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 札幌からのメール 05/04/28 (木) <前へ次へindexへ>

 因縁


 文/笹田啓子
 これまで長いこと印象に残るゴールは幾つかあったけど、私にとってその発生頻度は福岡戦でのゴールにやけに多くて。
 尤も忘れられない最初のゴールは、98年12月5日の室蘭。札幌の選手が決めたゴールじゃなくて、当時福岡の石丸が89分に決めたゴール。それはその試合における福岡の3点目で、札幌がJリーグで初の「2部リーグ降格チーム」になる、その引導を完全に渡しきるゴールだった。彼のゴールで私は主審の笛が鳴ったら札幌が降格するんだという現実を受け入れた。相手チームのゴールを見て涙が止まらなくなるなど、あとにもさきにもあの時だけで。

 次に忘れられないのは、昨年の7月10日、博多の森。
 続いていた長い連敗を止めることになる、相川のダイビングヘッド。右サイドからクロスが上がると、目の前のゴールに相川が飛び込んでいくのを見た。ボールがゴールネットに入る前から自分の身体は飛び上がってた。押されていた中で僅かにつかんだ時間帯の中で生まれた、爽快な、本当に爽快なゴール。

 降格のゴール。14連敗を止めるゴール。
 振り返ると福岡戦でのゴールは、札幌の節目に訪れているようで。そしてもしかしたら今回のゴールも、それに続きそうな気がして。



 北海道でも遅い春を感じるはずの時期なのに、本州では桜も散ったと便りが伝えられるのに、札幌の街に舞うのは桜の花びらでなく雪。前日の夜からの霙がやまない。強い風も加わって、早朝からの列並びに慣れた札幌のサポーター達は、立ち入れる限りのドーム屋内通路で風雪をしのぐ。北海道の東のほうでは積雪が20センチにもなっていた。ドームじゃなけりゃ福岡どころか札幌の私達だって泣いてたような気象条件。4月23日、ドームでは初の福岡戦。

 福岡には、なんだかいつも勝てないような気がしてた。
 実際のところ対戦成績は札幌に分が悪い。特に札幌厚別で福岡に勝ったことが、過去4度の対戦で一度もない。そのせいもあるし、なによりも「12.5」を忘れることは、きっとおそらくこの先ずっと出来ない、そのこともあるし。だけど私が今一番忘れられないのは、実はそういうことではなくて。

 2003年。2度目のJ2降格後の最初のシーズン、札幌が監督にジョアン・カルロスを招聘していた頃。力のある外国人選手を揃え、一年でJ1復帰を目指して、しかしシーズン最初に獲得した外国人選手がシーズンの早いうちからことごとく退団。夏を前に3人がまるごと入れ替わっていた。J1復帰をうたいながら、開幕からずっと見えてこなかったその年のチームの形。勝ちきれない試合が続いて苛々しはじめていた頃。

 その夏7月、博多の森を訪れたときのこと。
 試合にはもちろん勝つ気だった。松田監督を招聘して育成路線にシフトして最初の年の福岡。若返りをかけ、その年の序盤低迷していた。翻って札幌は、いくら調子が上がらないと言っても一年勝負をかけたチーム。そんなところに負けるはずがないと、思っていた。

 だけど私がそこで見たものは、力のある選手を揃えていても、チームとしての約束事を持たない、チームの体を成していない札幌と、チームの中に最低限の約束事を整え、何度も札幌ゴールに攻め込みながら最後のシュートを外しまくった福岡。
 スコアレスドローで終わったその試合。結果こそ出ていないけれども、選手に力がまだ足りないと感じたけれど、「チーム」としての形をきちんと作ろうとしていた福岡の、弱いけれど根本的な迷いのないプレーのひとつひとつが心に鈍く刺さった。その時福岡がやろうとしていたことは、私が自分達のチームにやってほしいと、一番願っていたことだった。勝てなかったことよりも、そのことがひどくショックだった。

 そしてその年、札幌はJ1復帰を結局果たせず、翌年福岡に一年遅れる形で育成路線へと続いていく。そんな2004年は本当に弱いながらも、あの夏の博多の森で見た「チームづくり」を札幌に見出すことができた。連敗しても「福岡だって、最初の年はああだった。でも続けていくことで彼等は結果を掴んできた」。そんなふうに思うことも少なからずあった。

 福岡に対して感じることは、日本で最初に「落ちるか残るか」の戦いで対峙した同士への今も消せないライバル心であり、そのとき破れそして今尚「一年遅れであとを追う」劣等感であり、しかし同じ道を往く同志へのシンパシーであり。だからどうしても勝てないように思い、だけどどうしても勝たなければならないとも思い。



 前半17分、福岡に先制点を奪われ0−1で迎えた後半。
 ゴール裏のULTRAS SAPPOROから声が上がる。
 「上位の相手のチームにさ、ヘタクソだけど俺らのチームはここまで食い下がってるんだ。俺らだってもっと声出してやろうぜ!」 彼等もまた福岡に負けられぬ特別な想いを持ち。いつもよりも強くその声は響いた。

 札幌はその試合まで4試合連続ノーゴール。ホーム札幌ドームでは、それまでの3試合で勝利どころか、ゴールのひとつも奪えないでいた。内容的には昨年のチームよりは明らかに成長している部分もある。拙さが本当に少しづつだけど、でも確実に消えかけている。それなのに出ない結果。勝つとかなんとか言う前に、点を取らないと始まらない。しかし福岡は今季それまでJ2最小失点を誇る。そんな相手からゴールを奪うということが、どれだけ至難の業か。

 1年先輩の福岡は、随所に1年先輩の貫禄を見せていた。細かなプレーのひとつひとつが、札幌のそれより明らかに上だった。札幌にまだ備わらない力強さ。札幌にまだない細やかさ。3年目の松田監督のもと醸成を続けるチームの姿。を、感じると同時に、それだけ力が上のはずの福岡が、力をいやというほど見せ付けてはこない後半。福岡のほうが上だ、と感じているのに、どうしてか彼等のプレーから「怖さ」が感じられない。

 果敢に攻めあがる札幌。その回数が時間の経過とともに増えていく。けれど最後のプレーの精度の悪さや判断のズレでどうしてもゴールを奪えない。シュートがポストに当たる。シュートがゴールネットの脇を通り過ぎていく。形にはなっているのに最後の最後で合わない。そしてロスタイム。今日もゴールが奪えないでこのままホームで負けるのか。怒涛のように攻めあがってくるけれど、クロスが上がるのを見たけれど、中山元気がそのボールに頭で合わせるのを見たけれど、そのボールはきっとゴールネットの脇をまたも通り過ぎていくのか…と思うか思わないかのその時、ボールは目の前のゴールネットの内側に収まっていた。今季ホームでの初得点は、なにか厚く固い壁を壊すように。

「ロスタイムでのゴールなんて、何年ぶりだ!」

 結果としてはホームでの今季初勝利はまたお預けになってしまったけれど、「上」と認めている福岡相手の土壇場での同点弾は、私の心を確実に弾ませる。こんなゴールは、相手がそのとき福岡でなくなって格別だっただろう。だけどそれがあえて福岡戦であったこと、に少なからずの因縁を感じずにはいられない。
 こんな想いは札幌側からの一方的なものかもしれないけれど、それでもこの中山のゴールが3度目の節目のゴールに、札幌の新しい局面の幕開けに、もしもこれからなっていくのなら。そのときあらためて私は福岡を特別な思いで見つめるだろう。
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