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 福岡通信 05/09/07 (水) <前へ次へindexへ>
開幕から14連勝と圧倒的強さを発揮していたロッソ熊本だったが・・・

 Jリーグへの夢を乗せて
 第33回Kyuリーグ 第15節 ロッソ熊本vs.V・ファーレン長崎

 取材・文/中倉一志
2005年9月4日(日)13:00キックオフ 熊本市水前寺競技場 観衆:3571人 天候:曇
試合結果/ロッソ熊本1−1V・ファーレン長崎(前1−0、後0−1、PK2−4)
得点経過/[熊本]市村(36分)、[長崎]森本(58分)


「熊本からJリーグチームを」。熊本県サッカー関係者の長きに渡る夢が、いま実現に向けて確かな歩みを進めている。夢が具体的な形となって動き始めたのは昨年のこと。まず永野光哉・県体育協会長、荒木時彌・県サッカー協会長を中心にして県民運動推進本部が発足。12月にはチームの運営母体となる「(株)アスリートクラブ熊本」が設立され、そして今年の2月に熊本県初のプロサッカーチームが始動した。それが「ロッソ熊本」。2年後のJリーグ入りを目指す。

 0からスタートしたクラブはJリーグ経験者を中心にチームを編成。それまで熊本県のトップチームであったアルエット熊本を引き継ぐ形で設立初年度からKyuリーグ(九州サッカーリーグ)に参戦すると、圧倒的な強さを発揮して開幕から14連勝。リーグ戦4試合を残して全国地域リーグ決勝大会への出場権が与えられる2位以内を確定した。しかし、それはあくまでも夢の実現への通過点。まずは1位でKyuリーグを駆け抜けることがノルマだ。

 対するV・ファーレン長崎も県民の夢を背負ったチームだ。以前から小嶺忠敏・国見高総監督が「長崎にJリーグを」という構想を公言していたが、その第一段階として昨年4月に有明FCと国見高OB主体の国見FCが合併。九州各県リーグ決勝大会を勝ち抜いてKyuリーグ昇格が決まると、今年の1月には長崎プロサッカークラブ推進委員会が発足し、将来のJリーグ入りへの動きが本格化した。4月には県とサッカー協会が中心となって、「準備委員会」を設置。運営会社の法人化等の準備を進めている。

 チーム名は、ポルトガル語で勝利を意味するVITORIA(ヴィトーリア)と、平和を意味するオランダ語VREDE(ブレーダ)から頭文字の「V」を取り、それに、航海を意味するオランダ語VAREN(ファーレン)を合わせた造語。長崎から平和への発信と、県民の夢と希望を乗せて勝利への航海を意味している。4試合を残した時点で2位のFC琉球とは勝ち点差7の3位。この試合に敗れると2位以内の可能性が消えるだけに負けられない一戦だ。



ロッソ熊本サポーター。Jリーグへの夢を乗せてチームを鼓舞する
 ホームのロッソ熊本(以下、熊本)のフォーメーションは3−5−2。先発メンバー中8人がJリーグ経験者という、地域リーグとしては豪華な顔ぶれが並ぶ。トップ下の森一絋がゲームを作り、地元大津高校出身でキャプテンマークを巻く山口武士がボランチの位置でバランスを取る。V・ファーレン長崎(以下、長崎)は4−4−2の布陣。メンバーのほとんどが20代前半の若いチームを、原田武男、大濱誉、田尻秀一らのベテランが引っ張る。

 立ち上がりの主導権は、予想通りに熊本が握る。前線では町田がラインの裏へ飛び出して後方からのボールを引き出し、トップ下の森がセンス溢れるスルーパスを繰り出してチャンスを作る。しかし、この日の熊本は、ここまで全勝しているチームとは思えない出来。全体的に動きが鈍く思ったようにパスが回せない。お互いの連携も今ひとつで、森のスルーパス以外には攻撃の形が作れない時間帯が続く。15分を過ぎてからは閉塞感さえ漂いだした。

 そんな熊本に対して軽快な動きを見せたのが長崎。立ち上がりこそ押し込まれたが、落ち着きを取り戻すと、足元にばかりボールを回す熊本にプレッシャーをかけて前を向かせず、奪ったボールをスペースへ運んでカウンター気味に前に出る。熊本の攻撃の鍵を握る森はボランチの田上がマークして仕事をさせなかった。特に目立っていたのがチーム全体のボールに対する働きかけの良さ。常に熊本よりも先にボールに触ってリズムを刻んだ。

 しかし、先制点は熊本。チャンスを演出したのは、やはりトップ下の森だった。時間は36分、森のスルーパス1本で長崎の守備陣を崩した熊本は、粘る長崎の前で再び森、関とつないで最後は市村へ。市村が振り抜いた右足から放たれたボールがゴールネットを揺らした。1点を追う長崎も38分、ペナルティエリア内にこぼれたボールを小嶺がフリーでシシュートを放ったがボールは無常にもクロスバーの上へ。試合は熊本の1点リードで折り返した。



