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 札幌からのメール 04/10/16 (土) <前へ次へindexへ>

 季節の終わり、しかし心は小さく躍る。


 文/笹田啓子
 前回のコラム掲載が8月23日。
 久方ぶりに暑い夏を過ごしておりましたのに、今はもう霜のたよりが聞かれる時期となり。この週末には道北地方では平地で雪も、という予報すら立っています。ああ、またうっかりと2ヶ月も経ってしまいました。この2ヶ月のあいだ札幌は、順位はやっぱり最下位のままですが、しかし何も起きなかったわけでもありませんで。目の前の季節が夏から一気に冬支度を始めるのを見るように、いろいろなことが慌しく変わってゆきました。



 9月と10月の半分を過ぎて。
 このあいだに、正確には9月ひとつきでチームは急に大きく変わりました。8月31日に横浜マリノスよりレンタルでMF金子が加入、翌9月1日には強化指定選手として登録されていたMF権東が、チームとしては初となる現役大学生でのプロ契約を果たし、それから2週間後にはチームとしては古参の部類に入っていたDF大森がセレッソ大阪に電撃レンタル移籍、その移籍から3日後には神戸から完全移籍でDF西嶋の加入・・・と、4人もの出入りがありました。正確には権東は、契約の内容がプロになっただけで、出入りとは言わないのですが。しかしこの急な移籍の連続が、そのときチームに最も必要な刺激になるかもなどと、そのときは予想もできないでいました。

 今季、それまでの札幌。
 4月から6月まで3ヶ月間一度も勝てず。7月にようやく1勝して連敗を止め、8月もなんとか1勝。春先から眺めていた若いチームは、こけつまろびつしながらも薄いからだに経験を一枚一枚その身に重ね、夏が終わるころにはすこしだけ見栄えがするようには、なってきていました。もちろんそれは以前の自分たちとの対比なだけで、他のチームから比べたら今もまだまだ「若造」にすぎないのですがね。まだ柔らかな、だけどことし半年分は確実に積まれているはずの夫々の下地。それをどうピッチの上にプロとして今現在のありったけ---それがいくら最低限程度のものしかなかったとしても---を、表現するのか。それがなかなか出来なくて苦悶する日々が続きました。

 間違ったことはやってはいない。
 連敗をしても、結果が出なくても選手は何度もそう口にしました。練習をたまに見に行けば監督の熱意も、連敗する前もした後もなにも変わらないように見えていました。練習が終わっても暫くの間スタッフと話し込んだり、また選手と再び話をしたり。クラブハウスから出てくるのも、選手よりもずっと遅い。それまでスタッフといえば、練習が終われば早々に出てくるのが普通だと思っていたので、監督のその「出の遅さ」は練習時の姿と相まって私に「ヤンツーさんいつも熱心にありがとう・・・」と思わせるに十分なものでした。これが「単なる長風呂で遅い」とかだったらどうしようと思ったことは頭の中から消しておこう。

 そのように熱心な指導のもと。熱心な指導のものであるはずなのに。
 遅々として進まぬ選手の成長に、やる気がないとか甘ちゃんだとかと、サポーターから上がる苛立つ声も決して少なくはありませんでした。選手の無自覚な事件があったから、それは余計にそうだったのかもしれません。とはいえ全ての選手がそうだというわけではもちろんなくて、プロとしてやるべきことはやっている、ただ自分の中にことし確実に育ってきていた「芽」が、まだそれまでの自分の殻を破れないでいる、そんな選手もいたわけで。

 選手達が自分で自分の殻を破るのに必要な刺激、
 それがこの9月の一連の移籍のなかにあったように思うのです。たとえば権東。9月からプロ契約ということで心構えも当然そのときに変化があったでしょうが、それに加えて同い年で既にプロ4年のキャリアがある選手2人の加入。それにも刺激を受けたのか、権東のプレーが日増しに輝きが増していきました。アマチュアからプロへの殻を破って、出てきた新芽の瑞々しさ。ピッチの上で彼は自分の居場所をプレーで強く主張するようになってきました。



 そんな権東と、左サイドでそろそろ「絶妙ですよ!」と言いたいぐらいの連携を見せ、プレーでチームを引っ張っているのが、和波。彼もまたこの月に、ついに殻を破ったなと思わせる成長を遂げています。

 和波は人当たりのいい選手で。
 練習場でサインや握手を頼むとき、最も頼みやすい空気を纏っている、本当に人のいい、と思わせる選手。実際そうである、好青年、と彼を知る人達から聞かされることもあり…ではあるのですが、しかしそれは同時に彼の弱点ともなり。プレーにもそんな「人の良さ」が表われてしまう。ディフェンスでガツガツ行かない。行けない、と言うべきか。一対一の局面であっさり抜かれる場面をこれまで何度見てきたことか。

 今年は神戸にレンタル移籍したものの、三原の怪我などもありクラブ側の要請を受け5月に札幌復帰。戻ってきた当初は「それまでの和波」とさほど変わらぬプレーが続いていましたが、柳下監督の指導のもと、徐所にプレーに弱い変化が現れ始めていました。彼のプレーにそれまでなかった意思の強さ、のようなもの。相手に都合よく譲らぬ強さ。それが見られるようになってきていました。

 そこに、長年一緒に左サイドを担ってやってきていた大森健作の移籍。
 9月11日の仙台戦。その試合を最後にセレッソへの移籍を決めていた健作。試合に勝ったというのにサポーターへの挨拶にも、顔を上げられないでいました。そんな下を向く健作の頭を「先輩みたいに」抱き寄せたのが和波でした。それはむかし、和波が札幌に移籍してきてはじめてJ1で勝った試合のあと、活躍した和波の頭をおなじように健作が撫でて可愛がっていた、そのときとまったく逆の光景でした。

 彼が心中で何を思っていたのか、私には知る由もないですが、どうしてもそのときを境に、和波が「大人の選手」になりきれたように思えてならないのです。「自分がやらなきゃ」という、それまでのどこか遠慮がちだった彼のプレーの殻を壊す決意が、恐らくはそこに生まれていたと。



 そしてその9月に、チームは今年に入ってはじめて「1ヶ月のあいだに2勝」を上げることが出来ました。ホーム連勝もようやく果たし、今月のホームも引き分けで始まり、あとひとつも勿論勝ちたい気持ち満々です。選手個々の成長もありますが、なによりチームが、ここにきてやっと柳下監督の掲げていたものに一歩近づいたと、今年のつらいことをたくさん眺めてきたサポーター達が認識できるようなサッカーを、少しづつ、だけど力強く描けるようになってきたこと。それがこの2ヶ月のあいだのいちばんの変化でした。

 僅かな成長をチームに認めるなか、札幌はもう間もなくサッカーの季節を終えます。
 けれども今年のこの成長途中の物語は、まだ来年へと、更にそのつぎへと続いていきます。振り返ってみると、移籍で選手が出ていったこと、移籍で選手が入ってきたこと、様々な事件、沢山の苦さも痛みも、それからもちろん喜びも、すべてが必要なプロセスとして、これから先の結果へと繋がっていっているように思えています。それがどこまで行けるかは、これまでに積んできたものと、そしてこれから積むもの次第。

 来季に向けて残り試合ももう僅かとなってきました。「より遠くまで行きたい、行けるところまで」、そう思うならば、僅かな試合のひとつも無駄になど出来ません。この順位でこの季節に、残り試合を消化試合などとはとても思えないこと。そのことが私達の心を冷えてゆく季節とは裏腹に小さく躍らせているのです。
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