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 札幌からのメール 04/03/14 (日) <前へ次へindexへ>

 開幕戦が示したもの


 文/笹田啓子
 会社帰りの通勤列車を待つ。駅構内の照明塔に照らされた高い空の雪は、緩やかな風に巻かれて上へ下へ。静かな夜だ。札幌の街はまだそんなふうに冬のままなのに、明日この町のチームはリーグの開幕戦をここホームタウンで迎える。考えてみればそれはとても幸せなことだ。

 幸せな幸せなホームでの開幕、去年初めてその日を迎えることが出来た。けど、幸せなまま終わらせることはまるっきりできなかった。幸せだったのは試合が始まる前までの間だけで、キックオフの笛からものの10分でさっきまでの喜びがチームの仕上がりへの疑いに変わり、さらにその疑いの心は試合が終わるとき怒りと失望に変わってた。そしてその気持ちはシーズンを通して札幌を支配することになってしまった。

 開幕戦でその年を占う。どこのチームもそういうところがあると思うけれど、札幌はチームが出来てこのかた、「開幕戦に勝てば良い年、負けると悪い年」と、チーム創設の96年を除いてははっきりその流れに従っている。最初の昇格を果たした97年・2度目の昇格の00年・J1残留を決めた01年はそれぞれ開幕戦に勝利し、逆に降格した98年・J1復帰かなわなかった99年・2度目の降格の02年・そして昨年は全て負けていて、しかもその内容が極めて悪い。

 開幕戦とはいっても、数字としては44試合のうちのひとつに過ぎない。それは承知だ。しかし、札幌の場合は特に他所のチームよりも遙かに長い合宿を経たのち入る最初の試合である。長い合宿、少なからず溜まると言われているストレス、そんな中でやってきた練習がチームのあらゆる面でのベースになる事を考えると、開幕戦の結果が「あの苦しい中でやってきたことが間違いではない」と思うようになることと、「あれだけやってこの程度か」と思うようになることの差は、決して小さいものではないように思うのだ。

 そしてそれは私達サポーターにとっても同じことで、ホームのほとんどのサポーターは、ほぼ1ヶ月以上に渡って自分たちの目でチームを生で見ることができない。だから、どんなふうにチームが変わっているか変わっていないか、仕上がっているかいないか、それを自分たちの目で確かめられるのは開幕戦しかない。そこで「いい!」と思えることと、「なにコレ」と思うこととでは、それこそ長いリーグ戦を見続ける気持ちのベースに入るものが大違い、なのである。



 開幕戦の朝は3月として普通の冷え込み。マイナス2度ぐらいか。
 朝8時を過ぎたドーム付近には、開場を待つ人達の列が出来ている。その数が例年に比べて決して多くはないことが、昨年からのチーム不信を引き摺っていることを感じさせる。が、それでも変わらずに集まる人達は集まってくる。晴れた空が急に暗くなって雪が強く降り出して、また晴れて日差しにホッとして、そんなことを繰り返しているうちに、列はそこそこ長く伸びていた。

 その日の動員は18,308人。昨年の開幕戦よりも約5,000人ほど動員が落ちた。が、昨年のホーム最終戦の動員が17,832人だったことを考えると、あの失意の2003年の終わりを見届けた人達は、そのまま新たな年に期待を持って集まったことになる。どんなときでも札幌を支えるサポーターの数がこの人数ならば、言われるほどこのチームは落ちぶれちゃいない。事実、J2開幕戦で一番の動員だったのだから。

 試合は、札幌が1点のリードを守りきれずロスタイムに失点して引き分け、という、結果だけ見ればさしたる期待の持てない始まりのように感じられるだろうが、そうでもない。この日集まった1万8千のサポーターの、今年を見守る気持ちのベースに何を入れられたかということは、試合後に会った知り合いのサポーターのほとんどが結果に関わらず「面白かった!」と気持ちよく笑っていたことが全てを物語っていた。

 キャンプ中、柳下監督がずっと言い続けてきていた「選手全員が同じ絵(イメージ)を描くこと」の片鱗が試合の中に確実に、誰の目にも見えたからだった。一人一人の動きが、スタンドから見るとひとつの大きなうねりになって相手ゴールに向かっていくのが判った。ひとつの大きな、無色透明の波がピッチの上を滑らかに覆っていく、相手チームを飲み込むように。



 しかしそれを見たからといって、誰もが「今年はJ1昇格だ」とも言わなかったのは、この大きな波を現時点では90分持たせることができていない、ということがこれまた誰の目にも明らかだったからだ。
 ここまでの合宿で出来たのは実質45分ぶん、頭と身体を細かく動かして90分戦い抜くために必要な力を、これから現場での戦いの中で培っていくしかない。そして今はまだ色のない波に、札幌の色というものを確実に添加していかなければ本当の強さにはならない。それを得るまでの間にチームは苦い経験もするだろうし、辛い目にもきっとあうだろう。事実、この試合でもロスタイムに1点リードしているチームが犯してはならないミスを、2年目の市村が犯してしまった。セーフティで行かなければならない場面を、勝負にかかり、そこでシュートで終われずボールを奪われカウンターを喰らった。それが甲府の同点弾に繋がった。

 ただ、それらを差し引いてもこの日札幌が見せたサッカーは、ここ2年ほど札幌サポーターが忘れていた気持ちを---「このチームが好きだ」「このチームに勝ってほしい」「勝たせたい」それを呼び起こさせるに十分なものだった。GK藤ヶ谷がやや不可解な警告連発で退場になって、その交代でリーグ戦初出場となる阿部がピッチに入ってきた。そのとき沸き起こったサポーターの応援の声は、去年一度も聞くことのなかった、強く魂の入った声だった。引き分けに終わっても、落ち込む気持ちになるどころか、この2年味わうことのなかった満足感が自分たちを包んでいた。「今年は信じていける!」

 テレビで試合を見返すと、試合後引き上げる選手の中で市村の顔が大きく映った。少々ヤンチャないまどきの青年という印象の強かった市村が、憔悴した表情で項垂れている。自分のミスだということが痛いほどわかっているのだろう、他のどの選手よりも顔を下に向けて画面から消えていった。ショックだろうとは思うが、「気にするな」なんて優しい言葉はかけられない。ただ、引きずるな。間違いなくそれは自分が育つための必要な試練だ。そこからひとつ覚えて逞しくなってくれれば、今日落とした勝ち点2つ分を、これから先のいつか3にして返してくれればよい。もとより今年は、そういうことのために費やす一年にすると決めているのだから。そう決めたことが間違いではないと信じられる試合を、開幕の日にチームが見せてくれたのだから。

 喜びがあって失敗があって結果引き分け、だけど満足。
 今年はそんな一年になりそうな予感。引き分け というのが結果順位として何位ぐらいになるのか、少し気になるところではあるけれど。
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