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 続・スペインからの風 04/09/30 (木) <前へ次へindexへ>

 危機の意味(1)


 文/神藤恵史(ムルシア在住)
 
「クライシス」という言葉は中国語、日本語では二つの文字から成り立っているようだ。「危」と「機」。「危」とはデンジャラス、「機」とはチャンスを得るという意を持つようだ。つまり東洋ではクライシス(危機)が起こることは危険な状態にあるということと同時に、新しく変化するチャンスを得たというプラスのコンセプトがあるのだ。

 セルフ・コントロール、自己啓発系の本をスペイン語で読んでいて、このようなフレーズを度々目にする今日(こんにち)。ここ欧州でも東洋の知識への敬意は高く、変わらない日常生活に新しい観点を取り入れようと、日本文化を熱心に学ぶ人もスペイン社会に少なくはない。



 最近、スポーツ界、経済界、政治面でも「クライシスの状態にある」という言葉が頻繁に使われているのは日本でもスペインでも同じだろう。

 特に今シーズンはレアル・マドリードの大惨劇が続いているが(僕には滑稽なコメディ番組にしか見えないが・・・)、昨日のローマ戦での勝利を機点にポズィティブな方向へ展開されるような雰囲気が少しずつ銀河系軍団にも漂ってきた。

 レバクーゼン戦での大敗、カマッチョ監督の退陣、リーグでの連敗、怪我人続出などと、ハプニングが耐えないレアル・マドリード。選手・監督・フロントの関係がマイナス的に三権分立されてしまい、フロレンティーノ会長もお手上げ状態だ。元GMバルダーノの手腕を恋しがりつつも、開幕早々に「すでに冬期移籍市場では新しい補強を・・・」という話題が、スペインのお茶の間に呼ばれていないのに登場する。外から助けを持てるのではなく、内に解決策を見出そうという観点がマドリード側の新聞・マスコミ等にも見出せない中、「ギャラティコ・ウィルスはまだ探知されていないようだ」と酷評をバルセロナ系の新聞に叩かれている。(やはり症状も銀河系なみの大きさなのだろうか(笑))

 練習場ではサポーターからの罵声を浴びている選手たちに、シャッターチャンスを逃さずに笑顔で手を振る日本人。またロベルト・カルロスがボールを持てばホーム試合でブーイングの嵐が湧く中、ことの次第を理解できない日本人がテレビに映るが、彼らが状況を把握できないのにも無理もないはずだ。

 ボランチ不足、得点力不足(リーグ5試合で僅か4点という)、既に原因が分かっているものの、結果が出ない現状はサポーターの堪忍袋を切れさせ、ロナウドの誕生日パーティーには野次を飛ばしに近所まで来る若者が絶えなかった。



 そんな不安材料ばかりを抱えて迎えたホームでのローマ戦を見たのはこの文章を書いている数時間前。頭を抱えながらビールを飲むおじさんの隣で、僕が楽観的に試合観戦が出来たのは、ある友人との一つの会話がきっかけとなっていた。三代に渡ってレアル・マドリード一筋の家族を持つ某青年と言葉を交わしたあとに、スペインサッカーに浅い僕が新発見したこととは、まさにクライシスを救い出す二つのプラス要因だった。

 まずは選手たちの実力について。
 スペイン中のマスコミが、またファンが「クラブ史上のクライシス」と煽り立ているものの、本人たちには、まだまだ余裕の姿が見られたのには、誰もが納得いかなかった。
「しかし選手らにとって、リーグはまだまだ始まったばかり。1シーズン60、70試合をこなす最強軍団が僅か数試合で結論を見出すなどとは馬鹿げている」と語る友人の意見にも一理はあることに気づいた僕だった。

 試合中、カマッチョがピッチの選手に向かって叫ぶ中、ラウールとモリエンテスはベンチで冗談を飛ばしあっていた。次の試合でもチュッパチャップスを咥えながらベンチでおちゃらけている選手を何人か見かけた。VIP席から激怒していた会長さんとは反比例するかのように、余裕綽々の姿が見られる。しかしこの友人の口を借りると、この背景には彼らの実力がまだまだ存分に発揮されていないということが隠されているようだ。

 レバクーゼン戦で惨敗した後に「このような試合は1年に1度はあるもの。シーズン早々に起こしたことはなによりの不幸中の幸いだよ」と相変わらずの早口で次に切り替えていたロベルト・カルロス。カマッチョ退陣の電撃ニュースについて「たった2試合の敗退、公式戦4試合を終えたところで答を出したことにはガッカリしたよ」と心の内を明かすフィーゴ。現在絶好調のバルサと比べられたことに対して「彼らが今のような完成された状態に持っていくまでは少なくとも5年は費やしたことを忘れちゃいけないヨ。今我々が無様な格好をしているのも一つの過程。時間を要すれば、また変化していくし、このような状況は以前にもあったことだ」と楽観的にエルゲラは語っている。

