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 福岡通信 05/05/21 (土) <前へ次へindexへ>

 我慢のとき
 

 取材・文/中倉一志
 第13節の横浜FC戦を控えた20日、雁の巣レクリェーションセンターの練習場に明るい声が響いた。「厳しい中でトレーニングをしたり、プレッシャーの中に身を置いたりしながらやっていく中で、今日は雰囲気作りをすることが大事だった。陰にこもっても結果は出ない」(松田監督)。緊張とリラックスが程よくミックスされた明るい雰囲気。ミニゲームでは出し手と受け手が大きな声でコミュニケーションをとり、シンプルにボールを運んでいく。選手たちからは目の前の試合に勝つことに集中している様子が感じられた。

 頭をきれいに剃りあげたグラウシオが鋭いシュートを放つ。積極的にゴールに向かう中村北斗からは、ワールドユース前の最後のJリーグで結果を残したいという気持ちがひしひしと伝わってくる。うなりを挙げる古賀の左足は好調の証。ホベルトは、いつものように豊富な運動量でボールを追う。そして、トップチームに合流した林にもキレが戻ってきた。横浜戦に向けて、いい準備が出来たようだ。

 対戦相手の横浜FCは、2勝5分5敗で勝ち点11の10位。しかし、J2のどのチームにも言えるように決して簡単な相手ではない。ボランチの位置に入るシルビオが小野信義と縦の関係を作ることで中盤に攻撃の起点ができサイド攻撃が活性化され、ジェフェルソンにフル出場の目途が立ったことで、前線に力強さが加わった。もともと守備力は計算が立つチームだけに、課題とされていた得点力不足が解消されつつある状況は、福岡にとっては要警戒だろう。

 横浜FC向けの細かな対策はもちろんあるだろう。しかし、福岡に最も求められているのは、自分たちのサッカーをピッチの上で余すことなく表現することだ。「相手じゃない。とにかく、勝つことを信じて自分たちのサッカーを90分間やること」と松田監督も話す。簡単にはゴールは生まれないだろう。ピンチに見舞われるシーンもあるはずだ。しかし、どんな状況になっても、全員が心をひとつにしてディシプリンあるサッカーをすること。勝利を呼び込むにはそれが唯一の方法だ。



 それにしても、サッカーというスポーツの難しさと怖さを改めて感じさせられている。そもそもゴールが生まれにくいサッカーでは、いくら相手を圧倒しても3点も、4点も取れるわけではなく、逆に、どんなチームでも1点を取るチャンスは必ずある。加えて、徹底的に守りを固められれば、力の差があっても点を取るのは難しい。実力がスコアという結果に現れにくいスポーツであるサッカーでは、必ずしも試合内容と結果がイコールになるとは限らない。

 だがサッカーでは結果が全てだ。内容に拘わらず勝てば勝ち点3。引き分ければサッカーの内容に差があっても両チームには平等に勝ち点を1が与えられる。もし、敗れるようなことがあれば、全ての努力は何の結果ももたらさない。厄介なのは、何にもまして勝ち点3という結果がチームに最も大きな影響を与えること。結果が出れば、それはチームの成長につながり、逆に勝ち点3が取れない試合が続けば、いい内容のサッカーも、やがてはリズムを崩していく。

 福岡のここまでの戦いを振り返ると、このサッカーの難しさにはまり込んでしまった印象がある。やっているサッカーは基本的には過去2年間と変わりはない。昨年の終盤に8連勝したサッカーと変わることのない戦い方を志向している。12試合の印象も、ほとんどの試合で福岡が主導権を握って進めていたことも間違いはない。ところが、不思議なほどゴールという結果に結びついていない。その結果、評判通りの試合をしながら混戦に巻き込まれてしまった。

 流れを変えようと攻撃的に出た徳島戦と山形戦では狙い通りのサッカーが出来た。ここで結果が出れば、チームの状況は大きく変わっていたはずだが、ここでも引き分けに持ち込まれてしまった。「自分たちを見失わないこと。力が接近しているJ2は決して簡単ではない。自分たちがベストなバランスだと考えたことを続けていくだけ」と松田監督は第1クールを振り返ったが、今は我慢のときだ。



