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 福岡通信 05/01/18 (火) <前へ次へindexへ>

 ひとつ上のレベルを目指して
 

 取材・文/中倉一志
 福岡は15日、U-20代表候補との試合を最後に宮崎キャンプを打ち上げた。一時は怪我人が続出し、北九州市長杯出場のために14日に何人かの選手を福岡へ返す予定をキャンセルせざるを得ない状況になったが、最終日には、山形、平島を除く全員がピッチに登場。それぞれが30〜45分限定のプレーとはいえ、キレのあるプレーからは順調にキャンプを終えられたことが窺えた。福岡は残された期間でチームは最終調整を行ってJ1昇格への勝負をかけた開幕に臨む。

 さて、キャンプの様子を振り返ってみよう。1日、宮崎入りした松田監督は「抜けた穴のセレクションと、去年から出ている選手とのコンビネーションの確認」とキャンプの目標を話した。そのために試合形式のトレーニングが多く取り入れられ、練習試合も多く組み込まれた。選手を特定して一から作り直すのではなく、実戦を通して最も適したコンビネーションを見つけるためだ。

 最も心配されていたポジションのひとつであるボランチは松下が存在感を示した。もともと実力があり、福岡の戦術も熟知している選手。当然と言えば当然のこととも言える。また喜名が加入したことでボランチの控の心配も無くなった。CBは「福岡の守備戦術に惹かれて移籍してきた」という岡山が高い順応性を見せ、最終ラインはトレーニングを重ねるごとに安定感を増している。岡山が高さに絶対的な強さを発揮するのも心強い。

 山形の怪我で新たに空いた右サイドを争っているのは中村と田中。中村は代表との戦術の違いでポジショニングに苦労しているが、強気なプレー振りは魅力たっぷり。十分に通用するところを見せた。田中も持ち前の得点能力をサイドのポジションで生かせるようになれば面白い存在になれるだろう。平島の穴は川島と宮本で埋めることになると思われるが、「計算できる選手」と松田監督が評価するように安定したプレーを見せた。



 そんな福岡にとって、13日に行われた川崎Fとの練習試合は、ポジションのいくつかが入れ替わったチームが、どれだけのパフォーマンスを発揮できるのかをテストする格好の機会だった。ただ、残念だったのは、怪我のために守備の要であるホベルトと岡山を欠いて臨まなければならなかったこと。できることなら、岡山の守備と、ホベルト・松下の連携をJ1との対戦の中で確かめたかったと思ったのは、私だけではないだろう。

 それでも、中盤に守備網を敷いて腕相手を囲い込むようにしてボールを奪い、そこから素早く攻めに転じるというチームの戦い方は確認できた。要のポジションが変わっていながら当たり前のようにこなせたのは、チームとしてのポテンシャルが高いことを示すもの。19日に行われた浦和との練習試合でもチームとしての戦術は十分に機能していたように、戦術面の整備という点では昨年の比べても優るとも劣らない。(浦和戦の詳細については、近日中に「福岡通信」で取り上げる予定です)

 ただし、昨年と同じ課題も依然として残っている。「個の力」で挑まれたときに後手を踏むこと、ラストパスの精度の低さ、そして勝ちきるための決定力不足の3つだ。川崎F戦では疲労に鞭打ちながら、それなりの戦いはできたが、フッキに個人技で挑まれると、いいようにかき回された。またカウンターを仕掛けてもラストパスが合わなかったり、決定機にゴールマウスを捉えられないシーンは、キャンプ中の試合でも、浦和との試合でも目に付いた。

 断っておくが、FW陣の出来が悪いわけではない、恥骨付近の痛みが取れないエジウソンを除けば、有光、林、福嶋、太田の4人は、フィジカル面でも、メンタル面でも充実している様子が窺われ、それぞれがキレのある動きを見せて激しくポジションを争っている。昨年の悔しい思いがそれぞれのレベルを上げているのだろう。しかし、決定力不足という課題を解決するまでには至っていない。もうひとつ上のレベルへ抜け出すことが求められている。



