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 頑張れ!女子サッカー 04/08/21 (土) <前へ次へindexへ>

 なでしこジャパン、テッサロニキに散る。


 文/西森彰
アテネオリンピック2004 準々決勝 日本女子代表(なでしこジャパン)vs.アメリカ女子代表
2004年8月20日(金)18:00キックオフ テッサロニキ 天候:晴
試合結果/日本女子代表1−2アメリカ女子代表(前0−1、後1−1)
得点経過/[アメリカ]リリー(43分)、[日本]山本(48分)、ワンバック(59分)


 アジア地区予選前の福島Jヴィレッジ合宿。全体練習終了後、上田栄治監督は山本絵美を呼んでボールを渡し、ペナルティボックスの角に立った。

「俺が立っている位置でスペースを潰しているDFを越して、ゴールキーパーに向かうボールを蹴ってみろ。俺の頭上を越しさえすれば、誰かが触ってゴールだ」

 後半立ち上がりの48分、日本が得たフリーキックは、ややゴールから遠いものの、あの時と同じような角度。ボールをセットした山本絵美は、アメリカのGKスカリーに向かっていくボールを蹴っていった。それまでファーサイドの宮本ともみを狙ったボールが続いていたことで、幾分、ニアサイドのDFは集中を欠いていたかもしれない。さらに、ワンテンポ早く飛び込んだ大谷未央の動きがアメリカの守備網を幻惑した。僅かに生じたスペースにエースの澤穂希が飛び込む。アメリカの選手たちはボールがゴールネットを揺らすまで、ただ見送るしかなかった。

 これまで2年間、ワールドカップ、オリンピックと付随する地域予選の中で、リードを奪われると追いつくことができなかった日本女子代表。その彼女たちが、決勝トーナメントという真剣勝負の中で、世界ランキング2位のアメリカに追いつくゴールを奪った。上田栄治監督とともに歩んだ、なでしこジャパンの集大成となるゴールだった。



 日本女子サッカー史上初めて臨むオリンピック決勝トーナメント。対戦相手は二転三転した挙句、アメリカ女子代表に決定した。日本の上田監督は相手の高さを警戒し、ナイジェリア戦で負傷した宮本ともみを強行出場させた。そして最終ラインの左に矢野喬子、左SHに山本を今大会初めて先発させる。北朝鮮戦と全く同じ布陣。ベンチには丸山桂里奈をはじめ、小林弥生、柳田美幸、安藤梢、山岸靖代と途中出場で仕事ができる選手が揃った。

 親善試合では出足鋭く戦う日本がペースを握ったが、この日はアメリカが主導権を奪った。2トップのワンバックのフォローをトップ下のタープリーに任せ、ミア・ハムがサイドに流れてゲームを作る。それも5分過ぎから、川上直子の守る日本の右サイドに侵入してきたため、日本は得意の右からの攻撃を封じられてしまう。押し込まれる展開の中で、安全第一にプレーする日本だが、これは逆にアメリカの波状攻撃の呼び水になる。ベンチの吉田弘ヘッドコーチからは「慌てないでしっかりつないでいけ!」という指示も出た。

 しかし、トップスピードで立ち上がったアメリカも徐々にペースダウン。日本にもチャンスが出てきた。日本は30分、カウンターから一度戻して、山本絵美が左から大谷未央のヘディングシュートを演出した。シュート自体はゴールを脅かすほどのものでは無かったが、形を作られたアメリカの最終ラインが下がり始める。日本の選手が前を向いて勝負できるようになった。次々にセットプレーのチャンスを得て、これを山本がファーサイドの宮本を狙って上げる。流れは日本に来ていた。

 アメリカはここで踏ん張った。左サイドのリリーが、日本選手たちのチェックを力でねじ伏せて突破し、ペナルティボックスに侵入する。日本は2人がかり、3人がかりで突進を止めるが、リリーは決してボールを離さず、ゴール前まで持ち込む。頭上に舞い上がったボールをキャッチに出た山郷のぞみが、アメリカの選手と交錯してファンブルするところを、リリーが押し込んだ。43分、ようやくアメリカがゴールを奪った。



 後半、矢野から山岸と左サイドをリレーし、最終ラインにスピードを補充した日本は、右サイドの川上がポジションを上げ、逆襲に転じる。そして川上のドリブル突破がアメリカDFのファールを誘い、冒頭に書いた山本のFKからのゴールで追いついた。その後も苦しい時間帯に敢えて勝負を仕掛ける日本は、一人一人がきっちりとポジションをとって、ダイレクトパスでアメリカの守備をかいくぐる。ここで1点が入っていたら、まだゲームは分からなかった。

 そして運命のFKを迎える。59分、左サイドにボールをセットしたミア・ハムが、ゴール前にロビングを上げた。日本はキックの直前、思い切ってオフサイドトラップをかける。ボールサイドにいた3人の選手は完全にオフサイドの位置だった。だが、ボールが向かったのは、ファーサイドの微妙な位置から走りこんだボックスへと渡った。副審のフラッグは上がらなかった。完全なオフサイド崩れでフリーな選手が4人。山郷にはノーチャンスだった。

 再びリードを奪ったアメリカは、ここから鳥かごにかかる。前半の間延びしたフォーメーションに近くなったが、後半のそれは意識的なもの。人と人の間隔を広げ、強いキック力に裏打ちされたサイドチェンジで日本の選手たちを翻弄した。ボールそのものが奪えない日本は、山本に代えて柳田、川上に代えて丸山とボールを追いかけられる選手たちをピッチに入れる。だが、前半から長い距離を走らされていた選手たちは、このチェックに呼応できない。アメリカの巧みなゲームコントロールの前に、再び追いつくことはできず、タイムアップの笛を聞いた。



 なでしこジャパンは、序盤のアメリカの猛攻を良く耐え、ゲームを壊さなかった。前半終了間際の失点にも気を落とさず、ハーフタイムの積極的な選手交代に背中を押された、後半の反撃は見ごたえがあった。リードされると追いつく術の無かった選手たちが、世界的な強豪から同点ゴールを奪い、試合終了までゲームを捨てず、僅差の勝負を演じたあたりは、確かな成長の証だろう。

 その一方で、アメリカとの明らかな実力差が存在していたのも事実。前半の失点シーンのように、2人3人がかりのプレスでも、強いフィジカルで抜けられるシーンが目に付いた。また、終盤、長いボールを蹴ってサイドチェンジができたアメリカに対し、消耗しきっていた日本は前線へのフィードさえもままならなかった。できたこととできなかったことを、それぞれの立場できちんと整理・検証して、今後につなげることが重要だ。

「アテネの地で『なでしこの花』をしっかり咲かせたい」と語っていた上田監督。今回は八分咲きで終わったかもしれない。だが、テッサロニキで蒔かれた種が新たな花となり、次なる機会に満開の姿を見せてくれることを信じている。

 なでしこジャパンのスタッフ、選手の皆さん、お疲れ様でした。


(日本女子代表) (アメリカ女子代表)
GK: 山郷のぞみ GK: スカリー
DF: 川上直子(77分/丸山桂里奈)、磯崎浩美、下小鶴綾、矢野喬子(47分/山岸靖代) DF: ランポーン、フォウセット、マークグラフ、チャスティン
MF: 酒井與惠、宮本ともみ、山本絵美(分/68柳田美幸)、澤穂希 MF: ボックス、フォウディ、リリー、タープリー
FW: 大谷未央、荒川恵理子 FW: ミア・ハム、ワンバック
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