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 福岡通信 05/01/20 (木) <前へ次へindexへ>
photo by 星智徳

 夢への第一歩
 

 取材・文/中倉一志 写真/星智徳
 まだ誰もいないピッチの上に松本監督が顔を現した。空に目をやり、そしてスタンドに目を移す。「お客さんは来るかな」。誰に話しかけるともなくつぶやいた。1月15日は新生サガン鳥栖のお披露目の日。さすがの松本監督も、どれだけの人が関心を持ってくれるのか気になるようだ。やがて、2、3人しかいなかった観客はみるみるうちに増え、最終的には300人に。そして10:30、いよいよ生まれ変わったサガン鳥栖がベールを脱いだ。

 スタジアムDJの選手紹介に合わせて、選手たちが1人ずつピッチの上に姿を現す。「新しく出来上がったチームだからお披露目をしなくてはいけないし、新しく来た選手たちも、けじめのつけたスタートができれば、今シーズンの大きな力になる」という松本監督の発案で行われたセレモニー。引き締まった顔で登場する選手たちに、スタンドから太鼓の音と声援が送られる。この時期は新たなシーズンを控え期待と不安が入り混じる時期だが、今年に限ってはサポーターは大きな期待に胸を膨らませているように見える。

 新たな運営会社となる(株)サガン・ドリームスの井川社長がつけたというコンセプトは「夢づくり」。チームお披露目の挨拶に立った松本監督は、J1昇格の実現と、誰からも素晴らしいと認められるチームを作ることを夢として挙げた。そして、穏やかな口調ながら強い意思を込めて次のように結んだ。「時に厳しく、時に暖かくこのチームを見守っていただいて、12月7日にはJ1昇格という素晴らしい結果を出したいと思います」

 例年なら「お決まり」程度にしか聞こえない言葉も、今年は響きが違う。何しろチームの半数が新たに補強した選手。その選手たちの顔ぶれと経歴を見れば、単なる入替でないことは誰にでも分かる。加えて東京Vから岸野ヘッドコーチを、ジュビロからは菊池フィジカルコーチを招聘。選手として優勝経験を持つ内藤コーチをサテライトからトップチームに引き上げた。そして、この日のセレモニー。本気であることを示すには十分すぎるものだ。



 10:45、セレモニーへを終えて練習が始まる。ランニングの先頭に立つのはアビスパ福岡から移籍してきた宮原裕司。そして、氏原良二(前名古屋)、川原正治(前広島)と続く。移籍組も新しいチームでのJ1昇格へのチャレンジに強い意欲を見せている。ランニングはストレッチをはさみながら合計5回、8キロに及ぶものだったが、誰もが平然とこなしていく。チーム始動日とは言え、トレーニングに耐えられる基礎体力は蓄えてきているようだ。

 ランニングを終え、2人1組でのパス交換、3グループに分かれてのパス&ゴーのトレーニングへとメニューが移っていく。初顔合わせの選手たちが多いことや、練習初日という緊張感もあったのだろう、選手たちは静かにメニューをこなしていく。しかし、「次は7対7のミニゲーム」という松本監督の掛け声で、チームの雰囲気ががらりと変わる。ピッチのあちこちから響く大きな声。半数が入れ替わったチームとは思えない活気だった。

「いい素材が集まってきてくれた。大型の選手が非常に多いので、練習をすればするほど、実りのあるチーム」。初日の練習を終えて松本監督が手応えを口にすれば、「新しいスタートというところで新鮮な感じがした。選手も非常に生きが良かった」とは岸野ヘッドコーチ。「凄くドキドキした。しかし、結局練習をやってみると、みんな真面目な選手ばかりで楽しかった。これからもやっていける気がしている」と、新キャプテンのシュナイダー潤之介も話した。

