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 福岡通信 05/03/01 (火) <前へ次へindexへ>

 内容は合格点。しかし、必要なのは結果
 

 取材・文/中倉一志
 福岡から高速バスを利用して約2時間10分。さらに熊本交通センターから路線バスに35分ほど揺られると、広大な敷地に聳え立つ熊本県民総合運動公園陸上競技場(KKウウイング)が見えてくる。自家用車を利用すれば、九州道熊本ICから3分程で到着するのだが、この歳になっても運転免許を持たないという極めて珍しい人種の私にとっては、高速バスこそが九州を移動する最適の手段。時間はかかるが、のんびりと揺られる旅も悪くはない。

 スタジアムに到着したのはキックオフ1時間半前。しかし、すでに大勢の観客がメインスタジアムを埋めている。最終的には6000人の観客が訪れた。この素晴らしいスタジアムもJリーグ勢が試合をするのは天皇杯とキャンプの練習試合を含めて数試合しかない。それだけに熊本のサッカーファンがこの試合を楽しみにしていたことが良くわかる。そういう意味では、将来のJリーグ入り目指しているロッソ熊本が1日でも早くJの舞台で戦う日が来ることを期待したいものだ。

 さて、浦和はエメルソンの他、怪我のために田中達也が欠場。キャンプの疲労が溜まっていることもあり、あくまでも調整が目的の試合になる。しかし、対する福岡にとってはシーズンを占う大事な試合。キャンプで追い込んだ成果を、どれだけ出せるかが大きなポイントになる。また、キャンプを選考合宿と位置づけたチームにとっては、この試合もポジション争いのための重要なテストの場。監督をはじめとするスタッフも、選手も、実戦モードで臨む。

 福岡の先発はGKに水谷。最終ラインは川島、千代反田、岡山、アレックスの4人。ダブルボランチは松下にホベルト。両ワイドは右に中村、左に宮崎が構える。激しいポジション争いを展開しているFWは有光と林の2トップだ。対する浦和は3−6−1。ゴールマウスを守るのは都築。最終ラインは闘莉王を中心に、坪井とネネの2人のストッパー。酒井と長谷部がダブルボランチで、WBは内館と三都主。前線は永井を1トップにして、2シャドーに山田と西谷が並ぶ。



 試合開始直後の3分、福岡がいきなり決定機を作る。宮崎が中央を縦にドリブルで突進。DFをひきつけてから、左側でフリーになっていた有光へ。ところが、このチャンスに有光の放ったシュートはクロスバーの上を越え、福岡サポーターからため息が漏れる。しかし、この後も試合の主導権を握ったのは福岡。中盤に入ってくるところを組織で囲い込んでボールを奪い、ダイレクトプレーで素早く攻撃をしかけるシーンを何度も作っていく。25分、28分、そして38分にも決定的なシーンを作り出した。

 それにしても浦和は動きが鈍い。互いの連携が取れずにパスをつなげず、次第に中盤を省略して長いボールを蹴り込むだけになっていく。しかし、単調な攻撃では福岡の最終ラインを崩すことはできない。シュートらしいシュートといえばCKのこぼれ球から坪井がシュートを放ったシーンだけだ。昨シーズンの比べて何人かの選手が変わっていながら、ベースとなる戦術を着実に進める福岡の順調な調整ぶりが印象に残る前半だった。

 福岡は後半から川島に代えて田中を投入。中村を右SBの位置に下げて、右MFの位置で田中をプレーさせる。一方の浦和はシステムを3−5−2に変更。2トップは永井に代わった横山と西谷。トップ下に山田がポジションを移し、右WBには内館に代わって岡野が入る。浦和のシステム変更が功を奏したのか、後半の立ち上がりは浦和がリズムを掴む。三都主が高い位置取りから積極的に攻撃を仕掛け、それに伴い、全体的に前がかりになっている。

