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 福岡通信 05/11/12 (土) <前へ次へindexへ>
天神地区のビルに掲げられた応援幕

 全てはこの5試合のために
 

 取材・文/中倉一志
 これも、J1昇格争いの厳しさと言うべきか。第3クール以降、順調に勝ち星を積み重ねてきた福岡だが第4クールに入って3勝3敗。あと一歩と迫った勝負所で京都、横浜FCに連敗を喫し、3位の甲府との勝ち点差は5。数字の上では依然として有利な状況に変わりはないが、43節には甲府と、44節には仙台との直接対決を残す福岡にとって、その優位性はわずか。ここへ来て2位争いは再び混戦に。その行方は分からなくなってきた。

 気になるのは、第4クールに入っての3敗が福岡の悪い部分が強調された形で現れたことだ。いずれも決して立ち上がりが悪かったわけではない。しかし、ゲームを落ち着けられず、行ったり、来たりを繰り返す思うように行かない展開から失点。その後は、互いの連携に欠けて守備が機能せず、攻撃でもちぐはぐなところが目立ってゴールを奪えず。反撃の気持ちを見せることが出来ずに、そのまま敗れ去った。前節の横浜FC戦は、まさにその典型のような試合だった。

 自分たちのサッカーを展開するときの福岡の強さは実証済み。おそらく、そのバランスと破壊力はJ2トップと言っていい。しかし、その反面、リズムが掴めない試合では、流れを変えられずに90分間を過ごしてしまうことが多い。特に先制点を喫した試合に、その傾向が顕著だ。リーダーシップを発揮する選手がいないこと、イニシアチブを持って戦える選手が少ないこと、互いに叱咤激励しあえないこと等が、その原因。それは、松田監督就任以来の課題とされているものだ。

 その課題も少しずつ改善されてきたが、サッカーの神様に言わせれば、まだ不十分ということなのだろう。クラブの運営規模も含めた総合力では他を一歩リードするものの、宿題を抱えたままJ1に行くことは許さないと言っているようにみえる。そのために与えられた猶予は5試合。ならば、ここで、その課題を克服する強さを見せるだけだ。残された課題をネガティブに捉えるのではなく、最後のチャレンジ目標とし肯定的に捉えたい。それを克服するだけの準備も経験も4年間で積み上げてきたはずだ。



市内を走る西鉄バスには、福岡を応援するポスターが貼られている
 福岡を激しく追い上げる甲府と仙台に、入れ替え戦への出場を狙う札幌との対戦を含む5試合は、決して簡単な試合ではない。自力で2位の道を確保できる可能性を持つのは福岡だけだが、ひとつの敗戦は現在の立場を大きく変えてしまうだけに、他の3チーム同様、福岡も負けられない試合が続く。「簡単ではないけれど、全部勝たなければいけない試合。他力でJ1昇格はない。自分たちで道を開く、J1とはそういうもの」(松田浩監督)。チームは気持ちを確かに残り5試合に臨む。

 とりわけ、次節の札幌戦が福岡にとって極めて重要な戦いになる。間違いなく、今シーズンのこれまでの試合の中で最も激しく、厳しい戦いになるだろう。連戦の疲労や、累積警告がたまっている選手が多いなど、不安要素が全くないわけではない。しかし、ここまできたらやるしかない。もちろん、戦術面の準備は大事だが、思うように試合を進められる時間が限られることが予想される試合で物を言うのは強い気持ち。どれだけ速く、多く、強くプレーできるか。それが勝敗を左右する。

「今いる選手の中で強く戦う気持ちを持っている選手で臨む。自分がかかわることで目標を達成するという強い気持ちを持っている選手から起用する」。そう語る松田監督は、水曜日に行われた紅白戦では、いくつかのポジションでメンバーを変更。競争原理を全面に打ち出してチームの士気を高めた。それに応えて、選手たちは実戦さながらのピリピリしたムードでボールを追い、激しくポジションを争っている。どの選手も、俺に任せろと言っているように見える。

「次の試合がどれだけ大事かは分かっている。サッカー人生をかけるくらいの気持ちで戦う。それだけの準備はやって来た。どれだけ勝ちたいか。勝ち点3にかける情熱みたいなところが勝負を分ける」と村主は決意を口にする。激しい競争の結果、ピッチの上に立てるのは強い気持ちの11人。だが、ベンチ入りメンバーも、それ以外の選手も、全員で勝ち取る勝ち点3という気持ちを忘れないで欲しい。J1に行けるのは、そういうチームだ。