 合宿の最終日、キャンプの成果を問われて「抜けた戦力のところをメンバーを固めて連携を取っていくところと、決定力というところ、それは引き続き課題として残っている」と松田監督が答えたのは、こういった状況を踏まえてのものだ。組織サッカーの成熟度は高まっており、おそらく今シーズンも多くの試合で福岡が主導権を握るだろう。しかし、それだけでは勝てない。内容の差を得点差という形に表すためにはプラスアルファが必要だ。

 移籍によってできた穴は、ボランチに松下、CBに岡山が入ることで埋められたと考えていい。また、平島と山形の怪我で新たに空いた右サイドは不確定要因が残るが、SBを川島と宮本、高い位置を中村と田中でカバーすることで一応の解決を見ることはできる。開幕後まもなく復帰して来る山形や、キレのあるプレーを見せる古賀の存在等を考えれば、昨シーズンと遜色のない顔ぶれが揃う。メンバー的な問題の解決は見えたといえるだろう。

 しかし、求められているプラスアルファは、まだ見えてこない。もう少しで見えてきそうで、しかし視線で捉えることができない。そんなもどかしさをキャンプ中に何度も感じた。「いいサッカーはできる。だから今年は何が何でも、どんな形でもいいから勝つサッカーを目指す」。チーム始動日にそう語っていた松田監督は、このことを強く意識している。内容のある試合をした浦和戦でも「全体的のやり方は良かった。しかし、内容だけじゃなく、勝負はディテールなところで決まるということを、もっと感じなくてはいけない。今日の試合は勝ちで終わらなければいけない試合。そう満足できる試合ではない」と厳しい表情を崩さなかった。

 加えて、エジウソンの故障も大きな不安材料だ。恥骨付近を痛めているエジウソンだが、痛みは引かず、まだ強いボールを蹴れない状況にある。プレッシャーの緩いサテライト相手の試合ならともかく、踏ん張りが利かず、インサイドでボールを裁くだけではトップチームでプレーすることは難しい。現段階ではエジウソンが間に合わないことを前提にチーム作りを進めているが、その役割を誰に任せるのか、それとも攻撃面でのマイナーチェンジでカバーするのか、開幕までの課題となっている。



 チームとしての成熟度を確実に増しながらも、確実な手応えを掴むというところまでは行っていない福岡。しかし、それもJ1昇格への生みの苦しみと言えるもの。昨シーズンの上位2チームが昇格し、実質的にはJ2ではトップチームになった福岡だが、だからといって勝ち進めるほどJ2のリーグは簡単ではない。目の前の壁を自らの力で乗り越えてこそJ1の扉が見えてくる。それは今シーズンも同じこと。チャレンジする姿勢を忘れずにぶつかっていけばいい。

 そのために、高い競争の中から抜け出したものを試合で使うことを松田監督は明言している。キャンプ中の練習試合の選手起用も、そういったことを意識して行われていた。結果を出したものを優先し、勝負を避けた選手は先発からはずされる。その采配は選手たちにも伝わっているはずだ。開幕まで2週間。激しく、厳しい競争を続けることで、それぞれの選手が自分の殻を破ることを期待したい。それが、今シーズンのスローガンである「挑戦」の意味でもある。

 最後に敢えて苦言を。キャンプの中でサテライトへ振り落とされた選手たちが、あまりにも元気がない。試合中は声も出さず、意思疎通を図ることもなく、生き残りをかける意気込みも感じられない。これではプロとしてはやっていけない。互いの技量の差などほとんどないプロの世界では、目標に向かう強い意志が持てるかどうかが勝負の分かれ目。プロの世界で生きていくことを決心したのなら、もっと気持ちを表に出してボールを追ってくれることを望みたい。周りの人間が感じられない「内に秘めたる闘志」など無いに等しいことを肝に命じて欲しい。
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