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 頑張れ!女子サッカー 04/08/13 (金) <前へ次へindexへ>

 なでしこジャパン、メリハリの効いた戦いで世界4位を一蹴!


 取材・文/西森彰
アテネオリンピック2004 グループE 日本女子代表(なでしこジャパン)vs.スウェーデン女子代表
2004年8月11日(水)18:04キックオフ ボロス 天候:晴
試合結果/日本女子代表1−0スウェーデン女子代表(前1−0、後0−0)
得点経過/[日本]荒川(25分)


 試合が始まる1時間前、ウォーミングアップ用のアイテムを手にして、ピッチに姿を現した上田栄治監督とスタッフに歓声が飛んだ。上田監督は小さく手を振ってこれに応えた。川淵三郎キャプテンをはじめ、日本サッカー協会の役員や、選手たちのご家族、同僚の皆さんがスタジアムの一角にリトル・トーキョーを作る。そのコメントを取ろうと各紙の記者がスタジアム内を飛び回る。ある選手のご家族の方がコメントを求めに来た記者の方におっしゃっていた。

「ここだけの話? マスコミの方々を前にして、そんなものあるわけがないでしょ?」



 スウェーデンは女子ワールドカップ当時と同じ4−4−2のシステム。日本はもうお馴染みになった変則スタイルの4−4−2。この日の日本は、左サイドにコンディションが良い小林弥生、山岸靖代が先発で登場した。後が無い両SBのガソリンをどう保たせるかが大きな焦点だったが、ただ攻め上がりを自重するだけでは、スウェーデンの前線を深く入り込ませてしまう。

 そこで日本は、リスタートを徹底的に遅らせ、時計の針を少しずつ進める作戦を取った。プレーが再開されたら、集中してボールを前に運ぶ。プレーが切れたら、ゆっくりと呼吸を整える。これを繰り返しながら、自分たちのリズムを作り上げていく。

 先制点はやはり右サイドからのボールだった。これを大谷未央が頭でワンタッチして、スウェーデンのDFライン裏にそらす。思わぬ軌道の変化に、一瞬、処理にもたついたGKヨエンソンのファンブルを、基本どおりにファーサイドから詰めていた荒川恵理子は見逃さなかった。フィフティボールの競り合いに勝って、無人のゴールマウスに流し込む。25分、なでしこジャパンが待望の先制ゴールを奪った。

 その後も日本は、4バックが勇気を持ってラインを高く保ち、波状攻撃を行なう。小林弥生のスルーパスで澤穂希が決定機を迎えるなど、終始、押し気味にゲームを進め、前半をリードしたまま折り返した。ボロスのスタジアムをホームに変えた日本からの応援団だけでなく、試合を見に来ていた地元の人たちからも歓声が上がった。



 後半、両サイドからの攻勢を強めてきたスウェーデンに対し、上田栄治監督は左SHを小林から安藤梢にリレーした。最終ラインの前で相手の攻勢を凌ぎ、あわよくばカウンターを見舞おうという作戦だ。スウェーデンのマリカ・ドマンスキ・リフォロス監督も、その1分後、アンデションを下げてショーストロームを投入。右サイドで先発していたショーグランを左に回して、マークのズレを狙った。

 ギアチェンジをしたスウェーデンが押し込む時間帯になった。日本は60分にも澤とのワンツーで抜け出した荒川が決定機を逸し、喉から手が出るほど欲しい追加点を奪えない。上田監督は足が止まりかけた荒川から丸山へ交代し、前線からのプレスを活性化させようとした。スウェーデンも全く消えていたリュングベリを諦めて、前線にオクヴィストを投入する。

 たくさんの横断幕が貼り出された日本のファンエリアの目の前を、途中出場のオクヴィストとショーストロームが幾たびも攻めあがる。上田監督は動きの固い安藤の緊張を解そうと幾たびか声をかけるが、なかなかゲームに入りきれない。前半はショーグランをほぼ完封し、スヴェンションに手を焼く下小鶴綾に加勢をするほど余裕のあった山岸も一杯一杯になりはじめた。

