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 札幌からのメール 05/03/22 (火) <前へ次へindexへ>

 流れる季節のはじまりに


 文/笹田啓子
「札幌の今朝6時の気温は氷点下3.8度。昨夜から新たに12センチの積雪があり、現在の札幌の積雪量は120cmです。」

 3月13日、ホーム開幕の朝のニュースを聞けば、120cmの積雪のある街でサッカーが開幕だなどと、普通に考えればあり得ない。仕度をととのえ外に出る、私の足元からは乾いた雪を踏みしめる靴の音。ドーム前、列並びをしている私達の上に降る雪は、傘のいらない湿り気なき粉の雪。買い揃えたスポーツ新聞を濡らすことなくただ積もる。雪の積もる毎に少しづつ伸びる列。



 その前の週の5日、2005年のシーズンがはじまっていた。
 札幌は昨年の開幕カードと同じ相手である甲府に、昨年と同じスコア(2−2)で開幕戦を終えていた。だけど今回はアウェイ開幕で、一旦は逆転された中から同点に追いついた、そういう引き分け。去年の引き分けは土壇場で追いつかれた引き分けだったから、「アウェイで勝ち点1の開幕はまあ悪くないよね」。サポの間には概ねそんな空気が流れた。それでは、よし来週はホームで今季初白星を。その前にまずホームで試合を出来るようにしなければ。翌6日はこの時期恒例・ドームのホヴァリングステージの除雪作業の日。

 今年の除雪作業は、結果から言えば去年に比べて随分と楽だった。去年が「氷」と格闘するようなもので大変だったという経験があったからかもしれないけれど、それにしてもやる気満々で向かったピッチは既に緑の部分が去年よりはるかに多く。今年の札幌の大雪で一時はピッチの上に120〜140cm積もっていたという雪を、機械である程度除雪して、人力の作業を待っていた間に気温が上がって去年よりも解けてしまったらしい。

 除雪用のスコップを氷にかざすと、去年よりはるかに手ごたえなく、柔らかく芝からペリリと剥れる。芝は3月の陽の光を、3ヶ月ぶりに受けてきらきらと輝く。芝生の匂いが立ち込める。家族連れのサポが多い。小さな子供さんを連れて、親子で除雪作業。「次はぼくがダンプ(で雪運び)やるー」と父親にせがむ子供。集まった人達は皆黙々と、額に汗しながら除雪作業を続ける。まだ雪はたくさん残っているけれど、日差しは確実に春に近づいて、その下でやる肉体労働は私達にあたりまえのように汗をかかせる。

 去年よりも1時間も早く終わった除雪作業。解散して帰るサポーター達。私の前を歩いていた家族連れサポと思しき方。たぶんお父さんサポが、子供に話しかける。「来週楽しみだねぇ!」本当に嬉しそうな語尾。「おにぎり作って来ようねぇ!」去年最下位で終わったチームにだって均等に希望の訪れる春の匂い。

 その夜NHKのニュースを見ていたら、19日のホーム開幕に向けてスタジアムの除雪作業に打ち込む山形サポーターの姿が映っていた。スタンドに積もる70cmの雪に重いショベルを入れる女性サポの方。同じ雪国で、シーズン最初に除雪作業がつきもののサポーター同志に感じる親近感。みんな愛するクラブの為に頑張っている。私達も負けてはいられない。よし今年は!今年こそは!!

 そう思って臨んだホーム開幕戦。だった。のに。



 昨年のホーム最終戦からまる3ヶ月空けて、サポ皆が待ちに待ったホーム開幕戦。今年は去年とは違うと思って迎えた開幕戦。絶対に勝つのだと心に決めて向かった開幕戦。それを。

 パスは回る。そこそこきれいにまわる。主に敵陣でボールを持っている時間が長い。一応攻めているはず。なのに。「いくらパスは回っても、活気も殺気もないパスじゃこわくもなんともないものなのね」と私の心の悪魔が冷静に解説。いつも明るい私の心の天使は珍しくグゥの音も出ない。そういう試合。鳥栖の矢野が警告2枚で退場になってもボールは美しくぐるぐるまわるだけ。そうこうしているうちにこれが世の常、ゴール前の混戦から守備陣のチョンボ、ああ、なんかうちのゴールが揺れている。鳥栖のサポーターが喜んでいる。えー。

 そこから焦ったってもう遅い。鳥栖ゴール前にいくら迫ったって、今更活気出したって、応援で声を尽くしたって跳んだってカンペキ遅い。ピピー。主審の笛がドームの乾いた空気の中、なかば馬鹿馬鹿しく私の耳に響く。流した汗は意味不明。どうしてくれようこの脱力感。ホームでつかめなかった今季初勝利。次の相手は草津。昇格してきたばかりの草津。第2節を終了して既に2敗、0得点6失点。「草津に初ゴールを与えるのはウチでは」「ゴールどころか勝ち点も」「勝ち点どころか勝利まで」…。心の中には黒い雲。真っ黒い雲。昨年最下位で終わった札幌にそれら予感を「そんなことはないわよー」と笑い飛ばせる余裕は悲しいくらいまったくない。心の黒い雲とたたかう次の試合までの日々。除雪作業で感じた春の匂いは一体どこへ。あの輝かしい嬉しさはどこへ!!



 そして19日、草津戦の日。
 仕事を終えて家に帰ってきてニュースを見る。結果はもちろんもう知っている。「次のニュースはコンサドーレ。サッカーJリーグ2部第3節が行われ、コンサドーレ札幌はザスパ草津と対戦しました」。アナウンサーの顔が微妙に笑っている。

 前半14分、草津の宮内が先制点を挙げる。悪い予感はひとつ的中していた。けれど当たったのはそれだけで、試合前に抱えていた黒い雲とは裏腹に、先制点を奪われてから4得点を奪い返しての逆転勝ち。監督が柳下さんになってから、初めての逆転勝ちではじめての3得点以上。完勝への、計り知れぬ安堵感。

 とりあえず一安心。一安心しながら、しかし考える。あの、J初ゴールを奪った時の草津のゴール裏の映像。爆発せんばかりの雰囲気がニュースの僅かな映像からすら伝わる。彼等がそれをどれだけ待ち望んでいたか、想像するに難くない。勝つということは、その相手の期待と希望を踏み潰して行くということ。はじめてのリーグに期待する気持ちの大きさ。それは自分達とて幾度も経験してきたことだから十分に理解できる。そこに少しばかりの痛みを感じつつ、しかしだからこそこちらにも、そんな朗らかな希望に負けてはいられないのだという強い気持ちが芽生えるのであり。

 チームをサポートするということは、チームと苦楽をともにすることだと思うけど、ホントのところは苦悩の連続だ。去年なんか勝率から言ったら苦苦苦苦苦苦苦苦苦楽 をともにする ぐらいの比率だった。そんな自分達だって、新しい年が来たら新しい希望を手にまた戦いに出向こうとする。除雪をしにいく。応援しにいく。チームを愛する気持ちを、そのままチームの為に流す汗にかえて。

 各チーム、希望と絶望の交錯する季節はまだ始まったばかり。どれだけの喜びが待っているか、どれだけの苦しみが待っているか、先は全く読めない。黒い雲とたたかう日々か、はたまたビールのうまい週末か。きのう積雪がようやく1mを切った札幌の、季節は待ったなしで流れていく。そしてその流れる季節を私は、苦味も喜びもすべて含めてどこか楽しんでいる。
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