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 福岡通信 05/07/12 (火) <前へ次へindexへ>

 気持ちを見せた一戦。
 2005Jリーグ ディビジョン2 第20節 アビスパ福岡vs.徳島ヴォルティス

 取材・文/中倉一志
2005年7月9日(土)19:04キックオフ 東平尾公園博多の森球技場 観衆:6620人 天候:曇
試合結果/アビスパ福岡3−1徳島ヴォルティス
得点経過/[福岡]松下(3分)、[徳島]片岡(18分)、[福岡]有光(24分)、宮崎(26分)


 キックオフ30分前。いつもなら応援が始まる時間だが、サポーターが集まるバックスタンドホーム側のスタンドは静かなまま。そして、コールリーダーがトラメガでサポーターに話しかけた。

「今はわざと応援していないけれど、それは、選手たちに俺たちが怒っているというのを見せたいからなんだ。こんな成績に誰も満足していないんだって。暖かい応援とかも必要かもしれないけど、もっとアビスパに対して厳しい声援を送ろうぜ。それは絶対に選手に伝わるし、そうしたら選手たちも戦ってくれると思う。今日はそういうサポートをしよう。今はわざと応援してないけれど、応援が始まったら、今まで溜まったストレスとか思いを声に出してぶつけようぜ、選手に。とりあえず今日は死ぬ気で応援しよう、死ぬ気で」。

 彼らの表情を捉えるためにデジカメのレンズを向ける。声をかけることも、そばに寄ることさえもためらわれるほど、ピリピリした気持ちが伝わってくる。悔しい思い、情けない思い、ふがいないチームに対する怒り、そしてクラブに対する愛情。交錯する様々な思いを胸に、そのときを待つ。言いたいことは山ほどある。しかし自分たちに出来るのは、そんな気持ちを声援に変えて思いの全てをぶつけること。そしてチームの一員として戦うこと。その思いに少しの揺るぎもない。

 ピッチの上でウォーミングアップする選手たちを見つめる目は、「さあ、いつでも行くぞ」と言っているように見える。「これ以上ないサポートを見せる。だから勝って見せろ」。そう言っているようにも見える。そして試合開始10分前、コールリーダーが声を上げ、太鼓の音が鳴り響き、思いの全てを込めた応援が始まった。この日、博多の森に足を運んだ観衆は6620人。チームの成績が影響したのだろう、今シーズン、ホームゲームとしては最低の動員数となった。しかし、彼らの声援は、いつも以上に大きく響く。それは、間違いなく今シーズン最高の応援だった。



 選手たちも気持ちを見せる。開始直後の1分、スルーパスを受けた田中がゴール前に飛び出して、あわやのシーンを作る。その後も積極的にボールを追い、ゴールへ向かう気持ちの見えるプレーが続く。いままでとは明らかに違うプレー。いままでに感じたことのない強い気迫。「何がなんでも勝つ」。そんな思いを表現するイレブンの姿にスタンドの観衆が挽きつけられていく。長い間、感じさせられ続けていた閉塞感はどこにもない。

 そして3分、松下の右足がゴールを捉えた。左サイドの深い位置から林、アレックスとつないだボールが、高い位置に上がってきた松下へ。何のためらいもなく振り抜かれる右足。そして、ややアウトにかかった25メートルのロングシュートが、ボールに飛びつくGK高橋の両手の先を抜けてゴールネットに吸い込まれた。18分には片岡に直接FKを決められて一時は同点に追いつかれたが、福岡は慌てない。むしろ、同点になってから福岡の積極的な姿勢はさらに高まっていく。

 徳島が両サイドに展開したところをSBとMFで挟み込むようにして突破を許さず。徳島がボールを戻したところにプレッシャーをかけてボールを奪うと、攻守の切り替えを早くして徳島ゴールを襲う。やむなく羽地に当ててくるボールは千代反田と宮本が完璧に跳ね返した。そして、ボランチの位置に入ったグラウシオが攻守の起点を作り、前線では林と有光が積極的に勝負を仕掛ける。宮崎、田中はスペースに向かって飛び出して徳島の守備網を切り裂いた。福岡の一方的なペース。徳島は反撃の糸口すら見つけられない。

