隆洋 アレックス DF: 谷口博之(85分/黒津勝) 寺田周平 佐原秀樹
MF: 山形恭平 ホベルト 米田兼一郎 宮崎光平(86分/平島崇) MF: 木村誠 久野智昭(74分/渡辺匠) 中村憲剛 飛弾暁 マルクス
FW: エジウソン(66分/太田恵介) 有光亮太(77分/松下裕樹) FW: ジュニーニョ 我那覇和樹
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