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 福岡通信 05/01/18 (火) <前へ次へindexへ>

 心を打たれた「ひたむきさ」
 

 取材・文/中倉一志
「忙しい」という言葉ほど便利なものはない。「最近、どうですか」と尋ねられたら、「いやぁ〜、貧乏暇なしです。忙しくて、忙しくて」と答えておけば、とりあえずは、その場を凌ぐことが出来る。それだからこそ、「忙しい」という言葉は使わないようにしているつもりだが、ついつい「忙しい」と口に出す弱い自分がいる(汗)。気が付いたら年末年始のご挨拶もしないまま、そして「福岡通信」を1ヶ月も更新せずにしてしまった。いまさらながら、お詫びを申し上げるとともに、今年も引き続きのご愛読をお願いします。

 さて、毎年の恒例行事ではあるのだが、今年も天皇杯を追いかけて東上し、元旦を国立競技場で迎え、サッカー界のビッグイベントのひとつである全国高校サッカー選手権を取材して、約3週間ぶりに福岡の自宅に戻った。12月23日に福岡を立ってから、高校選手権の決勝戦までの19日間で取材した試合は21試合。その間には、関西オフミと関東オフミの忘年会に参加する機会にも恵まれ、1年の中で最もサッカー漬けの度合いが高い3週間だった。

 シーズンの大半をアビスパ福岡の取材に費やしている自分にとって、違うカテゴリーの試合を取材することは、とても刺激になる。年々価値が低下していると言われる天皇杯だが、やはりJ1チームの試合は随所にJ2との大きな違いを感じさせてくれるし、ユース世代の選手のプレーには、彼らがこれからどんな選手に育つのかという期待感が溢れている。そして女子サッカーにはJリーグが忘れかけているフェアプレーがある。

 様々な試合を観ながら、毎年のように、いろんなことを考えさせられるのだが、この年末年始に最も印象に残ったのが「ひたむきさ」ということだった。短期間にこれだけの試合を観れば、中には期待を裏切られる試合もあるものだが、今年はそれを感じることがなかった。もちろん、それぞれの試合が各カテゴリーの最高峰の試合であることも関係しているのだろうが、どの試合にもボールに対する「ひたむきさ」があり、それがいつも以上に私をサッカーに惹きつけた。



 私に最も驚きを与えてくれたのは東京Vの試合振りだった。東京ヴェルディ1969のファンやサポーターの方には失礼な話だが、私の中では、汗かきプレーや、なりふりかまわない姿という言葉は東京Vとは無関係だった。しかし、それがとんでもない勘違いであったことを天皇杯を取材して気づかされた。準々決勝の草津戦、準決勝のG大阪戦、そして決勝での磐田戦も、彼らを支えていたのはボールに対する「ひたむきさ」だった。

 3試合に共通していたのは、ピンチに追い込まれたときのゴール前での頑張りと、前線でボールを追いかける平本と飯尾の「ひたむきさ」。ボールを足元につなぐサッカーという伝統のスタイルに、なりふり構わずボールに身体をぶつけていく姿勢が加わった東京Vは私の心を強く惹きつけた。それは全盛期のように華麗なスタイルと呼べるものではない。しかし、ゲームに対する貪欲さが見ているものにひしひしと伝わってくるスタイルだった。

 その象徴となったのが元旦の決勝戦。ゆったりと構える磐田に対し、立ち上がりから積極的に仕掛けた。決定的なシュートを外す姿には気負いのようなものも感じられたが、それでも、なりふり構わず前に出る姿勢で1点を奪う。その後は目を覚ました磐田の前に防戦一方。前半終了間際に10人で戦うことを余儀なくされたときには、さすがにこれまでかと思われた。しかし、彼らの勝利に対する意欲は衰えるどころか、更に強くなったようにさえ感じられた。

 一方的な展開に持ち込まれながらも磐田の猛攻を1点に抑えた守備陣。平本の猛烈なプレッシャーと、鬼気迫るドリブルから奪った2点目。最後は多くの選手が足をつりながらも同点ゴールを許さなかった。試合後のインタビューで、飯尾平本、そして山田は、様々な思いを抱えていたことを口にした。そんな思いの全てをボールにぶつけることで勝ち取った日本一の栄冠。理屈抜きに、彼らのプレーは観客の心を打った。チャンピオンの名にふさわしいチームだった。



