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 札幌からのメール 04/01/26 (月) <前へ次へindexへ>

 弱くて真直ぐな光の糸


 文/笹田啓子
 先々週14日から2日間ほどのあいだ、北海道はこの辺でもそう滅多にない猛烈な吹雪に見舞われて、公共の交通機関は止まりまくり遅れまくり車も家も埋まりまくり。
 今回一番被害のひどかった私の田舎のオホーツク地方は、積雪が2mに達するところも出て、実家のある町は国道が数日間通行止めになって新聞も何も届かなくなってた。

 びゅうびゅう吹きすさぶ風雪嵐の夜、サポ仲間にメール。
「上里くん逃げ帰るんじゃないだろうか」
「最近はブリザード見に行くツアーもあるそうだから、面白がってるかもよ」
ブリザードかよ。…確かにブリザードと言っても大げさではないこの天気。

 上里くん というのは今季入団のルーキー、沖縄・宮古高校の上里一将選手。
宮古島からの初のJリーガーとの由。なので島ではもうすっかり有名人になってるらしいよ、とサポ仲間。
 しかし宮古島、である。
 北の果てから見るその島は、南の果ての常夏イメージのほぼ異国。その逆・南の島から見れば、北の果てのここ北海道もまた凍てつく異国。こんな大量の雪を見て度肝を抜かれているか、はたまた喜び駆け回る犬になっているか。まだ見ぬ彼の心中を慮ってみたりもするが、それより重大な懸案事項。
 そもそも選手全員週末までに集まってこれるのか。飛行機止まってるし。



 そんな、実に北海道ならではな心配から始まった札幌の2004年シーズン。
 17日がチーム始動の日。毎年恒例の北海道神宮への必勝祈願参拝(去年は何の意味も為さず)と、札幌ドームでのファン感謝イベントが最初の仕事。新入団選手の顔見せと、新しい背番号の発表、そして新しいスタッフ新しい監督。人工芝を敷き詰めた野球仕様の札幌ドームに、コンサの選手が立つの見るのはこの時期だけだ。

 吹雪明けの17日は冬晴れのつめたくてきれいな青空。
 試合の時はいつも閉められているドームの遮光カーテンが開けられていて、弱く柔らかな日差しがドームの中の人工芝の上に降り注ぐ。それだけでもなんだかいい気分。人工芝の上には、ミニサッカーのゴールやグッズ売りのブースが並ぶ。
 いつもの北ゲートからドームに入って、いつもの客席の階段を降りて、いつもは降りられないピッチの上に降り立つ。ピッチから見上げる客席は、こんなふうに見えるんだ。サポーターがそんなことを感じられるのも、このファン感謝イベントのときだけ。

 ファンクラブや後援会に入っていたり、持ち株に出資している人は参加無料のこのイベントに集まったサポーターは約6千人。チームが勝とうが負けようが、雨の日も風の日も雪の日もスタジアムに足を運ぶ人の最低数とだいたいその人数は一致している。所謂チームをコアな部分で支えるサポーターの数、と言って差し支えないだろう。試合の動員をこの人数に上乗せするには、ファンクラブや後援会に入るほどではないけれど、コンサドーレというチームのことを密かに気にはかけている(結構大勢の)人達をいかにスタジアムに取り戻し呼び込めるかどうかの問題で、それは極めて単純にチームの成績如何にかかっている。

 スター選手がいれば開幕はそれなりに人が入るだろう。でも結果が出せなければシーズンの終わり頃にはその数は半減する。去年がそうだった。
 今年はその逆になればいいなと思う。開幕にはそれほど動員できなかったとしても、終わり頃には客足が増えていれば。一年を通して派手な結果を残せなくても、明らかに成長の跡を見せてくれればそれは決して難しい目標ではない。もちろん簡単な目標でも、まったくないけれど。



 イベントが始まる。早速選手紹介。新しい背番号とともに選手の名前が呼ばれる。去年の二桁背番号から一桁トップ背番号へ昇格した選手達に対する驚きと期待の混じった歓声。
 今季から10番を背負うことになり、挨拶で「今年はJ1に昇格します」と言ってサポーターを湧かせた中尾は、あれっと思うほど顔つきが変わっていた。精悍さが随分増したというか。選手の表情の変化から、気持ちの変化を感じ取る。男子三日見ざればなどとちょっと感心する一方、「キャバ度アップしてる○○」「○○太りすぎ」と毒を吐くことも忘れない女子サポ達(私含む)。

 出世番号に湧いたあと、背番号数字後半の新人選手たちがはじめて札幌のサポーターの前へ顔を見せる。一方的に心配していた上里も(あたりまえだが)ちゃんといた。
 挨拶をする選手たちに均等な期待の込められた均等な拍手。
 が、先日の高校サッカーで初出場で決勝進出と活躍した筑陽学園の桑原には、ひときわ大きな歓声が上がる。

 この歓声の大きさがそのまま今季の結果になるか、それとも「ふうん、こんな選手なんだ」と均等に拍手された選手が来年のこの時期大きな歓声で迎えられるか、出世番号を背にするか。特に今年は新卒選手が8名と多く、うち高卒が6名。同い年同志の競争も熾烈になるだろう。誰が最初に対等してくるか、誰が最後に存在感を示すか、誰がどれだけ伸びてくか。この一年を半ば穏やかな気持ちで見守ることが、しかしとても楽しみになってくる。



 新人選手と同様、この日初めて「札幌の監督」として姿を現した柳下監督。
 新人選手達が競い合うゲームで審判役を任された。
 見ていると、所謂サポ受けするような、面白いことを言ったりやったりするわけではない。どちらかといえば全体に地味な印象。なのにやけに監督の声が耳に残る。僅かな違和感を伴いながら、だけど選手の名前が耳にするりと入ってくる。

「今のは鎌田が早かったですね」
「蛯沢がここですごくやる気出してるんですよ」
「上里が」「斉川が」…

 そうだ。選手の前に各自の名前を書いたボードがあるにしても、いくらゲームとはいっても、まるでずっと前から知っている人であるかのように選手の名前を呼んでいるのが、就任したばかりの監督に思えなくて違和感を感じたんだ。
 選手をよく見て、選手をひとりの存在と認識して尚且つ意識してきちんと名前で呼ぶ、それは簡単なようでいて、なかなかできないこと。ああ、こういうことができる人なんだ。小さなことが大きく私の心に響いたりする。

 小さいことをきちんとできる監督。即ではなくても将来は期待できそうな新人達。表情の変わった若手選手。
 彼等のほとんどは今は無名に近くて、さらに今年は名のある選手や代表歴のある選手を新しく連れてくることがなかったから、たぶん他所から見たら「誰それ」状態のいまの札幌だけど、「今年のJ1復帰」もやや高望みなんだけど、ドームの遮られない窓から細くピッチにこぼれる光の糸の1本2本があんまりきれいで、壇上に並んだ選手をバックに監督の挨拶、を聞きながら妙な幸せを感じてしまう。
 いいじゃん札幌。これは私達にしかわからぬほど小さな幸せだ。
 でも、それでとりあえず今はいいのだ。

 先を焦らない。先を急がない。
 札幌が今季選んだ進むべき道は、ピッチの上に差し込んでいた一筋の細い光に似てる。 弱くても、まっすぐに、迷わずに差し込んでいた光に。
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