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 スペインからの風 03/06/04 (水) <前へ次へindexへ>

 ムルシアの至福


 文・写真/中島泰介(アリカンテ在住)
 ヨーロッパのフットボールシーズンが終わろうとしている。続々と各国リーグの王者が決まり、チャンピオンズリーグもミランが120分+の戦いを制し今シーズンの幕が下りた。しかし、リガ・エスパニョーラは最後まで混戦模様だ。"ラ・レアル"ことレアル・ソシエダ、"エル・ブランコ"レアル・マドリード、そして一昨年の王者、ガリシアの強豪デポルも優勝の可能性がある。そして1部昇格を目指した2部Aリーグの争いも熾烈だ。

2部Aの上位の順位は、残り5試合を残した第37節終了時点で以下の通り。

1. ムルシア  勝点 70
2. アルバセテ  勝点 69
3. サラゴサ  勝点 66
4. レバンテ  勝点 59

 今トップを走るReal Murcia Club de Futbol(以下ムルシア)は、アリカンテ市から車で1時間ほど南に行ったところにあるムルシア自治州ムルシア市のクラブ。1908年創立で、1988−1989年シーズン以来の1部リーグでのプレーを目指す。このムルシアが第38節にホームで、1部昇格の可能性を残すバレンシアのチーム、Levante Union Deportiva(以下レバンテ)と対戦する。強豪同士の対戦、そして勝てば1部昇格が決まるアルバセテ、昇格の望みを繋ぐためには負けられないレバンテ、と非常に盛り上がる要素があるこの試合を見たいと思った。



 まだチケットがあることをクラブのオフィスに確認し、試合のある週の火曜日にムルシア市に向かった。ムルシア市自体は少し内陸にあるのだが、ムルシア自治州もアリカンテ同様地中海に面し、美しい海岸を持つ。温暖な気候を利用し野菜や果実の栽培が行われおり、またワインも生産され、日本にも輸出されている。観光に訪れる人は多くない。バスターミナルに到着し、観光案内所で地図を得ようと考えていたが見つからず、ムルシアのホームスタジアム、ラ・コンドミナにたどり着くのに苦労した。

 スタジアムに到着して最初に見たのが、タキージャ(チケット販売窓口)の前にできた長蛇の列だった。これからチケットを手に入れるまで、強い陽射しを受けながら50分待つことになる。スタジアムのキャパシティはおよそ16,000人。すぐにチケットは売切れると思い、早くに買いに来て正解だった。ちょうど私の前にいた人が地元TV局のインタビューで「チケットの価格は妥当だと思いますか?高いと思いますか?」と質問された。チケットの価格を確認するのを忘れた私は、買わずに帰らなければならなくなるのではないかと少し心配した。壁に貼られた価格を見てみると、20〜50ユーロ(日本円でおよそ\2,700〜\6,750)。結局20ユーロのチケットを購入した。2部とはいえこの大一番、高いのか、妥当なのかちょっと判断できなかった。

 ご存知の方も多いと思うが、スペインでは需要によって価格が変動する。例えば1部バレンシアCFのチケットの価格をウェブサイトで調べて見ると、第4節ラジョ・バジェカノ戦が6〜36ユーロ(およそ\810〜4,860)、33節のビジャレアル戦は20〜62ユーロ(\2,700〜8,370)。35節のレアル・マドリード戦は42〜111ユーロ(\5,670〜15,000)と価格が跳ね上がっている。



 さて、試合当日に再びムルシア市を訪れた。2時間程前に到着し、そこからゆっくりとスタジアムへ向かっていると、偶然ムルシアの選手が宿泊しているホテルの前を通り、偶然スタジアムへ向かうバスへ乗り込む選手達を見た。ホテルの前で選手達を待つファンと報道陣。選手が出てくる度にファンは自分達の英雄の肩を叩いたり抱擁したりして声援を送っていた。ガリシア人の監督のダビッ・ビダールが現れると、ファンの歓声が一際大きくなった。バスが出発してから私は再びラ・コンドミナへ向かって歩き始め、次第にチームカラーの赤い服を着た人達、クラクションを鳴らしながら走る車を多く見かけるようになった。

 およそ1時間前にスタジアムに着いた時には、指定席のメインスタンド以外、両ゴール裏とバックスタンドはすでに真っ赤に染まっていた。この試合のため、20,000の小旗、10,000のクラブ聖歌の歌詞が書いてある紙、そして45Kgの紙吹雪が準備してあると新聞で読んだが、すでに多くのファンがこの旗を振っていた。運良く1人分のスペースを見つけ、コーナーフラッグ付近に腰を下ろした。試合前から"ア・プリメーラ(1部リーグへ)・オーレー"の合唱が響く。観客の興奮度、スタンドの詰まり具合を見て、セキュリティは大丈夫か少し心配した。