 福岡の追加点は18分。中村北斗からパスを受けた有光がドリブルで勝負を仕掛ける。そして、最後はGKと交錯しながらもゴールマウスに流し込んだ。久しぶりに見せた有光らしい得点だった。そしてその2分後、ドリブルで中へ向かって切り込んでいく中村北斗が、相手に身体をぶつけられながらも、びくともせずに最終ラインを突破。最後は中村北斗からのクロスに宮崎が頭で合わせた。中村北斗の持ち味である強さが生んだゴールだった。



 後半はさらに徳島を翻弄。数え切れない決定的なチャンスを作り出し、徳島に全く何もさせなかった。悔やまれるのは、その決定的なチャンスをゴールに結び付けられなかったこと。そういう意味では、開幕から課題とされている決定力不足が顔を見せた試合でもあった。しかし、それ以上に、勝ち点3を取ることを最優先に臨んだ試合で勝利し、強い気持ちと自分たちのサッカーを表現できたという点で、大きな意味を持つ試合だった。今シーズン最高の笑顔を見せて引き上げてくる選手たちの表情が、それを物語っていた。

 実は、チームの変化の兆しはトレーニング中から現れていた。指示を送る監督に対して、選手たちから意見や質問が積極的に投げかけられるようになり、不用意なミスに対しては、選手間での注意を促す声が目立つようになっていたのだ。トレーニングメニューの合間や終了後には、互いの連携やポジショニングを確認しあう場面も見られるようになっていた。どちらかと言えば、おとなしいと言われていた選手たちが、積極的にかかわる姿勢を見せたことはチームにとっては大きな変化だった。

 徳島戦は、そんな選手たちの姿勢が形になって現れたものだ。指示されたことだけをやるのではなく、チーム戦術をベースにしながらも、自らが積極的に創意工夫することでチーム戦術と個人の持ち味が融合し、硬直化していた攻撃に柔軟性が加わった。また、自らが主体性を持ってプレーすることで責任感が強くなり、それが球際での強さにつながり、これまでの試合で見られたエアーポケットを生むようなシーンも消えた。ディシプリンを守る責任感と、自らの持ち味を発揮する積極性。それこそが福岡が求めていた最後のピースだ。

「決めきれないうちに追いつかれて苦しくなるのはありがちなこと。そんな試合で最優先させるべき勝ち点3を取れた。大事なところは外さなかったという意味では良しとしなければいけない試合。それよりも、選手が主体性を持ってプレーしたことが大きい」。松田監督も選手の姿勢を評価する。ここまでふがいない試合を続けてきた福岡だが、ようやく、自分たちの力を発揮する足がかりを掴んだようだ。



 しかし、これで全てが解決したわけではない。大切なことは、掴んだ足がかりを本当の力として自らの中に蓄積すること。そして、こうした試合を続けていくことだ。「いい試合をした後が大事。波に乗っていくためには、まず次の試合をしっかりと勝つこと。それが終わってから、さらに次の試合のことを考えるというスタンスは変わらないが、3連勝で第2クールを終われれば勢いがつく」(松田監督)。混戦から抜け出すためには、まずは次の2つを勝ち抜くことが必要だ。

 そして、もうひとつ忘れてはならないことは、チームの力とは、フロント、職員、サポーター、福岡市民、メディア等々、福岡というチームに関わる全ての人たちの力の総和であるということ。いまはチームだけではなく、福岡市民のJ1に対する意思が試されていると言っていい。そういう意味では、まだ福岡を巡る環境は必ずしも万全ではない。チームを後押しするためには、この部分の整備も必要になってくる。

 そんな中で、この日、サポーターは形を示した。温かく見守るだけではなく、ただ批判をするだけでもない。自分たちがチームと一体となった上で主張すべきところは主張し、自分たちの思いの全てを応援という形に変えて選手にぶつけた。それがチームの力になったことを疑う余地はない。またチームも、それぞれが主体性を持ってプレーすることこそが、チームのポテンシャルの向上につながるところを見せた。

 その一方で、昨年と比較してメディアの取材は減っており、必ずしも、町を上げてJ1昇格を後押しするムードがあるとは言えない。観客動員数もまだまだ少ない。クラブは、博多の森周辺へのバナー掲載や、協賛企業の協力によるノボリの設置を行っているが、J1昇格を果たすためには、クラブをはじめ、福岡に関わる人たちのより一層の力が必要なことは言うまでもない。どうやって福岡市全体を巻き込むか。それもJ1昇格を達成するための課題のひとつ。こちらも早急な対策が求められている。
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