博多駅商店街「マイング」の陳列棚に飾られているアビー君人形
 そして、サッカーの神様から試されているのは選手、スタッフだけではない。チームを後押しするフロントも、スタンドから声援を送るサポーターも、それ以外の福岡市民も、そして我々メディアも、チームと同じようにJ1昇格への思いを試されている。いつも言うように、クラブの力とはチームの実力だけではない。福岡にかかわる全ての人たちの力の総和こそがクラブの力。「J1昇格にふさわしいチームになれたのか?」。サッカーの神様は、それを我々に問うている。

 第3クールを終えて5敗しかしなかったチームが、第4クールだけで既に3敗。目標だったJ2優勝は果たせなかったばかりか、いずれの試合もいいところなく敗れた。最も大事な時期とは思えないような戦いぶりに複雑な気持ちを持ったサポーターやファンも多いことだろう。しかし、いいところも、悪いところもひっくるめての福岡。それが我々のチーム、そして自分たち自身が投影されたチームの姿なのだ。単なる怒りをぶつけるだけの行為は天に向かってつばを吐く行為に等しい。

 いまの福岡はシーズン前に思い描いたチームとは異なっているかもしれない。J2最後のシーズンであろう今年を圧倒的な強さで駆け抜けたかった希望は叶えられていないかもしれない。けれど、J1昇格という目標に向かって確実に近づいてきた。それは福岡にかかわる全ての人たちのJ1への思いが結実してのものだ。しかし、まだ何も手にしてはいない。最後の壁にぶつかっているいまだからこそ、我々の本当の気持ちが問われている。

 思い描くようなチームになっていないことに対し、誰か戦犯を探し出して批判・非難することは何の結果ももたらさない。出来なかったことを叱責したところで何も事態は変わらない。これからの戦いは理屈ではなく気持ちの勝負。自分たちの長所も、短所も、全て正面から受け止めてチームを後押しすることだ。やられたらやり返せばいい。それだけのことだ。フロントも、サポーターも、福岡市民も、そして我々メディアも、その覚悟を持って5試合を戦いたい。



新天町に掲げられているバナー。アビスパロードとでもいえるムード
 ところで、いま福岡市内には、ある変化が現れている。福岡市内でアビスパ福岡応援キャンペーンを繰り広げる「にしてつグループ」は、福岡市の中心部である天神のビルに応援幕を掲げ、市内を走るバス・電車には自前で作製したポスターを掲示している。老舗の商店街である新天町にはバナーが掲示され、博多駅商店街「マイング」の各テナントの陳列棚にも、アビー君とノボリが飾られている。福岡に戻ってきて7年目になるが、福岡の町がアビスパ福岡を応援していることを、これほどまでに意識させられるのは初めてのことだ。

 これをもって、アビスパ福岡が地域密着に成功したなどというつもりはない。その存在は、まだ大きなものとは言えず、同じく福岡市に本拠を置くソフトバンク・ホークスと比較すれば、その扱いはまだまだ小さい。しかし、様々な事情が重なったとはいえ、福岡の町にアビスパ福岡を応援しようという気持ちが芽生えてきたことは事実だ。決して満足のいく歴史とはいえないが、クラブが歩んだ10年の積み重ねが福岡市民の心に届いたのだろう。

 誤解を恐れずに言えば、福岡市は理屈の町ではなく気持ちの町だ。何事に対してもフランクで、頑張っている人を応援してくれる町だ。「福岡は強くないと客が集まらない」と地元の人たちは言うが、私にはそうは見えない。強い意志と、強い気持ちを持って物事に取り組んでいる人を応援してくれる町だ。そこには、野球も、サッカーも、バスケットもない。そんな町の人たちが、アビスパ福岡が頑張っているということを認めてくれ始めたのだと思う。

 そんな町の空気も味方にして、残り5試合に全てをかけて戦いたい。過去のシーズンも、そして今シーズンも、ここまでいろんなことがあった。しかし、J1に昇格することを誓った、あの日の気持ちをもう一度新たにしたい。そして、あらゆる出来事は、この5試合のためにあったと思いたい。あともう一歩。駆け抜けられないはずはない。
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