 そして53分、浦和に先制点が生まれる。ゴール前やや右で得た直接FKのチャンスに闘莉王が直接ゴールを狙う。これは水谷がファインセーブで弾き返したが、こぼれ球に走りこんだのは岡野。このシュートがポストに当たって跳ね返ったところに西谷が詰めて押し込んだ。この間、福岡の選手は全員がボールウォッチャー。試合の主導権を握っていながら、立ち上がりに不安定な時間を作り、さらにはディシプリンに欠くプレーで1点を失った。勝ちきれなかった昨シーズン前半を思い出させるような失点シーンだった。



 しかし、その2分後、福岡は同点に追いつく。きっかけを作ったのは中村だった。深い位置まで攻め上がってきた三都主との1対1からボールを奪うとルックアップ。右サイドへ縦に抜け出した有光へドンピシャリのパスを送る。ゴールへ向かう有光は、一度は坪井に追いつかれてシュートチャンスを逸したかに思えたが、鋭く左に切り替えしてシュートコースを作り出すと、次の瞬間、左足から放たれたシュートがゴールネットを揺らした。

 ここからは再び福岡のペース。ともに攻めの意識を強くするプレーが目立つが、狙い通りに試合を進めたのは福岡。75分を過ぎた辺りからは福岡が一方的に攻め立てた。後半途中から林に代わった太田が80分にヘディングシュートでゴールを狙えば、39分には同じく途中出場の古賀の直接FKがゴールマウスを襲う。さらに86分にも古賀が決定的なシュートを放った。しかし得点は生まれず。試合は1−1のドローでタイムアップのホイッスルを聞いた。

 この試合の収穫は2つ。開幕を意識した選手起用は、昨シーズンの終盤と比較すると、FW、右MF、ボランチ、CB、そして右SBと半分のポジションでメンバーが入れ替わっていたにもかかわらず、ベースである組織サッカーに崩れるところがなかったこと。むしろ、その組織力は上がっている感さえある。特にボールを奪ってから縦に速くボールを運ぶ意識が徹底されており、手数をかけずに攻めるという点では改善の跡が見られた。

 そして最大の収穫が中村北斗。キャンプ初日からレギュラー組の右サイドとしてプレーしているが、戸惑いを見せていたポジショニングが格段に改善され、本来の1対1の強さが随所に見られるようになっている。右サイドなら高い位置でも、低い位置でも問題なくプレーできることを示した。しかし、本人はあくまでも謙虚だ。「良い経験をしているんで、自分の動き方をもっと学びたい。課題を見つけて修正していきたい」(中村)。そしてできの悪かった浦和に対して、こう続けた。「もっと相手の状態がいいときにやりたい。J1に上がるしかないです」



 しかし課題もある。「まだまだですよ。失点の場面も含めてボケているところが一杯あったし。全体的なやり方についてはすごく良かったけれど、勝負を決める場面、場面で、これで失点したら本当に腹が立つというシーンが本当に多かった。ディシプリンの面では、あまり良くなかったと思う。勝負というのはちょっとしたディテールで決まる。今日の試合は(内容からすれば)勝たなければいけない試合だったけれど、負ける可能性もあった試合。それを見れば満足はできない」(松田監督)。指揮官は厳しい表情を崩さない。

 チームのポテンシャルは確実に上がっている。しかし、試合内容を得点という結果に反映させるという今年最大の課題は解決を見なかった。昨シーズン、福岡がJ1昇格を逃した最大の原因は、内容で上回りながらゴールを奪えず、ディシプリンの崩れを突かれて失点を重ねたことにある。そういう意味では、内容的には昨シーズンと比較しても良くなっているものの、結果的には昨シーズンの悪いパターンを繰り返したと言える試合だった。

 昨シーズンの悔しさと、チーム内での激しい競争は、個々の選手を確実にレベルアップさせている。そして中村もトップチームで十分に戦えることも証明した。残されているものは、最後のところを決めきる力と、どんな相手にでも隙を見せずに90分間戦える集中力。今年もJ2のトップレベルのサッカーは見せることができそうだが、それを結果に結びつけるために、勝負に対する厳しさをもっと身に着けなければならない。
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