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 福岡通信 04/12/16 (木) <前へ次へindexへ>

 何も終わっていない。挑戦はまだまだ続く。


 文/中倉一志
 後半に入ると柏がいきなりギアチェンジをして前に出始めた。前半は互角以上の戦いを見せながら、後半開始直後にゴールを奪われた第1戦が脳裏に浮かぶ。2度と同じ失敗はしないはずだ。そう誰もが信じたかったろう。しかし、太田の投入が裏目に出た福岡は、太田の落としたボールを逆に奪ってカウンター気味に攻めあがってくる柏の攻撃に対応できない時間が続く。そして57分、DFラインのキックミスを奪われて、最後は宇野澤にゴールネットを揺らされた。事実上の敗北が決まった瞬間だった。

 結局、その直後の61分にも駄目押し点を奪われ、その後はプレッシャーから解き放たれた柏の前にゲームをさせてもらえなかった。71分には山形が、73分には太田が意地を見せるシュートを放つもわずかに決まらず。試合は第1試合と同じ0−2のスコアで幕を閉じた。実は入れ替え戦が始まる前、福岡有利を予想する声は多かった。それは福岡サイドからだけではなく、私の在京のサッカー仲間の多くも福岡を支持していた。しかし、2試合を終えて実感したことは、J1とJ2の間にある大きな力量の差だった。

 細かなところまで言えば、あらゆる面でクォリティの差はある。しかし、絶対的な差として存在したのは2つ。まずは得点能力の差だ。FW陣の技術はもとより、危険な場所に入り込む能力と、それをフォローして厚みのある攻撃を作り出すチームの能力には、残念だが大きな差があったと言わざるを得ない。チャンスを作り出す組織力では決して劣ってはいなかったが、そこから先の危険な匂いを福岡は発することが出来なかった。

 そしてもうひとつが、いわゆる判断のスピードだ。主導権争いを演じているうちは、それほどの差を感じない。しかし、チャンスとピンチをかぎ分ける嗅覚には大きな差があり、嗅ぎ分けた瞬間に行動に移る速さの違いは決定的でもあった。入れ替え戦で福岡が奪われた4得点は、いずれもわずかな隙から一気に奪われたもの。決してJ2では経験の出来ない失点の仕方だった。それは1年間に渡って、J2とは比べ物にならない緊張感の中で戦っているからこそ身につく能力と言えるものだった。



 もちろん、2連敗の悔しさはある。まして福岡の仕上がり具合は上々で、しかも試合では力を出し切ったのだから。しかし、それでもなお見せ付けられたJ1の底力に完敗を認めざるを得ない。接戦に思えた第1試合も、改めて振り返ってみれば、届きそうで届かない差があった。クロスボールの質とラストパスの精度に差があることや、FWの得点能力に違いがあることは理解していたが、それとは別の、勝負に対する嗅覚の鋭さが、これほどまでに違うとは正直に言って思ってもみなかった。

 しかし、そういった違いを身をもって知ることが出来たという意味では、若い福岡の選手たちにとっては、これ以上ない経験をしたシーズンであったことも確かだ。プレッシャーの中で戦い抜いたリーグ戦と、最後まで昇格をかけて争ったことで積んだ多くの経験は、何物にも代え難い財産。大切なことは、この経験を糧にして、自分たちをひとまわりも、ふたまわりも大きくすること。大きな犠牲の上に手に入れた財産だからこそ、次へ生かさなければならない。

 来シーズンは、J1昇格は夢ではなくノルマになる。そんな福岡にとって、J2で勝つことだけが目標ではない。見せ付けられた差が悔しいのなら、J1で戦えるチームになることを目指す中でJ2のリーグ戦を勝ち抜くことが必要だ。44試合の長丁場を、そして日々のトレーニングの中でも、一時たりとも集中を切らさず厳しいプレッシャーを想定してボールを扱うこと。それ以外に、この経験を自分たちの身体にしみこませる術はない。

