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 札幌からのメール 05/07/28 (木) <前へ次へindexへ>

 夢への加速度


 文/笹田啓子
 もしも今年のシーズンが始まる前に。
 柳下監督が「目標はJ1昇格」とだけ言い切っていたら。私はそれを信じられただろうか。
 否だな。「いくらなんでもそれはちょっと早計」ぐらいに思っただろう。昨年のチームづくりを1年通して見ていて、結果こそJ2最下位だったけれど、信じられるものは間違いなくあった。最下位という成績であっても、進んでいる道は間違っていないということ。そう信じている私であっても、いきなり「今年昇格」という言葉を出されたとしたら、素直に受け入れられた自信はない。現実には「トップ5以内」という言葉を監督は使っていた。その言葉の中に、それはあくまでも最低目標で、本当は常にJ1を狙う姿勢である、ということを勿論感じてはいたけれど。

 目標とか夢とか。
 それはいつも自分達の実現できる、できそうな範囲内で語られがちで。
 今の自分達の立ち位置からは迂闊に想像できないほど上のほうの夢は、語られないどころか語れば笑われる。



 高校生のとき。現代国語の授業だったかと思う。先生が授業中に話した「夢」がなぜか忘れられないでいる。内容はこうだ。
「うちの高校の校歌って、すごくいいと思うんだよね。詩が素晴らしくて。僕はいつかこの校歌を甲子園で聞いてみたいんだ。きっと映えると思うんだ」。
 私のクラスは、勿論私も含めて、その先生の話を笑った。道大会にすらコンスタントに出られていないのに、いきなり甲子園て。先生それはないわって皆で笑った。

 それから約20年後の、この夏。
 母校が高校野球の北北海道大会に地区予選を突破して進み、そこでも勝利を重ね、過去5回敗退していた準決勝の壁を遂に突破し初の決勝進出。甲子園まで「あとひとつ」と迫った。あのとき自分たちが笑った、当時とても信じられなかった「先生の夢」が目前に迫ってきていた。

 …結果は、決勝で敗れ甲子園初出場はならなかった。もしも勝っていれば、母校の属する地区からは33年ぶりの代表校で、さらに史上最北端からの出場になっていたという。それぐらい、北海道の高校野球の中でもあまり高くないレベルの地区で、しかし限りなく近づいた甲子園。そういえば私が3年生のときにも夏の北大会の出場権を勝ち得て、けれど初戦でコールドか、コールドに近い点差で負けていた。そのとき同じクラスの野球部の子がのちに「俺らの代は全道大会に出るところまでさ。次の代に(全道で)善戦するようになって、それからだんだん勝てるようになっていく」と、語っていたことを思い出した。20年かかって遂にたどりついた、決勝。私が当時笑って、そして忘れていた彼等の「夢」は、途絶えることなく成長を続けていた。

 20年前はただ笑われるだけでしかなかった夢が、今は多くの人達に信じてもらえる夢になっている。遠い先の夢を描く人がいて、その夢を現実につくりつづけた人達がいて、遠かった夢の形がはっきりと見えるようになった頃、ようやく多くの人はその夢を信じることができるようになる。ひとびとの共感を得ることの夢は、実現へ向けてたぶんそこから加速度を増してゆく。



 札幌のいまの夢は、「トップ5入り」では逆に笑われる。
 J2前半戦を終えて3位で折り返した。シーズン前には、いや、今年4月の時点でも誰にも信じられない成績だ。なにしろその頃には順位を11位まで落としていたのだから。去年が最下位で今年もそんな順位、そこで何の夢が持てようか。それが5月から一転した。勝ち星が増えるほど順位をグングンと上げていった。いつもにまして混戦の2位以下争い。そこに乗じるように、隙間を縫うように上がった階段の上から3番目、「J1昇格を」と語ってももう誰も笑わない順位。勝てない間に様々な批判があり事件がありして、しかしそんな背景であっても一時とて止まることなく育てられてきた札幌の夢は、もう誰の目にも確認できるほど、信じることが出来るほどにかたちづくられてきている。

 もう間もなくそんな夢を本当に叶えるための、勝負がはじまる。
 第2クール最終戦となった室蘭での京都戦は、力の差というよりも、ここまでの京都の戦いぶり、決して圧勝ではないけれど、1点差であろうとなんであろうと、必ず「勝ち」を収めてきたその勝負強さ、それを支える昇格への想いの強さに圧倒される気がした。最初から「昇格」をうたって戦っているチームと、つい最近昇格争いに加わってきたチームの、心のもちようの差。それを前半戦最後に知るのは、決して悪くない。そりゃ当初の目標に比べたらにわか昇格争いだ。でも1年半かけて一番下からこの順位まで上がってこられた、チームの成長は信じていい。これからもっと成長していけばいい。成長曲線が下を向かない限り、いまより下に落ちることはない。そしてそれはまだ止まるようなところにはない。

 誰の力でもなく、自分達の力でここまで進んできたのだ。笑われても詰られても人に離れられても信じる道をただ真直ぐに進み、描いた夢を、誰にも信じられるところにまで持ってきたのは、チームの力以外にほかならないのだ。

 カタチが見えれば人は集まる。8月の後半戦ホーム初戦の札幌ドームでの前売りは好調と聞く。札幌の「夢」に共感して集まる人達がすこしづつ増えていく。そんなことが重なってゆけば必ず、夢への加速度は増すはずだ。
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