 もちろん、流れや勢いという言葉だけでは片付けるわけにはいかない。たまの1試合ならともかく、同じような流れで勝ちきれない試合が続くということは、チームが解決すべき課題を抱えていることを意味しているからだ。わずかに1敗という結果は、過去2年間で築き上げてきた戦い方がベースとしてチームの力になっていることを意味するが、その反面、主導権を握っていながら、どこかで不安定な印象をぬぐいきれないのは、微妙にチームのバランスが崩れているからだろう。

 対外的な原因としては、J2のレベルが上がりチーム間格差が縮まっていることがある。京都は例外としても、突出した選手がいないJ2では各チームとも組織的に戦うサッカーを志向しており、特に守備面ではバランスのいいチームが増えた。それは引き分けの数に表れており、12節を終えた段階では、あれだけ引き分けの多かった昨シーズンをも上回っている。また、J1昇格有力候補と言われる福岡に対してノープレッシャーでぶつかってくるという側面も影響しているだろう。かつてのように勝ち星を計算できる相手はいない。

 チーム内に目を転ずれば、移籍と怪我人の影響は否定できない。新加入選手と若手選手の成長、驚くほどスムーズにチームに溶け込んだグラウシオの加入等でチームが抱えていた穴は埋まったが、やはり、細かな連携面では研ぎ澄まされた集中力を発揮した昨シーズンの第4クールのレベルまでは到達していない。また、高いレベルでのポジション争いをすることでチームの更なるレベルアップを図ったが、怪我人が続出した状況では、それも叶わなかった。

 しかし、第1クールを消化する中で、そういった状況も変わりつつある。「アレックスを除いて、昨シーズンを1年間通して戦った選手がいない。言わば、キャンプで作り直した新しいチームだが、それぞれの選手の力量が見極められ、新しい形をどう作ればいいかが分かった」と松田監督は第1クールを振り返る。出場機会のなかった怪我人も復帰し、チーム内の厳しい競争も生まれつつある。上昇気流に乗る好材料は揃ったと言える。



 ただそれでも、J1昇格を確実なものにするためには乗り越えなければならない最後の壁が待ち受けている。作り出したチャンスの芽を的確に嗅ぎ分ける嗅覚と、それを確実にゴールという結果に結びつける集中力。どんな状態にあっても平常心を保って闘える強い力。そして、ピンチを未然に防いでいく危機管理能力。言わば「勝者のメンタリティ」。それを身につけることか出来るか否か。それがいま福岡に試されている。

 ゴールという結果しか評価されないスポーツでは、技術や戦術の向上はチャンスの芽を作る手段に過ぎない。「勝負はディテールで決まる」とは松田監督の言葉だが、結局は、ボールを奪い合う中で生まれてくる小さなミスやチャンスに対して、どんな状況にあっても的確に対応し、それを形に結びつける力を持っているチームが勝利を手にする。J1昇格争いは、それを試されている戦いであり、それを制したチームにだけJ1で戦える権利が与えられる。

 残念なことではあるが、現段階では、福岡にはそこまでの研ぎ澄まされたものはない。もちろん、個々の選手は持てる力を発揮している。自分の限界まで追い込もうという姿勢も持ち合わせている。しかし、その限界を越えた先にある、さらなる領域へ踏み込めなければ「勝者のメンタリティ」は見つけられない。柏にあって福岡になかったもの。それが勝負に対する嗅覚の鋭さだった。それを身に着ける戦いが今年のリーグ戦なのだ。

 自分たちにとって未知なもの。しかも、自分で見つける以外に手にいれる方法がないもの。それを見つける戦いは容易ではない。まだ少しの間、我慢の日々は続くかもしれない。スポーツに魔法など存在はせず、大切なものを手に入れるためには、それなりの時間と努力の蓄積が必要だからだ。それでも、昨年の悔しさを持ち続ける限り、選手たちは必ず見つけてくれるはずだ。いまは一喜一憂せずにチームに付き合うことにしようと思う。彼らは私が住む町のチームなのだから。
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