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 福岡通信 05/08/11 (木) <前へ次へindexへ>

 変化の季節
 2005J2 ディビジョン2 第25節 アビスパ福岡vs.水戸ホーリーホック

 取材・文/中倉一志
 監督記者会見は、それぞれの監督の性格が垣間見えて面白い。勝ったチームの監督は共通して饒舌になるものだが、試合の結果にかかわらず懇切丁寧に話す監督もいれば、簡潔に結論だけを話して早々に引き上げる監督もいる。どちらかと言えば、松田監督は後者のほうに属するのだが、ここへ来て会見の内容が徐々に長くなってきた。もちろん記者からの質問の数とも関係があるのだが、最大の理由はチームに手応えを感じ始めたからだろう。

 それもそのはずだ。第20節から4連勝。仙台戦は悔やまれる引き分けに終わったものの、続く水戸戦では力の差を見せ付けて3−0と快勝。6試合で勝ち点16を積み重ねて、混戦模様の2位グループから抜け出せそうな兆しが見えてきたからだ。さらに、一時は遠くなった京都の背中がわずかながら見え始め、直接対決の結果によっては京都と首位争いを演じる権利を手に入れる可能性が見えてきた。チームはようやく結果にこだわれるようになってきた。

 好調の直接的な原因は得点力が上がったこと。決定力不足に悩んだ19節までの1試合平均得点はわずかに1.2点だったが、20節以降のそれは2.5点と倍増。20節以降に限れば、それぞれ4得点を挙げているグラウシオ、田中佑昌の活躍が光る。特筆すべきは田中の成長振りだろう。「ゴールに対する姿勢が自分の中で去年とは全然違う。甲府戦で自分の持ち味であるドリブルで長い距離を走ってゴールを上げたところから、気分が乗ってきた」(田中)。プロとしての経験を1年積み、本来の才能を開花させつつある。

 基本的な戦術や、メンバーは変わっていない。むしろメンバーという点では、アレックス、松下、岡山、太田らが怪我で戦線を離れ、24節では宮本が、25節では千代反田が累積警告で出場停止になる等、苦しい中でのやりくりだったと言える。にもかかわらず好調を維持しているのは、バックアップメンバーが遜色のないプレーを披露したのに加え、山形恭平がボランチとして新たな可能性を見出したこと、そして、選手全員が勝利に対して強い姿勢を表現できるようになったことが大きい。



 さて、25節の水戸戦。福岡は選手の配置を変えて臨んだ。2トップはグラウシオと田中。左MFには7試合ぶりの先発となる古賀誠史。ダブルボランチにはホベルトの相棒として山形を起用。出場停止の千代反田充の代役には長野聡が入る。対する水戸のフォーメーションは4−1−4−1。1トップの岩館侑哉を中心に左右に関隆倫と秦賢二が開き、中央にはマルキーニョと森田真吾。その後ろにワンボランチの永井俊太、そして最終ラインの4人が並ぶ。

 水戸の狙いは、福岡がサイドにボールを入れたところへプレッシャーをかけ、パスで逃げるところを中盤の4人で絡め取ってカウンターを狙うというもの。前回の対戦で福岡をまんまと術中にはめたパターンだ。しかし、福岡はこの逆手を取った。「ビルドアップしてくるかなと思ったが、立ち上がりから縦に速いボールをどんどんDFラインに蹴ってきた」(前田秀樹監督・水戸)。そして、このボールを受けるグラウシオが水戸の守備網を混乱に陥れた。

 水戸のワンボランチの左右のスペースを使って自由にボールを扱うグラウシオは、攻撃に専念することで本来のFWとしての力を余すことなく発揮。水戸の守備網を好き放題に切り裂いていく。「グラウシオが全然違っていた。切れとか、スピードとか、あの辺で好きにやられてしまうと、どうしようもない」(森田)。そして翻弄される水戸の守備陣に追い討ちをかけるように、田中が、古賀が、そして宮崎がスピードに乗って前線へ飛び出していく。こうなってしまっては水戸に勝機はなかった。

 福岡の先制点は12分。福岡のクリアボールの処理を水戸DFがミス。それを見逃さないグラウシオがゴールに流し込む。2点目は20分。ホベルトのパスを受けたグラウシオをペナルティエリアへ。そして、絶妙のタイミングで飛び込んできた田中へラストパスを通した。そしてとどめの3点目は後半開始早々の46分。喜名からのパスを受けたグラウシオがDF2人を振り切って右足でゴールネットを揺らし、早々と試合を終わらせた。