 今後、サガン鳥栖は21日の必勝祈願をはさんで27日まで鳥栖市内でトレーニングを積み、28日から2月6日まで島原で一次キャンプを実施。その後、トレーニングマッチを行った後に、2月16日〜23日の予定で鹿児島で行われる二次キャンプで3試合ほどのトレーニングマッチを消化してシーズン開幕に備える。先発メンバーがガラリと変わることが予想されるサガン鳥栖は未知数のチーム。だからこそ、どんなチームになるのか楽しみでもある。



photo by 星智徳
 過去に、大量解雇・大量補強したチームが、チーム力アップに失敗するケースはいくつもあるが、サガン鳥栖にとっては、その心配は必要ないだろう。「あらゆる手を使いましたよ(笑)」という松本監督を新運営会社は全面的にバックアップ。松本監督がリストアップしたメンバーのうち、最終的に獲得できなかったのは、たった1人だけなのだ。チームの課題を把握している松本監督の狙い通りに進んだ補強は、プラスになってもマイナスになることはない。

「守備のところは高さとスピード、ゴール前を守るところ。それから中盤の外側は速さ、それからに中盤の内側は運動量、それと相手のゴール前は決め手ということでの何か特色のある選手。サポーターの夢がJ1昇格ということで、これまでずっと来ているので、その夢を実現で来るための補強というものをやったつもり」。松本監督は補強のポイントを語ったが、なるほど、獲得した選手の特徴を見ると、見事に狙いと一致している。

 しかも、ジュニアユース、ユース年代で代表歴を持つ選手が6人。候補まで入れれば8人もの将来を期待される選手がいる。また、代表歴を持たない選手でも、その実績はJ1争いをするのにふさわしい選手ばかりだ。選手個々の力の比較なら、J2トップクラスのチームに完全に肩を並べることになった。「ようやく、プロのチームらしい、期待の持てるチームになった」と、松本監督が言い切るのもうなづける。他のチームにとっては実に不気味な存在になった。

 こうしたチーム編成が出来たの要因は、やはり運営会社が変わったからと言える。それは、単に資金面のことだけではなく、会社が会社としての目的と手段を明確に出来るようになったからだ。そして、J1昇格というものを、お題目ではなく具体的な目標として捉えているからに他ならない。「会社の方針が、どんどん下りてきてやりやすくなった」(松本監督)。チームが強くなるためには、フロントとチームが一体になることが欠かせない。



 とは言え、若い選手ばかりになったチームに不安材料はある。J1昇格争いは予想以上に厳しい戦い。ありとあらゆるプレッシャーがかかってくる。また、一からスタートしなおすチームを1ヶ月半という期間でまとめあげるのは簡単なことではない。才能はあるものの経験のない選手たちに、経験したことのないプレッシャーを跳ね返し、チームとしてまとまる力を与えることが出来るか否かが、最も大きな解決課題になる。

 そういう意味では、東京V一筋でコーチ業を磨いた岸野ヘッドコーチ、磐田で若手選手のフィジカルコーチを務めた菊池フィジカルコーチ、選手として優勝を経験している内藤コーチの存在が大きな鍵を握っている。「コーチはいずれも指導者、あるいは選手として日本一を経験している。その経験を自分が生かしたいと思っている」(松本監督)。若い選手の才能と伸びしろの大きさに、コーチ陣の経験を加えることが出来るかどうか。それが今シーズンの鳥栖の行方を左右すると言っても過言ではないだろう。

 ポイントは前半戦の戦い方。若いチームだけに勢いに乗れば面白い存在になれる。特に、チーム間の力の差が少ないJ2なら上位を狙えるチャンスはある。J1昇格争いをすることは十分に可能だ。その反面、負けが先行するようだとズルズルと行きかねない。44試合という長丁場のリーグ戦とは言っても、シーズン開幕に合わせてピークを持ってくる必要があるだろう。勝ち星さえ先行すれば、思うような戦いもできるはずだ。

 1998年7月に存続をすることを目的として設立されたクラブが、6年の歳月を経て、ようやくプロとして戦えるクラブへの第一歩を踏み出した。ここまでたどり着くには多くの人たちの献身的な支えがあった。それは時として様々な紆余曲折を招いたが、それもチームを大切に思えばこその出来事だった。そんな様々な出来事を整理することで生まれた新生サガン鳥栖。今度こそ、夢への第一歩を確実に刻んで欲しいと思わずにはいられない。それは鳥栖市の、そして佐賀県の願いでもある。
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