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 福岡通信 04/11/25 (木) <前へ次へindexへ>

 遂に辿り着いた最終決戦。
 2004Jリーグ ディビジョン2 第43節 アビスパ福岡vs.サガン鳥栖

 取材・文/中倉一志
2004年11月23日(火)13:00キックオフ 東平尾公園博多の森球技場 観衆:15,444人 天候:晴
試合結果/アビスパ福岡2−1サガン鳥栖(前1−1、後1−0)
得点経過/[鳥栖]本橋(15分)、[福岡]有光(27分)、アレックス(68分)


「目の前の試合に全力を尽くすことしか考えていない。常に今日の1戦が残りの試合の中で一番重要な試合。次の試合も同じこと」。湘南戦後、記者たちに囲まれる中でホベルトが話した言葉だ。一時は山形にさえ勝ち点で8もの差をつけられた福岡。J1昇格がとてつもなく遠いように感じたこともあった。そのとき、チームが確認したのは、目の前の1戦に全力を尽くすこと。その気持ちは山形を得失点差で抜いた試合後も変わらなかった。

 第43節、ホーム最終戦の相手は鳥栖。鳥栖の順位や置かれている環境を考えれば、勝ち星を計算して最終戦の山形戦のことを考えても不思議ではない相手だった。実際、私の頭の中にも、「大量得点を取れれば状況が有利になる」という考えがよぎった。しかし、前日のトレーニングで有光はこう言った。「侮れない相手。後手に回ったら内容も結果もやられることになる。最初から行く」。彼は鳥栖戦を全力で戦うことしか考えていなかった。

「今日のキーワードは平常心。いろいろなことがあるだろうし、サッカーは予測できないことがいくらでも起こる。その中で、自分たちには戻るベースがある。それさえ保険のように持っておけば、どんなことがあっても大丈夫」。指揮官は鳥栖戦の前のミーティングで、いつものサッカーを、いつものようにやることを徹底した。「コントロールできるのは自分たちだけ」。いつも口癖のように語る指揮官は、それが全てだと考えていた。

 そして、ピッチの上に立った選手たちは、焦ることもなく、気負うこともなく、山形の結果さえも気にせず、いつものように自分たちのサッカーを展開した。九州ダービーに意地と誇りを賭ける鳥栖は予想以上に手強かった。しかし、誰も慌てない。「みんなの気持ちがひとつになっているので、何でも起こせる状況にある」(松下)。その自信に揺るぎはない。雑念を持たずに、ただ目の前の勝利だけを求めて積み重ねた7つの勝ち星。福岡は、とうとう入替戦出場に王手をかけた。



 ホイッスルと同時に福岡は鳥栖に襲い掛かった。それは全力で戦う意思表示だ。そして5分を過ぎた辺りから、試合はワンサイドゲームの気配が漂う。エジウソンを中心にして細かく、シンプルにボールを回し、両サイドから積極的に攻め上がる。鳥栖の苦し紛れのクリアは、DFが確実にボールのコースを押さえ、あるいはホベルトと米田が難なくカットしてボールを渡さない。ボールが動くのは殆ど鳥栖陣内。博多の森のボルテージが早くも上がる。

 ところが、どんな形からでもゴールが生まれてしまうのがサッカーだ。一息ついた形の福岡に何気ないミスが生まれる。取り立てて気にするほどのものではなかったが、鳥栖が福岡陣内に入り込み、そしてCKが与えられた。竹村が選択したのは低いボール。ゴール前で交錯する選手の足元を抜けたボールが、本橋の目の前にこぼれた。「ただこぼれてきたから蹴っただけ」。本橋が右足で合わせたボールが福岡のゴールネットを揺らした。

 静まり返る博多の森。ややもすればリズムが崩れてもおかしくない展開だった。しかし、選手たちは逞しかった。17分、松下のFKに千代反田が頭で合わせたシュートが鳥栖のゴールポストをかすめる。23分、ホベルトが放ったミドルシュートがGKを襲う。「いままでやってきたことを継続するだけだった」(有光)。福岡イレブンは落ち着いて体制を整え、そして、少しずつ鳥栖を押し戻していく。

 そして27分、福岡は同点ゴールを叩き出す。決めたのは有光だ。松下からのフィードに反応してラインの裏へ飛び出していく有光。「(マークに付いていた)加藤が若かった。スピードを意識したポジション取りが必要。並んでしまったらダメ」。松本監督はこのシーンを振り返ったが、スピード勝負に持ち込んだ時点で有光の勝ちだった。軽いステップで加藤を置き去りにしてGKと1対1に。後は落ち着いて流し込むだけだった。



 その後は福岡のペース。ところが後半に入ると鳥栖はアグレッシブに前に出てきた。「内容的には今季1、2を争う、最悪の試合だった」(佐藤大実)という京都戦の反省から、鳥栖は守備戦術を修正。パスの出たところにプレッシャーをかけるのではなく、中盤から付いていってパスを出させないようにしてきたのだ。これが功を奏すことになる。アグレッシブにボールに付いてくる鳥栖の前に、福岡のパス回しから軽快なリズムが消えた。