「水戸という相手は常に難しい相手のひとつ。けれど今日は先制して、前半のうちに2点が取れて、後半の3点目で、ある程度試合を終わらせることが出来た」。松田浩監督は記者会見で満足そうに試合を振り返った。自分たちのサッカーを自由に展開し、そして効果的に得点を重ねて相手に付け入る隙を与えないままに手に入れた勝ち点3。「全く何もさせてもらえなかった。水戸のいいところが何もなかったゲーム」。前田監督は脱帽するしかなかった。

 冒頭でも触れたように、福岡は戦術もメンバーも変えたわけではない。それでも、勝ちきれなかった前半戦と全く違う印象のチームになったのは、今まで辛抱強く繰り返してきた蓄積が形として現れだしたからだ。ピッチの上に敷いた守備網でボールを絡め取っ手から攻めに出る福岡にとって、攻守の切り替えの速さが生命線。雁の巣レクリェーションセンターでは、「いつ、どこで飛び出すか」を繰り返しトレーニングしてきたが、それが形になりはじめた。

 そして、バックアップメンバーが穴を感じさせないプレーを見せたのも日頃のトレーニングの積み重ねの成果だ。全員攻撃・全員守備を志向する福岡のサッカーは、FWですら、ゲームの中ではMFやボランチとしてプレーすることを要求される。その繰り返しの中で、各ポジションの役割を全員が理解したことが、選手が入れ替わっても大きく崩れない組織を作り上げた。「誰が、どのポジションをやっても出来る」。松田監督も自信を隠さない。

 もちろん課題もある。試合全体を支配し、自分たちのリズムで試合を進めているのだが、不用意なミスから突如としてピンチを招くことがあることだ。前節の仙台戦では同じような流れから、最後はリズムを崩して同点に追いつかれた。積極的に試合を進めることとミスは表裏一体。ミスそのものが悪いわけではない。ただし、ディシプリンに欠く不用意なプレーは命取り。水戸は地力の差でねじ伏せたが、上位陣と対戦するに当たっては修正すべき課題だろう。



 さて、好調を維持する福岡は次節から、山形、京都と続けて対戦する。2位争いのサバイバルレースを抜け出し、京都に対する追撃体制を整えるための山場とも言える試合がやってくる。「(水戸戦は)ああいう形で試合が進めば、個の力の差が出る。しかし、山形・京都は個人の力もあるチーム。我慢比べの時間帯もあるはず。そう簡単には行かない」と松田監督も気を引き締める。今まで以上に、チャンスとピンチを嗅ぎ分ける鋭い嗅覚と高い集中力が求められる。

 今シーズンの山形との対戦成績は2戦2分。松田監督が福岡を率いるようになってからの通算成績は3勝6分1敗。「山形との対戦は、いつもディシプリンとディシプリンの対決になる」(松田監督)というように、バランスの取れた両チームの対戦は我慢比べの末に引き分けとなるケースが多い。おそらく、それは次節の対戦でも変わらないだろう。互いに相手に隙を見せず、押したり引いたりの展開が続き、勝負がつくのは、わずかに見せる隙をどちらかが確実に突いたときだけ。今回もにらみ合いのような展開となるだろう。

 しかし、ともに欲しいのは勝ち点3。組織の熟成度では互角の戦いを制するには、勝負所で個の力で局面を打開することが求められる。そういう意味では、福岡の鍵を握るのはグラウシオと古賀。そして、この2人に田中と山形恭平がどこまで絡めるかだろう。いずれにしてもチャンスは多くはない。その少ないチャンスを確実にゴールに結びつけることが勝ち点3の最低条件になる。「ここまで2分。次は勝ち点3が欲しい」(松田監督)。京都への挑戦権を得るためにも勝たなければいけない一戦。福岡は全ての力を結集して山形に乗り込む。


※監督記者会見、試合後の選手コメントは以下でご覧になれます。
前田秀樹(水戸ホーリーホック)監督記者会見 http://www.jsgoal.jp/club/2005-08/00022400.html
松田博監督(アビスパ福岡)記者会見 http://www.jsgoal.jp/club/2005-08/00022401.html
試合後の選手コメント http://www.jsgoal.jp/club/2005-08/00022405.html


(アビスパ福岡) (水戸ホーリーホック)
GK: 水谷雄一 GK: 本間幸司
DF: 中村北斗 長野聡 宮本亨 山形辰徳 DF: 須田興輔 吉本岳史 深津康太 大和田真史(37分/吉瀬広志)
MF: 宮崎光平(81分/林祐征) ホベルト(43分/喜名哲裕) 山形恭平 古賀誠史(89分/有光亮太) MF: 永井俊太(29分/磯山和司) 関隆倫 マルキーニョ 森田真吾 秦賢二
FW: 田中佑昌 グラウシオ FW: 岩舘侑哉(56分/眞行寺和彦)
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