 天皇杯決勝戦に先立って行われた全日本女子サッカー選手権では日テレ・ベレーザが4大会ぶりの優勝を飾って女王の座を奪回したが、この大会も見所の多い試合だった。特に西が丘で行われた準決勝の2試合が印象に残る。試合前から振り出した雪はみるみるうちに西が丘サッカー場のピッチを覆いつくし、試合中も視界がさえぎられるほどの大雪に見舞われる最悪のコンディション。しかし、選手たちは何事もなかったかのようにボールを追った。

 降り積もる雪の中で果敢にスライディングをしかけ、すべる足元を気にする素振も見せずにゴールを目指した。やりにくくなかったわけはないのだが、とにかく、ひたむきにボールを追い、試合後は誰も雪を言い訳にしなかった。戦術こそ、ボールを前に蹴りだすことに徹してはいたが、記者席で見ている限り、彼女たちのプレーに違和感はなかった。それは彼女たちがボールを追うことに集中しきっていたからに他ならない。

 そして取材旅行の最終戦となったのが高校サッカー選手権大会の決勝戦。「感動」などという言葉を使うと安っぽい感じになってしまうのだが、敢えて「感動」したと伝えたい。鹿児島実業と市立船橋には突出した選手はおらず、必ずしも完成度の高いチームではなかったが、力の限りに攻め、仲間とともにゴールを死守する姿には高校サッカーの原点があり、そしてそれはスポーツの原点とも言えるものだった。

 3年間積み重ねてきたものの全てを賭けて、仲間とともに目の前の試合に勝利することだけに集中して戦った決勝戦。その姿勢は観客の心を掴んだ。「高校生らしい、皆さんが感動してくれるサッカーが出来たら、全国の高校サッカー仲間に恩返しができるのではないかと考えていた。飛び抜けた選手がいるわけではないけれど、そういう選手じゃなくても頑張って感動を与えてくれるところまでは成長できる」。松澤総監督の言葉が強く印象に残った。



 いろんな出来事があった2004年シーズンは、1月16日に行われた全日本大学サッカー選手権大会の決勝戦を最後に幕を閉じた。そして1月29日に行われるキリンチャレンジカップで早くも2005年シーズンが開幕し、Jクラブのトレーニングキャンプ、高校の新人戦と各カテゴリーも新たなステージが始まる。2月9日には、いよいよワールドカップアジア最終予選の火蓋が切って落とされる。本当にサッカーには、シーズンオフという言葉が似合わない。

 新しいシーズンには、一体どんな出来事が待っているのだろうか。「サッカーは何でもありのスポーツ」と呼ばれているように、今年も、きっと思いがけないような出来事がいくつも待っていることだろう。時には喜びを爆発させ、時には悲しみにくれる。一喜一憂してはいけないと思いながら、その時々で試合の結果に大きく心が揺さぶられる。それもサッカー。好きになってしまったら、そんな出来事と付き合っていくしかない。

 ただ、願わくば、2004年シーズンの締めくくりに感じた「ひたむきさ」を忘れずに過ごしたいと思う。選手も、観客も、そして我々メディアも、それぞれの立場で、「ひたむきさ」を忘れずにサッカーと関わって欲しいと思う。たかがサッカー。されどサッカー。ひたむきに関わることでいろんなことが見えてくる。それは様々なことを私たちに教えてくれるはずだ。

 いくつもの試合を通して、思い出させられた、ひたむきに取り組むことの大切さ。それは、何も振り返ることもせずに、そして何も志を立てないままに年越しをしてしまったしなかった私に、サッカーの神様がくれた新しい年へのプレゼントだったように思う。2度目の新年を迎えた2002world.com、そして7年目に入る福岡通信だが、改めて初心に戻って、ひたむきに運営を続けたいと思う。読者の皆さん、今年もよろしくお願いします。
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