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 札幌からのメール 05/06/20 (月) <前へ次へindexへ>

 再生への物語


 文/笹田啓子
 5月4日の横浜FC戦で今季ホーム初勝利を挙げて以来、開幕から第9節までのあいだに1勝しか挙げられなかったチームが、第10節から今節・第18節の福岡戦までのあいだに5勝を挙げた。昨年は1年間に得た勝ち点が僅かに30、勝利数は5。その勝ち数を夏を前にして早々と越えた。昇格圏内である2位の甲府までの差は「3」。去年は想像することすらできなかった「J1」へ、挑むチャンスが遂に巡ってきたと実感せずにいられない5月以降の成績。もしも私達の現実がこのチームの成績だけだったなら、今頃は本当に純粋に曇りなく、ようやく訪れた挑戦の舞台にただ心を躍らせていただろうと思う。

 5月28日の草津戦で、チームは実に679日ぶりの3連勝を果たして、「勝てないチーム」から「勝てるチーム」に変貌を遂げ始めたと皆が信じた。しかしその3連勝の、最初の1勝は、これまで幾つもの危機を味わってきた札幌の歴史に於いても、未曾有と呼べる危機の渦中で勝ち取ったものだった。



 5月に入ったというのに肌寒い日々が続いていた。
 連休が明けたというのに、そんな天気に体調を崩した私は月曜日から会社を早退して家で寝込んでいた。そこに届いた友人からのメール。チームの運営会社であるHFCの取締役が児童買春で逮捕されたというおよそ信じ難いニュース。何かの間違いだと思った。だってまだ一部のニュースサイトにしか載っていない。誤報と訂正されることを期待した。けれどそれは無謀な期待にすぎなくて。

 知っている名前のうしろに「容疑者」と書かれたニュースをテレビで見る。逮捕された人は、チームを創設初年度から応援していた、私達の古くからの仲間であり友人だった。逮捕される5日前の試合で私は、ホーム初勝利をゴール裏の入り口から見届ける彼を見つけて、手を取り合って喜んだ、「(チームは)これからだよ!」と言い合った、そう言ったばかりの、相手だった。

 彼のことを直接知らない、特に女性サポの友人からは事件と当人を罵倒する声も私の元に届いた。それは当然のことだと思った。私だって過去似たような事件が他所のクラブで起きたとき、それらを至極冷ややかな目で見ていたし。同じような目で世間に見られるのはもう、致し方ない。でも、信頼に足る友人がそんな事件が起こしたとき、私は(それまでの他所での事件と同じように)事件を起こしたことには違いない。知り合いだからといって闇雲に庇い立てしようとはしなかったけど、かといって冷えた目で見ることも、裏切りだと見捨てることのどちらも出来なかった。しようとすら、思えなかった。

 サポーターでありながら、クラブの中の一員として働くことの難しさ。私はサポーター同士だけでなく、仕事上でも多少なりとも関わることがあり、その中でも彼の辛さのようなもの感じることが幾度かあった。だからといって彼が私に、愚痴をこぼすことはなかった。だからこそ余計に、内側の溜め込んだ澱の深さを思わずにいられなくて。



 それからサポーターの仲間達と連絡をとりあった。私とおなじように長いこと彼と付き合いのあった仲間達。一様に動揺があった。だけど全員に一致していることがあった。「変わらずに応援しよう」。それは、チームのことであり、また今回事件を起こした友人に対してのことでもあった。

 5月14日の厚別は朝から晴れ渡る空。そこに冷たく強い風が吹きつける。ホーム側のゴール裏のサポーターに向かって吹く風は、そのときの自分たちが置かれた状況を表してるようだった。煽られるほどの強い風。大きく叫んでも声は風に流されてピッチの上の選手達には届かないかもしれない。ならば届くほどもっと強く大きい声を。前半開始早々に水戸のオウンゴールで先制したあと、押しながら膠着する時間帯。そしてそれを耐え訪れた後半20分、上里の出したパスはそんな強い風に負けることなく、中山の足元に届きワントラップ。相手DFを交わしたときにもう勝負は決していた。

 いつもと変わらぬように競技場に集まった人達。会場に掲げられた数々の(チームを勇気づける内容の)横断幕、マッチデープログラムと共に配布されたクラブからの謝罪文には社員自らの手書きのコメントが書き添えられ、試合終了後には柳下監督からの挨拶。かつてない危機に、誰もが心をひとつに戦い、そして勝った。



 試合のあと、仲間同志でいろいろ話をした。「自分たちがとても心配していることを、なんとか伝えられないか」と相談を持ちかけてくる人もいた。それは事件から1ヶ月以上たった今も続いている。「世話になった人だから。今度は自分たちが助けてやらなきゃ」、そう言う友人も多数いる。

 チームの現状は、勝って尚いまも厳しさに変わりはない。今期の動員はまだ目標に達していないし、スポンサーが撤退した影響もある。今季を乗り切ったところで、「来年」がなにもしないで当たり前に来ることを想像はできない。未来は希望に満ち満ちてなんていない。だけど、闇の中に放り出されてはじめて、そこに数多に輝く星があることも知った。暗闇の中だからこそ知ることのできた、光の在り処。チームのため、そして仲間のため、戦える人達の思い。

 もしも事件がなければ、私はそのことを、そんな大事なことを、気付くことがたぶんなかった。そのことを気付いた時、サッカーのチームはサッカーのためだけにこの街に存在しているわけじゃないのだと知り、そして同時に、試合そのもの以外に気をとられる日々が続いても、チーム状態を心配することが全くなく、「ヤンツーさんがちゃんと見てるから大丈夫」。そこでいかに自分が今のチームと柳下監督に全幅の信頼を寄せているかを、そして信頼に足るほど彼等が成長してきていることを、改めて思い知る。

 あの事件が起きたとき、当時の成績ではそれから先の札幌の絶望の物語を想像した人は少なくなかったろう。けれど残された人達は覚悟を決めて立ち向かった。誰が、バッドエンドの物語なんて作るもんか。誰のためにも、こんなところでダメになっちゃいけない。それぞれが折れそうな心を奮い立たせてこれから作るべきは、絶望の淵から這い上がる本当の再生の物語。失敗ばかりしている札幌に与えられた役目は、その物語をこれから勇気を持って綴っていくことだと、私は信じている。
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