 どこからそんな余裕があるのかと思いながら新聞を読んでいた僕だったが、友人の言葉を考慮しながら、落ち着いて数々の出来事のその本質を探り始めた。



 例えばフィーゴ、ジダン。銀河系の選手とは言え、三十路を過ぎている両選手。欧州選手権を期に代表引退を宣言した背後には、レアル・マドリードに集中できるということを忘れてはいけない。シーズンオフのときに「去年の不調は試合数による多忙なスケジュールが原因となっていた」と漏らしていたジダン。代表のユニフォームを脱ぐことによって、少しでも精細を放つプレイが出来ることを彼自身が今シーズンに賭けていることが裏づけされている。

 また不調と呼ばれているラウール。ホーム、サンティアゴ・ベルナベウでの最後のゴールが今年の1月まで遡らなければならないことは確かだ。しかし『ラウール=トップ下』という公式だけでは分からないほど、ゴールから遠い位置で彼がプレーしていることを忘れてはいけない。貧弱な守備陣へ前から貢献するラウール。ロベルト・カルロス、ベッカム、フィーゴ、ジダンよりも後方部にいる姿を見慣れていたのは僕だけではない。事実、堅実なディフェンスを持つ代表戦では欧州選手権後、2試合半に参加して1点を決めいているし、フィニッシュが決まらないとはいえ、存在感が全く欠けるような試合は今シーズン、これと言ってまだみていない。ボールを追いながら闘志に満ちたあの眼差しを見れば、誰もがラウールを応援したくなるものだ。

 昨日のローマ戦。2点差をつけられながら誰もが勝算がないと諦めいてた、前半終了まで残り7分のところでラウールが1点目を決める。すかさずゴールまで駆け寄り、ボールを手にとってバモス!バモス!(いくぞ!)」とメンバーに叱咤かけながらセンターサークルまで戻るキャプテンの姿に、誰もが僅かな希望を再び見出した。

 後半に入り、ゲーム展開がガラリと変わる。レアル・マドリードの怒涛の攻撃が始まる。そして後半7分、PKをフィーゴがしっかりと決め同点に追いつく。このPKもラウールが2人の相手ディフェンスと競いあっているところを主審がプッシングと認め、ペナルティエリヤを指差した。

 そして後半25分に逆転するチャンスがおとずれる。試合前にラウールの不調について聞かれながら「ラウールが不調。冗談じゃないよ」と突っぱねていたフィーゴ。そのフィーゴがゴール前に滑り込んでくるラウールを予測していたかのように、右サイドからゴール前に蹴りこむ。次の瞬間、身体を崩しながらスライディングをする背番号7の足にあたったボールはゴールネットを揺らした。一瞬沈黙したスタジアムから、爆発の歓喜の声が湧き起こった。ラウールはしばらくフィーゴと抱き合いながら、この奇跡の瞬間を共感しあっていた。



 攻撃陣が賞賛を浴びる中、裏役をしっかりとこなしていたのがサムエル。古巣とのこの一戦。前半は瀕死な状態だったディフェンス陣だったものの、前半終了間際から少しずつ相手選手に威圧をかけるプレーが見られた。もちろん、場所と時間をわきまえながら蹴りを入れて相手を泣かせる。びびりながらサムエルに近づくローマの華奢な身体を持つ若者たち。こういう強い味方が今年のマドリードの後方部にいることは頼もしいことだ。

 さて汚名返上の後半。体勢を崩しながらもクリアーするエルゲラ。今夜も彼のユニフォームには泥がつきまくっていた。また時間が経つにつれてトッティ、カッサーノの姿が消えていたのも元チームメイトのプレイを熟知していたサムエルのお陰は少しはあるだろう。まだまだ本調子とは言えないが、エースキラーのサムエルと、対イタリアクラブチームとのこれからの対戦が楽しみとなった。

 またサムエルの最終ラインからロナウドへのロングキックが、幾度か相手のディフェンス陣を慌てさせたことは新しい収穫だ。最終ラインからボランチにボールが渡った瞬間にプレスをかけはじめようとしていたローマは、頭上を越えてロナウドのいる左サイドのスペースに蹴りこまれたロングキックに幾度か意表をつかれていた。頼もしい味方をつけたエルゲラも、これで仕事が少しは軽くなっただろう。それにしてもアヤラと言い、サムエルと言い、どうしてアルゼンチン人のディフェンス選手とはこうも硬派な人間が多いのだろうか。

 そんないぶし銀サムエルが次節チャンピオンズリーグに欠場するとは言え、落胆するのは少し気が早い。と言うのもマドリードは、まだウッドゲイトという新商品を披露していないのだから。「プレミアリーグでも屈指のディフェンスを持つ選手だ。きっと大きな戦力となるであろう」とラニエリ監督のお墨付きももらったウッドゲイト。機会があればウッドゲイトの入れ墨についても触れてみたい。
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