 そうした厳しいプレッシャーの中に身を置くことで個々の技術レベルをアップさせること。それが、来シーズンも現有戦力で戦うことが前提となる福岡にとっては欠かせない。FWの得点能力の向上はもちろん、「J1相手に組織的な守備が通用した」と言われる守備陣でさえミスは多く、J1のチームを無失点で抑えることは、まだまだ難しい。J2の中でなら十分に戦える力は着いた。しかし、それでは足りない。厳しく自分自身を追い込んで欲しい。



 チーム以外のところにも課題は残されている。2年前に「新生アビスパ」として再出発を果たしたクラブだが、側面援助という部分では工夫の余地がある。その主たるものが入場者数の確保だ。今シーズンの有料入場者数は1000名増という結果になったが、まだまだスタジアム全体で選手たちを後押しする環境が整ったとは言えない。リーグ終盤の連勝で市民の注目を集めた形にはなったが、それでも福岡に関心の低い市民は多い。

 特定の試合をポイントにおいて満員運動を行うことに異論があるわけではない。しかし、もっと告知活動があっていい。予算の問題など様々な事情はあるだろうが、積極的に市民に働きかける方法はいくつもあるはずだ。そして、地域密着のために現在行っている様々な施策についても積極的にアピールする必要があるだろう。サッカーファンがスタジアムに足を運ぶのは当たり前。サッカーファンではなくても、福岡のチームだから応援するという人たちを増やすことこそが大事なのだ。

 そう言う私自信も力の無さを感じている。尤も、もともと力などない私が何かをしたところで福岡に影響があるわけではないのだが、それでも、もっと何かが出来たはずの思いは消えない。この思いは2002年シーズン終了後に感じた気持ちと同質のものだ。6年前に32年ぶりに戻ってきた福岡に永住することを決めたいま、もう一度、自分の活動を見つめ直したいと思う。微々たるものかもしれないが、何か出来ることがあるはずだからだ。

 そしてメディアの力も欠かせない。福岡がもっと大きくなっていくためには、いろんな意味で世間への露出が必要だ。地元に拠点を置くメディアなら、地元で活動する人たちを育てるという視点をもって取材をお願いしたい。もちろん、熱心に取材を続けてくれているメディアや、上司の反対を押し切って自腹でアウェイまで取材に来てくれたディレクターもいる。しかし、その温度差はあまりにも激しい。開幕直後とJ1昇格の可能性が高まった時だけ記者が異様に増えるというのは健全な姿ではないように思う。



 一方、J1昇格という目標を逃した今シーズンの中で、素晴らしい活動をしてくれたのがサポーターだった。シーズン中は様々なことがあったにも拘わらず、何一つ文句を言わず、チームを支える気持ちを失わず、最後までチームとともに戦った。彼らの視線が捉えていたのはJ1昇格。そのために、どんなことがあっても一丸となって戦う姿勢を崩さなかった。サポーターが歌う中に入っていったとき、思わず涙ぐみそうになったこともある。

 そんなサポーターだからこそ、目標を達成できなかったいま、様々な疑問を持っていることだろう。これから進む来シーズンへの体制作りにも意見があるかもしれない。そんな様々な疑問点をひとつずつ整理して、来シーズンも、またチームと一丸となって戦って欲しい。サポーターとひとつになれないチームがJ1に昇格したためしはない。それは、おそらく来シーズンは昇格候補No.1になるであろう福岡でさえ例外ではない。

 長いようで短かったシーズン。チームは成長の後を見せたが、J1昇格の夢は叶わず、しかもJ1の底力を見せ付けられた。いま複雑な気分でシーズンオフを迎えている。しかし、何も終わってはいない。チームが、サポーターが、そしてチームに関係する全ての人たちがJ1昇格の夢を持ち続ける限り、福岡の挑戦は終わらない。やれることはまだまだある。チームも、もっともっと成長するはずだ。悔しがっている時間はない。J1昇格に向けてスタートしよう。
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