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 福岡通信 05/12/01 (木) <前へ次へindexへ>

 さあJ1の舞台へ
 

 取材・文/中倉一志
 提示された4分間のロスタイムは不思議と長くは感じなかった。徳島陣内の深いところでボールをキープして時計を進める福岡。それは逃げ切るための時間稼ぎではなく、勝ち点1を奪うためのボールコントロール。90分間に渡って高い集中力を保ち、攻めながらもゴールが生まれない展開にも慌てずに自分たちのサッカー繰り返した福岡。そしてロスタイムに入ってもその姿勢は変わらない。その姿が少しの隙も感じさせなかったからだ。

 確実に進んでいく時間。そしてレフェリーの右手が高々と上げられると、少し長めのホイッスルの音が博多の森に3回響き渡る。そしてレフェリーがセンターサークルを指差した。福岡の5年ぶりのJ1昇格が決定した瞬間だ。我慢の末に、辛抱を重ねた末にようやく結果を手に入れた。その過程はシーズン前に思い描いたシナリオとは違ったものになった。しかし紆余曲折を経て自らの手で開けたJ1への扉。その価値は減ずるものではない。

「よし、J1だ」。私は小さくつぶやいて両こぶしを握り締めた。だが、感情を爆発させるような喜びはやってこない。嬉しさはひとしおだ。試合内容にも満足していた。だが、どこかで冷静な自分がいた。昇格は目標ではなくノルマ。それを果たした安堵感と、新しいスタートラインに立った緊張感が喜びを上回る。4年間を使って一区切りはつけた。だが、まだ何も終わってはいない。むしろここからが福岡の挑戦の始まり。そう思う自分がいた。

 選手たちも、セレモニー終了後は喜びを表現しながらも、誰もが冷静な表情を見せる。次の試合が3日後にあることが緊張感を持続させていたのかもしれない。しかし、それだけでは説明の出来ない冷静さだった。「J1で戦っていけるようにならないといけない。どうやってJ1のチームに並んでいくか。時間はあまりない。今はほっとしているけれど、休んでいる時間はない」(千代反田)。彼らも新しい戦いの始まりを強く意識していた。



 さて、昇格を決めた徳島戦に足を運んだ観衆は20,841人。今シーズン2度目、そして今シーズン最多となる大観衆の注目を浴びる中、試合は13:04にキックオフされた。昇格までの勝ち点は1。周囲では福岡の昇格を確信する声も多かったが、選手たちの顔にはいつもと同じ緊張感が漂う。リーグ戦のラスト2試合は甲府と仙台との直接対決。J1昇格を決めるには、この試合しかない。

 立ち上がり、さすがに福岡の選手たちの動きが堅い。そんな雰囲気をほぐすように、ホベルトが丁寧に仲間へボールを配ると、すぐに選手たちの動きが軽くなった。ここからはいつもの福岡のサッカー。高い位置からのプレッシャーとシンプルなパス回し。セカンドボールは鋭い出足と激しい当たりで決して相手に渡さない。そして、速い攻守の切り替えから徳島ゴールに迫る。そんな福岡に対して徳島は守備重視。ここまでの1勝1分1敗の通算成績をタイのままで終わらせることが狙いだ。

 5分、最初の決定機が福岡に訪れる。徳島のパスをグラウシオが出足鋭くカット。そのままペナルティエリアへ持ち込んで、GK島津との1対1からシュートを放つ。ボールはわずかにポストの右に外れたが、スタジアムのボルテージは早くも最高潮に達した。その後も試合は福岡の一方的なペース。強いプレスで徳島の自由を奪い、全く相手にサッカーをさせない。札幌戦から続く強い福岡の姿は、この日も全く変わらない。

 激しく攻め立てる福岡の前半に放ったシュートは徳島の2本に対して14本。手元のノートに記された決定的なシーンは9つを数えた。しかし、徳島はゴール前に人数をかけ、GK島津が随所にファインセーブを見せ、DFは身体を張ってシュートを跳ね返した。福岡が攻めあぐねているというよりは、絶対に点をやらないという徳島の強い気持ちが伝わってくる。結局、福岡はゴールを奪えずにスコアレスのまま前半を折り返すことになった。