 試合の流れは五分と五分。一進一退の攻防が続く。鳥栖は、スピードある有光には山道が対応。鋭い出足で福岡のパスワークを抑え、奪ったボールをシンプルに前へ渡して、竹村、佐藤(大)、高橋の3人に勝負させる。一方の福岡は、宮崎を下げて太田を投入。太田をターゲットマンにし、有光を左サイドに下げて打開を図る。しかし、高い集中力を維持する両チームは最終ラインの突破を許さない。互いにシュートを打たせてもらえず、中盤を抜け出せない展開が続く。

 この膠着状態の先手を取ったのは福岡。68分、松下のFKを増川がGKとせりながら頭で落としたところに、アレックスがダイビングヘッドでゴールネットを揺らす。緊迫感から解き放たれた博多の森に大歓声が沸き起こる。しかし、鳥栖はまだ反撃を諦めない。中盤を省略して両サイドのスペースにロングボールをフィード。そこを縦に走りこむ得意のパターンで同点ゴールを目指す。まだ勝負は決まらない。その後も緊迫したムードの中で試合が進んでいく。

 しかし、福岡の6連勝中の失点はわずかに3。この安定感ある守備が、緊迫した試合を制する原動力になった。中盤ではホベルトがチャンスの芽を確実に摘み、最終ラインでは増川が大きな壁となって鳥栖のボールを跳ね返す。そして、ゲームキャプテンの千代反田がクレバーなカバーリングを見せた。やがて残り時間が10分を切った辺りから福岡がゲームをコントロール。最後は高い位置で時間を費やす余裕を見せて鳥栖の反撃を振り切った。



 福岡にとって決して楽な試合ではなかった。「試合数が少なくなっていく中で、プレッシャーがないという方がおかしい。しかも、九州ダービー。鳥栖のモチベーションも相当なものがあるし、非常に難しい試合にはなると思っていた」(松田監督)。その言葉通り、鳥栖は力以上のものを発揮し、かつてジャイアントキラーと呼ばれた鳥栖らしい戦い方を見せた。そんな鳥栖を退けたのは、福岡の自分たちを信じる力と、J1昇格を強く求める思いだった。

 同時刻に行われていた山形と水戸の対戦が引分けに終わったことで、福岡は山形に勝ち点2の差をつけて最終節の直接対決に臨むことになった。最終節で引分け以上の成績を残せば福岡の3位が決まる。数字の上では福岡が一歩有利に立ったことになる。崖っぷちからの生還にミックスゾーンで選手を囲む取材陣の顔も明るい。しかし、意外にも選手たちの表情は、これまでと全く変わらないものだった。いやだからこそ、ここまで勝ち星を重ねられたのだ。

「今日でこの結果は終わったわけで、今度は山形戦のことを頭の中に入れて全力で戦う姿勢で全員で頑張っていきたい」。貴重な決勝ゴールを挙げたアレックスは、そう答えた。2得点に絡んだ松下はにこりとさえもしない。「結果的に引き分けでもいいというのは保険みたいなもの。別にアドバンテージだとは思っていない。とにかく、今のサッカーをきちっとやって勝ち点3を取るという試合をやることに尽きる」。松田監督の言葉はチームの誰もが思っている言葉だった。

 福岡がJ1に昇格するには、入替戦を含めて3試合を勝ち続けなければいけない。しかし、それも山形戦に勝ってこそ。まずは目の前の試合を制することでしか次はない。事情は山形も同じ。最後は総力をかけた戦いになるだろう。試されるのは福岡のチームとしての力だけではなく、サポーター、メディア、そしてチームに関わる全ての人たちの思いの強さだ。山形の地で、あるいは福岡の地から、チームをありったけの思いで後押ししよう。「We WILL make it」。ゴールは目の前だ。


※記者会見の模様と選手のコメントはJ's GOALでご覧になれます。
松田監督(アビスパ福岡)記者会見 http://www.jsgoal.jp/club/2004-11/00013881.html
松本育夫監督(サガン鳥栖)記者会見 http://www.jsgoal.jp/club/2004-11/00013882.html
試合後の選手コメント http://www.jsgoal.jp/club/2004-11/00013877.html


(アビスパ福岡) (サガン鳥栖)
GK: 水谷雄一 GK: 富永康博
DF: 宮本亨 千代反田充 増川隆洋 アレックス DF: 加藤秀典 井手口純 山道高平
MF: 松下裕樹 米田兼一郎 ホベルト 宮崎光平(57分/太田恵介) MF: 村主博正 本橋卓巳 落合正幸 中村祥朗(75分/鳴尾直軌)
FW: エジウソン(68分/福嶋洋) 有光亮太(85分/平島崇) FW: 高橋義希 佐藤大実(80分/下司隆士) 竹村栄哉
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