 前がかりになったスウェーデンは、残り5分、オルソンを入れた4−3−3の布陣に変形。上田監督も、安藤を諦めて本職の柳田美幸に交代し、攻撃の起点になっていたスウェーデンの右サイドに蓋をした。これでようやく勝敗は決した。電光掲示板に示される数字を見ながら「あと15分」「あと10分」と自分に言い聞かせていた日本のファンが、タイムアップの笛を要求する。ロスタイムの3分を消化した後、レフェリーが試合終了を告げた。



 日本にはいくつかの勝因がある。まずは、前半は受けに回ることが多いスウェーデンのチーム体質に乗じ、相手のエンジンがかからないうちにゴールを奪ったこと。最後のガソリン切れを恐れずに、右サイドの川上、左サイドの小林を積極的にサイド攻撃を行なったことが、試合のイニシアチブを自分の手に引き寄せ、荒川のゴールを生み出した。特に小林はシステム上、孤立しやすい左サイドの高めで持ち味のキープ力とパスセンスを遺憾なく発揮し、対面するショーグラン、マークルントの攻撃参加回数を減らした。

 もうひとつは、上田監督の難しい要求に応えて、最終ラインが高い位置で勝負したこと。スウェーデンの圧力が一際厳しくなった60分過ぎからは、さすがにゴール前を固める選択しかなくなったが、それまでは完璧だった。コンパクトな陣形を保ち、こぼれ球を拾ってつなげることができたのは、自分たちのサッカーを楽にし、終盤まで足を残すことになった。

 最後に、徹底的な牛歩戦術でボールデッドの時間を増やしたことだ。フリーキックの場面では、一番ボールに近い選手がゆっくりとセットし、次の選手が蹴る素振りを見せながら、さらに後ろの選手に任せる。これを、キックオフからチーム全体で徹底した。リードを奪う前から行なっていたことは、ゲームの終盤で、レフェリーから遅延行為に対するカードを出しにくくさせる効果にもつながった。

 それにしても本当に強くなったものだ。ジャイアントキリングの際に良く見られる「決定力の差」ではない。両チームが得た得点機会の数を照らし合わせれば、もう少し点差が開いていてもおかしくなかった。そんな圧勝劇を世界4位のスウェーデンを相手にやってみせたのだ。国立霞ヶ丘陸上競技場で、それまで7連敗していた北朝鮮を破った時は「奇蹟」の文字が踊った。今日のゲームを見た人間は、誰もそんなことは思わないだろう。普通に強いチームが勝っただけだ。



「エリコ、アラカーワ!」といった具合で、試合終了まで応援してくれたボロスの人たちが、ツアー客の日の丸を欲しがったのでプレゼントしてもらった。すると「記念に何か書いてくれ」。僭越ながら汚い文字で上田監督の言葉を代筆した。

「メダル奪取!」

 さんざん、周りに囃し立てられながらも、メダルの前に「金」の一文字を書き加えなかったのは、上田オリジナルへのリスペクトと、ともすれば舞い上がりそうな自分への戒めからである。


(日本女子代表) (スウェーデン女子代表)
GK: 山郷のぞみ GK: ヨエンソン
DF: 川上直子、磯崎浩美、下小鶴綾、山岸靖代 DF: マークルント、ウェストベリ、トゥエルンクヴィスト、ベンクトソン
MF: 酒井與惠、宮本ともみ、小林弥生(56分/安藤梢、85分/柳田美幸)、澤穂希 MF: エステベリ、ショーグラン(84分/オルソン)、モストローム、アンデション(57分/ショーストローム)
FW: 大谷未央、荒川恵理子(66分/丸山桂里奈) FW: リュングベリ(68分/オクヴィスト)、スヴェンション
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