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 札幌からのメール 04/12/01 (水) <前へ次へindexへ>

 この一年の意味


 文/笹田啓子
 今季ホーム開幕戦の動員が18,308人。
 今季ホーム最終戦の動員が19,873人。
 最終戦の動員数が開幕より微増の、今季最高の入り。J1昇格こそ果たせなかったものの、概ね成績良好なシーズンを送ったチームに、来季の期待を込めて集まった---などと、この数字だけを対比して並べるだけならそんな嘘もつけようが。5勝15分24敗、勝ち点30、J2最下位。それが今季の札幌の嘘偽りのない戦績だ。



 札幌ドーム元年、J1時代の2001年には平均2万を越えるほどまで増えた観客数が、今年は遂に1万人を割った。ゴール裏の応援場所確保のために試合の朝から並んでいるサポーターの数も、随分と減っていた。J1復帰を狙った年、J1復帰を果たした年、厚別の試合には開場を待つ客の列が早朝から何重にも折り返し、隣のサブグラウンドを一周するほど伸びていったなんてこともあったけれど、今年は開場間近の時間になっても列が重なることが少なくなった。

 そういう自分の仲間だって、チームが好調だった頃は並びの列に10人や、それ以上いたことがあったけれど、我慢のシーズンと最初から謳われていた今年、敗戦を重ねるうち過ぎてゆく季節、秋の雨が厚別公園の枯れかけた銀杏の葉を冷たく濡らす頃には、いつも同じ顔ぶれの3人とか、4人とか。「なんかすっかり人減ったねぇ」。勝てないチームから人が離れていくことを、試合ごとに自分自身思い知らされることが多くなった。

 だから朝から出足が早く、ドームの開場を待つ人の列が久しぶりに長く伸びていった最終戦は、やっぱりそれなりに浮き立つものがあった。たとえそれがちょっと前の記憶からすればひどく小さな喜びであったとしても。

 それでもこのシーズンを振り返るとき、動員も減った、最下位に終わった何の喜びもない1年だったかといえば、決してそうではなく。それは事実として結果としてそうだけど、それだけじゃない何かもここにはあって。

「今日こそは勝つ気がする」と期待して行っては裏切られ、裏切られるたびにその次の勝利を信じる気持ちがどんどん薄くなり、先制されればその時点で今日はお終い、あとはダラダラ、そんな気持ちを抱えているだけだった時期も間違いなく、しかも長くあったし、厳しいシーズンと予想はしていても、予想以上に現実のJ2最下位という文字は重く気持ちにのしかかった。

 だけど今この季節からシーズンを通して眺めてみると、そんなどん底のところから少しづつ少しづつ、本当に少しづつだけどチームが進んでいったのが見てとれる。私はそれを、---1年間のほんの僅かな進捗を宝物のように、それがダイヤの原石なのか、それとも安物のガラス玉なのか今はまだ判らないけれど、1年かけて、確かにここ札幌で作られた僅かな光の欠片を---心にしっかり抱えている。



 それに、勝てなくても来る人が減っても、スタジアムにはいつも何かがあった。
 テレビでは映らない、新聞に載ることのない、ネットで書かれることのない、誰も気にも留めない、けれど見つめれば幾らでも心に響くものはあった。

 夏の日の試合中にまるでスコールのような土砂降りの雨に打たれたり、初秋の頃に予想もしない好天で季節外れの日焼けをしたり。
 アウェイ福岡での相川のヘッド。長い連敗を止めてゴール裏の知り合い同志みんなで抱き合って泣いたこと。たまたま自分の後ろに座っていた、地元出身の選手・桑原のご両親と喜びあったこと。

 つづく敗戦にサポーターが怒ったり、暴れたり、泣いたり、怒鳴ったり、呆れたり。
 風に揺れる厚別のアウェイゴール裏の白樺の木が、緑から黄金に変わっていく。
 9月の仙台戦で半年ぶりのホーム勝利。その勝利を掴んでひとり選手がチームを去っていった。このころから少しづつチームの失点と負け数が減ってきた。

 10月の頭には雪虫が飛び交う。その月の末の湘南戦では、試合前に激しい雨と風が冷たく客席を打ちつける。その日の動員は5千人台と今季最低だったけれど、高い空を覆う雪をはらんだ雲、冬がそこまで来ているを思わせる時雨の中でも、最下位暮らしが長くなっていても、雨風寒さ除けフル装備で試合に訪れる観客の赤いカッパがスタンドを埋める。ピッチの上には、技術こそ低いけれど、自分達のサッカーを表現しようともがく両チームの決して低くはない志。

 引き分けで終わって帰る途中、「天気が悪かったから行けなくて…」と言いながら、通りすがりの見知らぬ私に「今日はどうだった?」と駆け寄って結果を尋ねてきた年配のご夫婦。ご主人の帽子には代表のピンバッジ。

 負けなくなってきたけれど、かといって勝ちきれないチーム。
 冬が訪れてもチームの進捗は極めてゆっくりで。急激に調子を上げて私達を喜ばせるということは、リーグ戦では遂になかったけれど。
 天皇杯はJ1で優勝争いを繰り広げていた市原が相手。そこに誰も予想しなかった勝利。ゴール裏の柵に上がって選手を出迎えるサポーター。「怒る以外で柵に上がるの見るの久しぶり!てか何年ぶり!?」。ゴール裏に挨拶に来た選手達は、あとでその様子を選手の背後から撮った画像を見て驚くほど、サポーター達のギリギリの傍まで来ていた。



 勝つ喜びこそ少なかったけれど、スタジアムという現場にはいつもたくさんの想いがあって、この1年を振り返る気持ちに様々な影を落とす。どんなに負けても最初の志を1度として曲げなかったチーム。その志す形が、終盤戦になって漸くおぼろげながら形を成してきたこと。それをただ静かに見守り続け足を運び続けたサポーター達。サポーターを少しでも満足させられるようにと日夜奔走するクラブの方達の姿。今年見続けていたものを並べると、私はこの情けない成績の2004シーズンに、むしろ愛おしさすら感じてしまう。

 だからこそ、この1年を決して無駄にはしたくない。
 後年、「あの年は間違っていた」などとは絶対に言いたくない。言いたいことはただひとつ、「あの年があったからこそ」。この1年の意味と意義を、来季誰かがプレゼントしてくれたりなんてことはありえないし、また望むものでもない。自分達の手で掴み取っていくもの。そのぐらいの心の強さを札幌は持っていい。
 来季のその前に、天皇杯もまだ残されている。戦いがある限り、そこで得るものは全て次へ繋がる。掴めるものは、なんだって掴んでやるさ。



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