「攻撃時は、もっと強引に点を取りに行こう」(田中真二監督・徳島)。後半に入ると徳島が前に出始める。そして51分、ペナルティエリアのすぐ外の地点から放った冨士のFKが福岡ゴールのクロスバーをかすめた。第28節、片岡のFK2発で敗れた記憶が蘇る。ゴールチャンスを作りながらもゴールネットを揺らせないうちにリズムが悪くなるのはサッカーの常。福岡に嫌な雰囲気が漂い始め、楽勝ムードだったスタンドを緊張感が包む。

「前半から飛ばしたので疲れた」(中村北斗)。疲労の蓄積からホベルトの運動量にも陰りが見える。中盤がルーズになった福岡は、徳島のパス回しを止められずにスルスルとゴール前に持ち込まれるシーンが増えていく。しかし、福岡は慌てなかった。球際で絶対的な強さを発揮するイレブンは、ここぞというところでは絶対にボールを渡さない。隙を見せない守備は前半と変わらず。堅固な守備をベースに機を見て前へ押し返す。

 一進一退の展開。そんな中で試合の流れを変える出来事が起こる。65分、交代を告げられた田中が、谷奥との小競り合いの中で相手の胸を突いた。後ろに倒れた谷奥は両手で顔面を押さえたまま全く動けず。結局、治療のためにピッチの外に出たのは2分半後のことだった。この一連の出来事についての是非を問うつもりはないが、この中断が試合のリズムを微妙に変える。再開後、徳島はリズムを失い、福岡は堅い守りからシュートで終わるというお手本のようなプレーを繰り返す。福岡は完全に試合を支配下に置いた。

 40分、左サイドから放ったアレックスのシュートがゴールマウス右角を直撃。44分には宮崎の強烈なミドルシュートがゴールマウスを襲う。そして電光掲示板の表示が消え、試合は4分間のロスタイムに。この時点で3位の仙台は水戸に3−0とリード。福岡がやらなければならないことはリスクを犯して攻め込むことではなく、試合をこのまま終わらせることに変わる。そして左サイドの深い位置でボールをキープしているときに、試合終了を告げるホイッスルが鳴った。



 堅固な守備をベースに、チームのディシプリンに基づくサッカーを披露した札幌戦から続く3試合は、松田監督と選手たちが追い求めていたものが、最後の最後で結実したことを示した試合だった。もちろん、満員の観衆の中で勝って昇格を決めたかったという思いはある。もっと劇的な幕切れを期待していた自分もいた。それでも「新生アビスパ」を追いかけてきた自分にとっては、非常に感慨深いエンディングだった。様々な出来事の中でたどり着いた自分たちの形。よくここまで来たな、そして、やっと戻ってきたなと、正直にそう思う。

 まだ何も手にしていなかった福岡は、とりあえず昇格という形を手にした。それは大きな喜びだ。しかし、これはゴールでもなんでもない。ひとつの階段を登っただけ。2001年11月24日に味わった悔しさを張らすための舞台へ戻ってきたに過ぎない。辛抱や我慢は終わったわけではなく、むしろ、今まで以上の辛抱と我慢が待ち受けている。新たな目標へ向けての挑戦は今まで以上に厳しいものだからだ。そして、今の力だけでは破れない壁が存在する。

 そんな中で、福岡にかかわる全ての人たちが戦えるかどうかが問われることになる。クラブには将来のビジョンを明確にすることともに、更なる地域密着を推し進めることと、限られた財源の中で戦えるチームを編成することが、チームにはより高いステージへ自分たちのレベルを引き上げることが求められている。サポーターは、今まで以上に我慢が続くであろう中で、どれだけチームを支えられるか、勇気付けられるかが問われる。そしてメディアにとっては、地元のチームを育てていく責任が、より一層重くなるはずだ。

 だが、ネガティブに捉える必要はない。まだゴールに到達していない以上、常に課題は存在する。それらの課題に対し、それぞれの立場で前向きに取り組むこと。戦犯探しではなく、自分たちの問題として課題と向かい合うこと。それが出来れば解決しない問題など存在はしない。課題の克服が難しければ難しいほど、達成感も大きいものだ。その大きな喜びへ向けてのスタート。新たな気持ちで次の一歩を踏み出したい。
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