 6月1日12時に試合開始。緊張しているのか、いきなりレバンテに連続してコーナーキックを取られる。これらを凌いだあと、ムルシアは左サイドのドリブルからのクロスボールをシュートまで持っていく。このシュートは大きく外れたが、これ以降ムルシアにリズムが出てきてボールを支配する。この試合、レバンテの最も脅威だったプレーヤーは、コロンビア出身のFWコンゴ。19分にはセンタリングを頭でジャストミート。20分にはスピードを生かし、DF裏に出たパスに走りこみレバンテのチャンスになるが、ムルシアがコーナーキックに逃れる。

 ムルシアも負けてはいない。何度もレバンテゴール前にクロスボールを上げる。34分、ムルシアFWカランカのシュートがバーに当たり、そのこぼれ球からまたクロスボールが上がるが、得点には至らなかった。このプレーにより声援が大きくなる。しかしこの後ムルシアにピンチが訪れる。38分のコーナーキックをコンゴが頭で方向を代えこれが惜しくもポスト。45分には左サイドでまたコンゴがDF裏に走りこみシュート。ムルシアのドイツ人GKレインケが弾く。両チームとも勝利が欲しい一戦であるため、ムルシア、レバンテ両チームとも積極的な試合を見せ、見ごたえのある前半を終えた。

 スタジアムの周りを見回すと、周りのビルから大勢の人達が試合を見守っていた。屋根のあるメインスタンド以外からは試合はほとんど丸見えだ。私の座っているところから一番近いビルから、年配の女性がスタジアムに向かって手を振っていた。それを見たスタジアムのファンは"アブエーラ(おばあちゃん)、アブエーラ"と大合唱。満面の笑みを浮かべ、更に大きく手を振るおばあちゃん。緊張感漂う一戦の中でもファンはユーモアを忘れない。



 後半開始。後半開始早々ムルシアがシュート。DFに当たり、ムルシアのコーナーキック。ショートコーナーからクロスを上げるとアルゼンチン人アシアリがヘディングシュート!見事ゴールネットを揺らした。揺らしたのはゴールネットだけではない。スタジアム全体を揺らした。観客は層立ちになり叫び、拳を突き上げて喜びを表現した。"ア・プリメーラ"の合唱も一層大きくなる。

 リードしてから、ムルシアの選手達は非常に落ち着いて見えた。負けられないレバンテは前がかりになり攻撃をしかけるが、全くゴールできる雰囲気はなかった。逆に33分、カランカがゴール裏に抜け出しバセリナ(ループ)を狙う。これはレバンテGKがセーブ。39分にまたゴール裏にパス。イスマエルがDFを一人かわしてシュートを放つ。シュートは外れたが、シュートする瞬間の後ろからのタックルでレバンテがファールを取られムルシアにPKが与えられた。これを入れれば1部昇格はほぼ決定だ。スタンドは沸き上がった。  が、スタンドの全員の注目を集める中で、途中交代でピッチに入ったカルロス・イサックの蹴ったボールはGKによって弾かれた。1点リードしている状況とはいえ、彼の受けた重圧は並大抵のものではなかっただろう。


 ムルシアは最後まで守りの姿勢にならなかった。GKに止められたものの、44分には連続してシュートを放つ。6分という、レバンテには一瞬にしか感じなかった、ムルシアには永遠に感じたであろうロスタイムの後、主審は試合終了のホイッスルを鳴らす。ホイッスルと同時にファンがピッチになだれ込んで、ピッチはあっという間に人の海と化した。



 ファンの喜びの表現の仕方は色々だ。ついさっきまで戦場だった芝生に転がる人、座って感慨にふける人、記念撮影をする人、記念に芝生やゴールネットの一部を持っていく人。しかし多くのファンはベンチの前で選手と感動を分かち合っていた。終了後、選手達は屋根のない2階建てバスに乗り込み、街の人の声援を受けながら、ムルシアファンが祝福する場所ラ・レドンダへ向かった。その噴水の周りで街を上げての祝勝会が続いた。

 去年は2部Bへの降格争いに顔を出していたムルシア。今年は2部Aへ留まることを目標にしていたチームがシーズン通して安定した成績で昇格を果たしてしまった。今シーズンは残り4試合あるが、2部A最大の目標である1部昇格を果たした今、ムルシアにとってリーグは終了したも同然かもしれない。しかし、14年間最高レベルのリーグから遠ざかっているムルシア市に、スターの集まるリーグが待っている。来シーズンまでムルシアファンの気持ちは高ぶる一方だろう。
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