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 頑張れ!女子サッカー 04/08/16 (月) <前へ次へindexへ>

 あまりにも大きかった中2日のビハインド。


 取材・文/西森彰
アテネオリンピック2004 グループE 日本女子代表(なでしこジャパン)vs.ナイジェリア女子代表
2004年8月14日(土)18:04キックオフ アテネ 天候:晴
試合結果/日本女子代表0−1ナイジェリア女子代表(前0−0、後0−1)
得点経過/[ナイジェリア]オコロ(55分)


 初戦のボロスも暑かったが、この日のカライスカイキスタジアムの暑さは尋常ではなかった。スタジアムの陽があたる部分では、座っているだけで気が遠くなりそうになるほどだ。スタジアムのドリンクコーナーでは、来場者が先を争ってペットボトルを買い求める。この気象条件が、長距離移動を含む中2日のハードスケジュールで臨む日本に、重くのしかかった。



 この日の日本は確かにツイていなかった。レフェリーの笛が微妙に、ナイジェリアサイドに流れた。レート気味のタックルはファールを取らず、日本のトリッキーなリスタートはポイントを戻してやり直し。決して悪意のあるジャッジではなかったが、この判定基準も体力差を考えると日本に大きな足かせとなった。

 さらに宮本ともみがハードタックルで負傷して前半20分という時間で退場させられてしまう。代わりに入った柳田美幸は、アジア予選直前のJヴィレッジ福島合宿で宮本のパートナーを酒井與惠と争っていた選手。開幕戦同様、難しい時間帯でピッチに入ることになったが、すんなり溶け込んで大きく破綻することは無かった。だが、ただでさえスタミナ面でビハインドを背負っている日本にとって、この浅い時間での選手交代は大きな負担になった。

 何度も書いているが、矢野喬子の負傷が尾を引く今の日本は、SBの控えが薄い。その第一候補である柳田は、宮本の負傷で引きずり出された。日本はスウェーデン戦と同じように悉くリスタートに時間をかけた上、前半は山岸靖代、川上直子の両サイドは攻め上がりを自重してスペースを埋めた。しかし、ナイジェリアはガードを固める日本のサイドの裏に、徹底してボールを蹴り続けた。これがナイジェリアのタクティクスだった。



 ゴール裏に陣取ったナイジェリアのファンに対し、バックスタンドに陣取った日本のファン。その日本エリアの前列で、ナイジェリアの選手たちにやかましく指示を送っている人間がいた。アフロ・スポーツ・プロモーション(ナイジェリアの育成機関)のハインツ・マロツキ氏だ。特にバッチュとオコロに何度も何度もポジショニングを指示する。「外に開け! そこで勝負しろ! そう良い子だ」。

 大声を出す彼の指示は、日本サイドの声援にかき消され(その度にマロツキ氏は『ヤマモト、ヤマモト』と悪態をついた)3分の2くらいしか選手たちには届かなかったのだが、その指示内容からもナイジェリアの狙いは明確だった。1トップのヌオコチャ、その後ろにいるアキデをフォローする2人を外に開かせ、そのスピードを最大限に生かす。

 技術的に高いものがあるようには見えず、マイナスのパスを折り返しても、自分のタイミングで蹴れない限り、弱いボールだけ。フリーにさせなければ大丈夫だが、この「フリーにさせない」というのが恐ろしく難しい。サイドに1人、中央に1人しかいなくても、スピードで振り切られる可能性があるので、常に4人が戻らされる。

 両SBを低く位置させ、体力を温存させようとした日本だったが、この攻撃でそのガソリンを消費させられた。最終ラインを上げる度に、その後ろへボールを入れられ、疲労の蓄積から、FWまでのエリアが間延びさせられていく。日本が目指すコンパクトなサッカーが消えていった。広いスペースが各所で1対1のスピード比べを生み、ピッチ上の選手全員からスタミナを奪っていった。