V・ファーレン長崎サポも負けられない一戦に気合が入る
 後半に入るとさすがに熊本の優位が際立っていく。V・ファーレンは疲れが出たのか明らかに運動量が落ち、中盤のプレスが甘くなり、そして森に対するマークもあいまいになった。これで自由に前を向けるようになった熊本は、本来の攻撃的な姿勢を出してゲームを支配。50分には、鎌田のスルーパス受けた関の強烈なシュートがゴールマウスを襲い、続く55分には、森のミドルシュートがクロスバーをかすめた。流れは完全に熊本。ようやく、らしいサッカーが戻ってきたと思われた。だが、サッカーは何が起こるかわからない。

 地域リーグ決勝大会への出場権を得る2位以内を確保するためには負けられない長崎は58分、FW松浦に代えて森本を投入する。そしてその直後、森本が値千金のゴールを叩き出した。今泉がドリブルで突っかける後ろをフォローする森本。相手をかわそうとする今泉の足元からボールが少し離れた瞬間、そのボールを奪うようにして右足を一閃。ドンという音とともに放たれたシュートがゴールネットに突き刺さった。森本はこれがファーストプレー。見事に期待に応えた。

 それでも試合の主導権は熊本。運動量が落ちた長崎は中盤の守備が全く機能せず、熊本の猛攻にさらされる。しかし、この同点ゴールが長崎に勇気を与えた。際どいところで身体を投げ出し、そしてGK堤がファインセーブでゴールマウスを守り抜く。そんな長崎の粘り強さの前に、熊本が放つシュートは、ことごとくゴールマウスを外れていく。どれか1本が入れば試合は終わる。しかし、長崎の執念の前に熊本はとうとう2点目を奪うことが出来なかった。

 Kyuリーグ規定により勝敗の行方はPK戦に。しかし、圧倒的に攻め続けてゴールが奪えなかった熊本と、値千金の同点ゴールを全員の力で守りきった長崎とでは、どちらが精神的な優位に立っているかは明らかだった。長崎はGK堤が2本のPKをセーブ。そして4人のキッカーが確実に決めて勝ち点2をゲット。熊本に今季初黒星をつけた。



スタジアムに足を運んだ3571人の観衆は熊本県民の期待の表れ
「ロッソ熊本はいいチーム。1対1も含めて全ての面でうちよりは上なので、気持ちで負けてはいけない、どれだけ悔しさを出せるかがポイントだと試合前に話していた」とは岩本文昭監督(長崎)。観戦に訪れたテクニカルアドバイザーの高木琢也氏も「気持ちの面が、ややロッソを上回ったんじゃないか。多分、それくらいの差。けれどサッカーというのは、それくらいの差で勝負が決まる難しいスポーツ」と試合を振り返った。まさに気持ちで奪った勝利だった。

 現在、長崎の選手たちは「仕事とサッカーの両立」という難しい状況の中でプレーしている。練習は毎日午後8時から2時間程度。サッカーだけに打ち込めるロッソ熊本との環境の違いは比べるまでもない。しかし、こうした状況を自ら乗り越えてこそ新しいステージへと登っていける。「あと3つ勝って2位の可能性をつなげたい」(堤)。まずはJFLへの挑戦権を得られる2位以内を目指して、残り3試合に全てをかける。

 さて、今シーズン初黒星を喫した熊本。「なるべくしてなった。どこかでなめてたような選手も多いし、チームが一丸となっていないという、ちょっとした選手の行動であったり、そういうことがゲーム前にいくつか見られた中で迎えたゲームだったということ。こういう状況の中で勘違いしている選手も多い」と池谷監督(熊本)は、おかんむりだった。

 敗れたとはいえ、熊本がKyuリーグの中ではレベルが抜けているのは誰もが認めるところだ。しかし、彼らの目標はJリーグで戦うこと。相手に勝つことだけではなく、常に高いレベルを意識してプレーすることが必要だ。そういう意味では、気持ちの感じられなかった前半の戦い方が悔やまれる。「チームが何を目的としているのかを、もう一回確認して、改めて熊本の期待を裏切らないようにやっていきたい」(池谷監督)。残るリーグ戦は3つ。内容、結果ともに「らしさ」を発揮して決勝大会へ臨んで欲しい。


岩本文昭監督(V・ファーレン長崎)試合後のコメント、他
高木琢也テクニカルアドバイザー(V・ファーレン長崎)試合後のコメント
池谷友良監督(ロッソ熊本)試合後のコメント


(ロッソ熊本) (V・ファーレン長崎)
GK: 加藤竜二 GK: 堤喬也
DF: 河端和哉 福王忠世 鈴木祐輔 DF: 平原省吾 税所義博 堀川純一(63分/中村浩晃) 大濱誉
MF: 山口武士 熊谷雅彦 市村篤司(82分/濱田照夫) 鎌田安啓(64分/高部聖→87分/河野健一) 森一絋 MF: 田尻秀一 原田武男 田上渉 小嶺英二(88分/前田修)
FW: 関光博 町田多聞 FW: 今泉和己(80分/畑達郎) 松浦文典(58分/森本晃一郎)
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