topnewscolumnhistoryspecialf-cafeabout 2002wBBSmail tolink
 札幌からのメール 04/07/08 (木) <前へ次へindexへ>

 不器用な男達


 文/笹田啓子
 「熱い気持ちを持った奴は正面へ11時20分集合」

 7月4日京都戦。
 函館・千代台競技場の開門直後のホームゴール裏に、段ボールの張り紙。
 「なにあれ?」
 「あー、USが選手バス出待ちすんだって」
 「俺こないだ行ったよーはじめて選手の出待ちなんてしちゃったー」

 決して試合前から生卵を投げようとか、そういうわけでは全くない。
 スタジアム入りする選手を試合前から鼓舞してやろうと、そういう考えでUS(=ULTRAS SAPPORO)界隈のお兄ちゃん達が前節ホーム鳥栖戦からはじめたものだった。その第2回目。正面に集まったサポ数十人。それらをとりまく普通の出待ちの人達、スタンドの上から眺める人達。

 先に来たのは京都の選手バスで、せっかくだから熱烈歓迎。が、いくらブーブー言ってみても「京都に責任はないんだけどー」とUS中心のY君が苦笑いするように、所詮は熱意の薄いブーイングなので、黒部が笑って通りすぎるだけ。チェ・ヨンスに至っては演技めいた欠伸までしてくださった。

 選手バスでもなんでもない学生を乗せたバスに、誤ってコールを送るという失態をかましたあと、お目当ての札幌選手バス登場。一斉に歌いだす札幌サポーター。横断幕が掲げられ旗も振られる、さながら試合と同様。しかしバスの降り口からは、つまり選手サイドからは出待ちしている連中の顔は見えない。にしても、それだけの応援で迎えられても黙して会場入りするチームを見たら、あー今日も勝てんかも とぼんやり思ってしまった。実際それは正解だったのだけど。



 だからって応援を意気に感じていないわけではない、とは思う。
 0-2で14連敗目を喫した試合後、監督は選手の姿勢を批判する発言をしている。
 曰く、試合に出られるだけで満足してしまう選手。試合に出ればそれだけでスター扱いするマスコミ、連敗してもなお熱く応援してくれるサポーター、それに甘えているのではないか、と。
 そんなことを聞けば一瞬「わしら応援しちゃいかんのか?」と思ってしまったけど、いや、そうじゃない…とすぐに思い至る。応援されることを本当に疎んじているならば、鳥栖戦で前日サポーターに贈られたマフラーをベンチに持っていったりはしない筈。監督は応援しているサポーターの気持ちは十二分にわかっている。監督の言葉には、応援されているのに結果を出せていないことへの苛立ちやもどかしさが内包されている。それでも頑として自分の信じた道を曲げようとはしない。勝つための簡単なサッカーに転換する姿勢は、微塵も見せない。

 ひどく不器用で、愚直なまでに真直ぐに己の道を往こうとする男達。
 今年はこれまで、随分たくさんそんな姿を見ているような気がする。監督にしても選手にしてもサポーターにしても、目指す道を進むにしたって、もうちょっと上手なやりかたあるよなぁ。もうちょっと利口なやりかたあるよなぁ。そんなふうに感じることが沢山ある。



 久々に後半45分をフルにプレーした堀井。
 今年はキャンプから故障で出遅れて、試合に起用されても精彩を欠いたプレーが目立った。そのうちサポーターの期待は他の若手選手達に移っていく。交代で名前を告げられても、スタジアムが沸き立たない。そのことは本人が一番感じていたのじゃないかと思う。練習を見に行けば以前はしていたファンサービスをしないで出て行く姿も見た。苛立ったプレーが目に見えて増え、成績不振にともなって、サポーターからの風当たりも強くなっていた。
 そんな堀井が見せた、45分間の闘志。ゴールを狙う姿勢、ボールを奪う気迫、そのいずれもが今年一番のもので、遠目で見てもわかる形相に、今までどれだけ悔しい思いをしてきたか、どれだけ這い上がりたいと思っていたか、結果的にゴールも勝ち点も奪えなかったけれど、間違いなく彼もまた(不器用に)戦ってきているのだということを感じさせた。

 そんなチームを見ている自分たちのサポートもまた、すこぶる愚直であって。
 特に流れが悪くなると歌いだした歌が止まらない。ほかに言葉を選べばいいのに、選ぶ術も知らず選ぶ言葉も少ない。けれど信じていることだけはなんとしてでも伝えたい。ホームでのサポートは最近そういうことが続いている。「信じる道 迷わず往け 俺達ならやれる」と只ひたすらに歌い続ける。もうちょっと迷って曲がってもいいんじゃないかと思うほどに真直ぐに。私はその歌に最後まで付き合えなかった。

 「いくらなんでももうちょっと、やりかたあるんじゃないのかな」と思うことがないわけでは、もちろんない。けれど同時に、信じる道を真直ぐに進もうとする人達に感服する部分もある。そして出来れば彼等のそれが成功せんことを、と祈っていたりもする。

 私含めたサポーターの多くは今、この不器用な男達の背中のすぐ後ろをついて歩いていく。
 彼等が道に迷い後ろを向くことがないように。倒れたときにすぐに助けてやれるように。
 そんなふうに思いながら暮らす毎日は、案外苦しいばかりでもなかったりするのだ。
<前へ次へindexへ>
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送