 55分、ヌクウォチャが物凄いスピードで右サイドを駆け上がった。「危ない」と思った瞬間、中央で待ち構えていたオコロが、日本のゴールへグラウンダーを流し込む。勝ちパターンは先行逃げ切りの日本とナイジェリア。展開上、勝敗を分けるに等しい先制点がナイジェリアにもたらされた。

 残り15分でエースのアキデが足を攣って交代したようにナイジェリアの選手たちにもダメージはあった。しかし、肉を切らせて骨を絶つこの戦いは、中2日の日本の息の根を止めた。日本がスウェーデンを研究したように、ナイジェリアも日本を研究していたのだろう。我々に向けてガッツポーズする仕草が、なんとも小憎らしいマロツキ氏だったが、この日は素直に負けを認めておこう。

 メキシコが中国に引分け、日本がスウェーデンを破り、ナイジェリアに敗れた。女子サッカーの世界では勢力図が目まぐるしい速さで移り変わっている。それは逆に言えば「ほんの少しの努力」が大きな差につながるということだ。日本がそうであったように、ナイジェリアサッカー協会がこのように力を入れてくれば、この先、大きなチャンスを得るはずだ。



 日本の上田監督は失点後、後ろの枚数を削って攻撃タイプの選手を増やし、ゴール前に放り込んでからの混戦に活路を見出そうとしていた。テレビで観戦していた諸兄には、もう少しバランス良い選手交代でゴールを目指してほしかった方もいらっしゃるかもしれない。だが、中2日であの気象条件では、きれいに崩そうにもスペースに走れる選手がいない。サッカーの美しさではなく、ゴールの可能性だけを問うのなら、あの選手交代は妥当だった。

 強いて言うなら、この日も再三に渡る好パスでチャンスを演出した小林弥生が下がった後、ナイジェリアを脅かすラストパスの出し手が失われてしまったことだ。山本絵美のケガが軽いものなら(あるいはセットプレーを温存しているのでなければ)、もう少し早めの投入もひとつの選択肢だった。

 皮肉にもこの日のナイジェリアはマンマークでの守備だった。日本の選手がフレッシュな状態であったなら、スペースを作るサッカーでさらにチャンスを掴めたはずだ。それでも大谷未央に幾度かビッグチャンスが訪れ、澤穂希のシュートがナイジェリアのゴールを襲った。日本にも幾度か勝機が訪れたのだが、運の無い日はこんなものだろう。



 2位で抜けると、間違いなくターンオーバーして首位通過してくるであろうドイツが相手。3位ならグループリーグで3試合戦った後のアメリカだろう。試合の終盤には、同じ負けるのならばいっそ3位になったほうが良いとまで思った(中国VSメキシコの途中経過は知らなかったが、ドイツがメキシコに8点取られるとは考えにくい)。

 しかし、我に返って勝ち点を計算し直してみると、最終戦でスウェーデンがナイジェリアに1対0で勝ってくれればフェアプレーポイントで1位抜けになる。またそれ以外のスウェーデン1点差勝ちなら3位抜けでドイツを避けられる。結果オーライで1位抜けができれば、この日のハードラックなど安いものだ。

 上田監督はじめ、日本チームの各員は、ドイツ相手に女子ワールドカップ(0対3で敗戦)以来の成長をぶつけるよう、開き直っているはずだが、ピッチ外の人間としては適度にスウェーデンを応援しながら、吉報を待つことにしよう。






(日本女子代表) (ナイジェリア女子代表)
GK: 山郷のぞみ GK: デデ
DF: 川上直子、磯崎浩美、下小鶴綾、山岸靖代(84分/山本絵美) DF: クダイシ、ヌウォス、イキディ(81分/サビ)
MF: 酒井與惠、宮本ともみ(20分/柳田美幸)、小林弥生(60分/丸山桂里奈)、澤穂希 MF: エゼ、クポ、ママドゥ、バッチュ
FW: 大谷未央、荒川恵理子 FW: アキデ(76分/アメー)、ヌクウォチャ、オコロ
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